Keyword
1シーズンでディビジョン1へ。
ターゲットをそう定めて臨んだ2023-24シーズンは、思うような結果を残せなかった。
まもなく開幕するリーグワン2024-25をディビジョン2で戦うNECグリーンロケッツ東葛は、今度こそかつて戦っていた舞台にもう一度這い上がるため、入念に準備を重ねている。
同チームで直近の2シーズン、もっとも多く1番のジャージーを着てきたのが山本耕生(こうせい)だ。
桐蔭学園から明大に進学し、紫紺のジャージーを着ても活躍。2022年度にグリーンロケッツに加わった。
過去2シーズンで21試合に出場と、すでにチームにとって欠かせぬ戦力となっている(入替戦4試合を含む)。
昨季は全14戦(入替戦2試合を含む)のうち13戦に出場し、そのうち11試合で1番を背負って先発した。
そんな実績も評価されて3シーズン目の今季はバイスキャプテンに指名され、チームの中枢に立つ役目も担った。
今季こそディビジョン2から抜け出すミッションを果たしたいと、強く思っている。
チームは昨シーズン終了後13人が引退や移籍で退団し、大きく陣容が変わっている。
「その中でも大きく違うのは、マノさんやフミさんという、大きな力を持っていたプレーヤーがいなくなったこと」と言う。
日本代表キャップ20を持ち、昨季主将を務めていたレメキ ロマノ ラヴァ(現在、三重ホンダヒート)と、日本代表キャップ75を持つ田中史朗(現在、グリーンロケッツアカデミーディレクター)。国際舞台を多く踏んできたその2人がいなくなった。ピッチ内外で痛手なことは間違いないだろう。
ただプレシーズンを戦って山本が感じているのは、大駒が抜けたことへの悲観でなく「自信」と話す。
「力があるプレーヤーが抜けたからこそ、他責でなくて、それぞれが自分の責任として、ディビジョン1に上がることを目標にしていることが伝わってくる」のが、その理由だ。
「強い選手を頼るのではなく、自分がこのチームを上にあげる。そう思ってプレーする」マインドは、プレースタイルの変化にも表れている。
例えば昨季までは、試合の中でも自然と、ステップでもパワーでも前へ出られるレメキにボールを集めがちだった。
相手もそれが分かっているからマークしてくる。
その攻防の中で、それでもエースが前に出られれば勝てるし、封じられれば沈黙する。そんな傾向があったことは否めない。
ディビジョン1昇格を懸けたリコーブラックラムズ東京との昨季入替戦は21-40、0-55の完敗だった。
特に2戦目、レメキが「何もできなかった」と話した80分では大敗。チームとして戦えていないことが如実に伝わった試合だった。
それは少なからず、選手たち自身も感じていたことだ。
だから山本は、新シーズンへの準備期間の中で、チームが変わり始めていることが嬉しい。
「人に頼ったプレーでなく、集団として戦うプレースタイル」への転換が進んでいることを体感している。
ただ「それを、シーズンを通して毎試合磨き続けることが大切」と考える。
プレシーズンに戦った5試合の成績は3勝2敗。ディビジョン1のトヨタヴェルブリッツと浦安D-Rocksには、それぞれ24-45、26-38と敗れた。
しかし浦安D-Rocks戦後に周囲の選手たちと話した時に出たのは、「自分たち、強くなっているよね」との実感のこもった言葉だったという。
「その感覚は、入団3シーズン目で初めてのものでした」と言う。
「それがすごく嬉しかった。でも上にあがるには、まだまだ力が足りないと思います」
シーズンの中で、その手応えをさらに大きくしていく必要があると理解しているのも頼もしい。
自分たちのスタイルが確立されつつあることも、自信が芽生えた要素のひとつになっている。
今季はSOにウェールズ代表キャップ22を持ち、スーパーラグビーのハイランダーズ(2024年シーズンに6戦出場)でも活躍したリース・パッチェルが加わった。
経験豊富な司令塔の存在により、キックで敵陣へ。整備の進んだディフェンス時、フィジカルファイトで勝ち、ペナルティを獲得。得点ゾーンに入り、FWで取り切る。
「教科書通りのスタイルかもしれませんが、それを自分たちのものとして高めていけたら、と思っています」
今季バイスキャプテンを任されたことには、本人も驚いたという。
「選手人生で初めての役職です。いままで人の上に立つことはなかったので、自分もびっくりですが、周囲からも大丈夫か、という声が多かった」と笑う。
実際にそのポジションに就いて気づくことがあった。
「自分は言葉で引っ張ることが苦手っぽいんです。それより、試合の大事な局面でしっかり体を当ててチームも前へ。そういう存在になっていけたら、と思っています」
新しい領域へチャレンジすることについて、「すごく勉強できるシーズンになる」と感じている。
主将のニック・フィップス(SH)は豪州代表キャップ72を持ち、抜群のキャプテンシーを発揮してくれる。共同副将のマリティノ・ネマニも(CTB)同様にチームを牽引する意識が強い。
そんな人たちとリーダーチームを組むのだ。刺激がいっぱいなのは当然だ。
こんなことがあった。
プレシーズンマッチが終わったあとのこと。着用していたジャージーを、みんなが床に置いてあるビニールの袋に、ばさばさと入れていたら、キャプテンが言った。
「テーブルの上に広げて片付けることにしないか」
自分たちのチーム、そのシンボルでもあるジャージーの誇りと忠誠心が伝わる言葉。シンプルだけど、キャプテンの思いがみんなに共有された瞬間だった。
「ニックは日本人のファンのことも大事にするし、社員選手のことをリスペクトしてくれるんです。仕事とラグビーを両立することの大変さをすごく尊重してくれていて、(業務を考えて)スタッフ陣と時間の折り合いをつけてくれることもある」
山本自身は将来の人生設計も考え、今年7月にプロ選手として活動する決断をした。
自身のコンディションを整える時間も増えたほか、ラグビー一本で勝負するとした覚悟が、自分から甘えを消し、芯を通してくれた気がする。
大型化するフロントローの中で、173センチ(105キロ)は小柄も、独自の理論で対抗する。
「小さいし、体重も軽いので、ヒットスピードと低さを重視しています。普通の一番の組み方じゃないと思うので、相手はやりにくいでしょう。でも、相手がそう思ってくれたら僕の勝ち」とこだわりを口にする。
低さの原点は高校時代にある。
現在、東京サントリーサンゴリアスに所属する強力スクラメイジャー、細木康太郎は桐蔭学園の同期でチームメート。1人で2人を相手に組み、耐えるメニューに取り組む際、相手に細木がいることもあった。
そんな時でも、極限まで低く組めばなんとかなった。
その経験がいまに生きている。
新シーズンについて「鍵になる年」と言う。
「2025年は26歳になります。プレーヤーとしてそろそろ完成させなきゃいけない。このチームでリーダーシップを認められるとともに、(同じプロップの)タッキーさん(瀧澤直)みたいなグリーンロケッツの顔になって、その先に、日本のラグビーファンにも認知されるような存在になれたらいいですね」
そのためにも、「ディビジョン1に行かないと何も始まらない」のである。
今年は絶対に這い上がる。