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【全国大学選手権】ハドルの中の熱。近大、スタンダードを高めて早大戦へ
チームを牽引する中村志主将。161センチ、80キロのハードタックラー。(撮影/松本かおり)

【全国大学選手権】ハドルの中の熱。近大、スタンダードを高めて早大戦へ

田村一博

 人生を支える1か月だ。
 12月21日、秩父宮ラグビー場で全国大学選手権の準々決勝を戦う近畿大学ラグビー部は、11月下旬から、緊張と充実、不安、そして友情が入り混じった濃密な時間を過ごしてきた。

 準々決勝では関東大学対抗戦Aを制した早大と戦う。
 関西大学Aリーグの3位だった近大にとってはビッグチャレンジだ。3回戦では福岡工業大に74-12と快勝した。その勢いのまま、名門校を倒したい。

 決戦を控え、チームは前日に大阪でチームランを終え、東京へ移動。神本健司監督は選手たちの様子について、「いつも通りであり、いい状態」と話す。
 心身の充実が伝わる。

チームを指導して18年の神本健司監督。現職3年目。(撮影/松本かおり)


 今季の近大は関西大学Aリーグで5勝2敗。天理大(優勝)に勝つビッグゲームを披露する一方で、関西大(8位)に敗れるなど、不安定なところも見せた。
 しかし、勝った方が全国大学選手権出場となる最終戦(対 関西学院大)に勝つ勝負強さを発揮した。

 その試合の前から、チームは「負けたら終わり」の空気の中で集中力と結束を高めてきた。
 11月30日の関西学院大との決戦前日、東大阪市のグラウンドでは中村志(こころ)主将を中心としたチームランがおこなわれた。

 中村主将は161センチと小柄な体躯ながら、ハードタックルと抜群のリーダーシップで選手たちの意志を束ね、チーム力へ結びつける人だ。
 神本監督も「彼がいなければ、このチームはなかった」と信頼を寄せる。

 真住中でラグビーを始め、大阪桐蔭へ進学。同校でも3年時には主将を務めている。
 ただ、その時は花園出場を逃した。

 高校時代の悔しさは、リーダーを任された今季の自分の振る舞いに生かされた。
 大学入学後、フッカーに転向した。体重も増やし、努力も重ねた。しかし、ウエートが増えたことで本来の強みだった運動量が落ち、スローイングに悩んだ。結果、3年生の途中からフランカーに復帰した。

11月29日のジャージー授与式。左上から、気持ちを高めた部員たち、中島茂総監督、関西学院大戦のメンバーに選ばれた選手たち、部員間でジャージーとメッセージの交換。(撮影/松本かおり)


 フッカーだった3年の春はDチーム。フランカーに戻った夏は、Cチームからのスタートだった。
 そこから這い上がって、最上級生になってキャプテンに指名された。

 そんな歩みを持つ主将だから、Aチーム以外のメンバーの気持ちをよく知っている。
「高校3年生でキャプテンをやった時、勝つことしか考えていなくて、チーム全体のことを考えていなかったと思います。でも大学に入って試合に出られず、周りの同じ境遇の選手たちと一緒にいて、Bチーム以下の気持ちが分かった」

 主将になって、チームの勝利を考えながらも、試合に出られない選手たちのことを決して忘れなかった。
 声を掛けて一緒に練習をしたり、下級生と話した。
 俺たち同じチームやで。行動や言葉から、そんなメッセージを読み取った部員は少なくないだろう。

 だから中村主将は、「試合をしている時、チームの全員が応援してくれていることをすごく感じます」と言う。
 ビッグゲームに向かう準備の日々に漂う空気や、試合前日のジャージープレゼンテーション時に選手たちから出る言葉や表情から、仲間への愛が溢れる。
 このチームが好きです。
 他の選手の分もプレーします。
 そんな言葉が、自然と1人ひとりの選手の口から出るチームになった。

 神本監督が中村主将のリーダーシップについて話す。
「3年生の途中からフランカーに戻り、ジュニア戦でプレーしていました。彼が出ると、周りの選手たちもいつもの1・5倍ぐらい動いたんですよ」
 率先して動く。的確な声。闘志に火を点ける言葉。天性のものだろう。

関西学院大戦でインターセプトからのトライと、トライを呼ぶグラバーキックを蹴ったSH渡邊晴斗。報徳学園時代は控えも、いま輝く。(撮影/松本かおり)


 そんな影響力があったから、3年時の公式戦、第4節以降は常時試合に出るようになり、今季も開幕から大学選手権での初戦まで、全8試合に先発出場し、そのすべての試合で80分プレーしている。

 自身のタックルについて、技術的には低さを意識しているという主将は、それより「気持ち」が芯にあると話す。
「チーム全員が応援してくれる前で引くことは、絶対にできない。勝手に体が動きます」
 そして、「タックルが好きです。それがなかったら生きていけない」と付け加えた。

 その存在の大きさを伝えながらも、神本監督は、主将、リーダー陣を中心とした4年生たちの影響力が今年のチームの強さを支えていると感じている。
 コーチ時代も含め、18年にわたってチームの指導に関わってきた。その中でも、「これほどコミュニケーションが取れていることはなかったかも」と話す。

「選手たちがハドルを組んだとき、自分が気づいたことを言おうと思うと、そのことを選手たちが先に言うチームになっています。自分たちで問題点に気づき、修正する。そんな力をつけている。それがあるから、勝ち進めていると思っています」

 練習でも、試合でも、その時に起こったことに対し、選手たちで判断し、動けるチームになった。
 それを実証したのが、大一番の関西学院大戦だった。

 拮抗した展開が続く中、リードされても、引き離されそうになっても、決して離されず、最後は勝ち切って(29-22)全国行きの切符を手にした。
 ラインアウトはもともと武器にしていたが、あの緊張感ある中で精度高くプレーできたのは、各局面でチーム内の判断が正しかったからだ。
 その日、近大が奪った4トライは、すべてラインアウトからだった。

関西学院大戦で決勝トライを奪ったCTB藤岡竜也。(撮影/松本かおり)


 その試合後、神本監督は「学生たちが日々厳しく取り組んできたからつかみ取れた勝利。彼らと大学選手権でラグビーができる」と話した。
 中村志主将も、「しんどいことをやりながらも、冷静に戦う準備をしてきました。それが(接戦の中で)生きた」と話した。
 ふたりの言葉からは、このチームでの活動が続くことへの喜びが感じられた。

 関西学院大戦の前日にも、チームランのあとに試合出場メンバーへのジャージープレゼンテーションがおこなわれた。その日のものは特別だった。
 いつもは監督から一人ひとりに渡されるスタイルも、その日は同じポジションのライバルや先輩、後輩など、当人と縁深い人からジャージーを贈り、渡す方も、出場する選手も、それぞれ思いを言葉にして部員全員に伝えた。

 もっとこのチームでプレーがしたい。
 自分は大学でラグビーはやめるけど、明日を最後にはしない。
 中村主将も、「絶対にこのチームを終わらせない」と誓った。

 全国大学選手権に入り、試合前日の儀式は通常のものに戻った。しかし神本監督の目には、選手たちの落ち着いた姿が映っている。
 いい意味で、いつも通りに戦いの中にいる。チームのスタンダードが上がっている。

 福岡工業大戦を終えた2日後、チーム全体でミーティングをおこなった。
 滅多にない関東の強豪校との対戦。聖地・秩父宮での決戦。相手は伝統校。それぞれの要素について、部員たちがどういう意識を持っているか問いかけながら、「持っている力を出し切ることが何より大事。そのマインドセットで戦いに臨もう」と意志統一した。

「キャプテンに言葉に対して周囲の動きが良くなっている」と監督が言う。自然体も、集中力が高まっている。
 この感覚。この1か月の経験。そして、早大との決戦で得る結果と、試合終了時に溢れる思い。
 忘れることはない。

WTB植田和磨は頼りになるランナー。関西学院大戦でも効果的に前進。(撮影/松本かおり)


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