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早いもので2024年も、もう12月だ。国立競技場では早稲田大学が伝統の早明戦を制し、対抗戦1部全勝優勝を飾った。
すでに何回かジャストラグビーでもその結果をお伝えしてきたトップイーストリーグも終盤を迎えている。
この日はBグループ暫定2位のクリーンファイターズ山梨(以下山梨)が大塚刷毛製造(以下大塚)と対戦。ここで勝ちを収めれば山梨はBグループ2位が確定し、上位との入替戦へと駒を進められる。
一方の大塚は、ここまで5位で下位との入替戦は確定してしまっている。しかし、前節ではライオンファングスを破り、ようやく今季初勝利を挙げた。ここへきてようやくチームの歯車が噛み合ってきた印象だ。ここは山梨を食って入替戦への勢いをつけたいところだ。
トップイーストは、企業の実業団形態のチームと、地域クラブチーム形態の、混合のリーグである。リーグワンがプロリーグ的な色合いを指向している今、ラグビーというスポーツに理解のある企業の代表が集うリーグ、という言い方をしても差し支えないかもしれない。
大塚刷毛製造もその1社だ。「刷毛」という誰もが人生で1度はお世話になったことのあるであろう道具に特化した企業で、その歴史は古く、創業は1914年、第一次世界大戦が始まった年だ。それ以来受け継がれてきた伝統の技は、東京都伝統工芸士にも認定されるなど高く評価されている。
筆者もホームページを覗いてみたが、刷毛の歴史や雑学が学べてなかなか楽しいコンテンツだ。
一方の山梨は、元々は株式会社東京染洗機械製作所の山梨工場のチームが母体だ。「トーセン」という愛称を覚えているファンもいるのではないだろうか。そのトーセンから2019年に一般社団法人として地域クラブ化したのが今の山梨だ。
トーセンは今でもグラウンドスポンサーとして練習場所を提供している。ユニフォームの袖にはTOSEN100と書かれた同社の100周年記念のロゴが貼られていて、こちらも老舗企業と良好な関係が続いていることが伺える。
さて試合のほうをみてみよう。
ホーム&アウェー方式のトップイーストBグループ、山梨と大塚はすでに10月に山梨ホームの試合で対戦、その時は60-7と山梨が大勝した。ただ、リーグ戦も終盤となると各チーム怪我人などの事情で顔ぶれも変わってくるので、蓋を開けてみないとわからない。
この日も山梨はSHに秋本要(山梨学院大学)が出場、うれしいトップイースト公式戦初キャップとなった。
秋本は山梨学院大学を今年卒業、そのまま山梨で情報通信サービスをてがける株式会社フォネットに就職したフレッシュマンだ。
その秋本がブレイクダウンから出したボールをLO池田→SO清水→FL蘆立→WTB飯山とつないでトライ。
山梨と言えば大型の外国人選手が相手にとっては脅威で、この試合も190センチを超える外国人が5人メンバー入りしていた。
しかしここは外国人云々ではなく鮮やかな展開で日頃の練習の成果を発揮して見せた。チームに理解を示すトーセンのグランドあってのトライとも言えよう。
しかし直後に大塚も反撃に転じる。CTB山根雄矢(法政大)がギャップを突いて一気にゲインすると、ブレイクダウンを一回挟んで最後はHO鈴木星満(山梨学院大)が飛び込んだ。キックも決まり5-7と逆転。
この失点で山梨のエンジンがようやくかかった。18分には盛田気(大東文化大)、29分、31分にはベイタタ ・ワイブイトアニケレ(立正大)が立て続けにトライ。前半を31-7で終えた。
会場となった臨海球技場は、こう言ってはなんだが、かなり窮屈なレイアウトで、タッチラインの1〜2m先にネットがあり、そこにファンがかじりついて観戦することができる。観戦も無料なので、ある意味ファンには優しいグラウンドとも言える。
「がんばれよ!」
ハーフタイム、ネット越しに声援が選手の背中に届く。大塚の社員なのだろうか。いつも職場で机を並べる同僚が巨漢の外国人選手に臆することなくタックルにゆく姿を見せられては、声を出さずにはいられない。決して大観衆と言える人数ではないが、温かい声は試合終了まで続いた。
そんな声援に突き動かされたのか、後半の先制は大塚、ゴール前のブレイクダウンで執拗にフェーズを繰り返し最後はまたしてもHO鈴木が押し込んだ。
「フィジカル面の強い相手に対してもしっかりDFできる時間が増えたことは成果」と今西裕監督が試合後コメントした通り、大塚が粘りを見せる。
後半15分まで10点差と体格差のある山梨に対し健闘したと言えるだろう。
しかし、山梨もここからは大型FWが本領を発揮し、マパカイトロ・パスカ(立正大→神戸→ホンダ)、ヘンリー・スミス(豪セントジョセフナッジーカレッジ)という190センチオーバー組がトライ。さらに富士急行に勤める蘆立公宏(東海大)が突進で1本。秋本から代わったSH川村健斗(山梨学院大)は2本決めた。
川村は山梨学院卒業後、一旦秋田ノーザンブレッツに入団するが今シーズンから山梨に「Uターン就職」し山梨に合流した。こちらも普段は山梨中央銀行に勤める銀行マン。山梨の経済界を支える企業戦士たちが躍進する。
実のところ、山梨という地域はそもそも人材不足が課題の地域。元気なスポーツマンの新人はウエルカム、という企業も少なくなく、ラグビー選手を受け入れてくれる土壌はあった。
ここ数年チーム関係者の努力もあり、チームは選手獲得、地元企業は人材確保、選手たちはプレーできる環境を得られると、三方良しの関係ができあがりつつある。
さらに、来再三名前が出る山梨学院大学もクリーンファイターズ山梨とは協力関係にあり、今年だけでも川村を含め4人の選手が山梨に入団している。大学、企業、地域チーム、そして地元ファンが一体となった、ラグビーを中心にした地域エコシステムができあがりつつある。
少々大袈裟かもしれないが、このモデルは日本のラグビー界と地域経済の未来になんらか示唆があるように思えてならない。
などと考えていると、試合のほうはノーサイドの時間が迫っていた。
ロスタイムのラストプレー、大塚がラインアウトからのモールで真っ向勝負し、そのままトライをとって最後に意地を見せた。この日再三苦しめられた山梨FWに対し一つお返しができたこのプレー、FWで堂々と渡り合ってのトライはCグループとの入替戦にむけて何か得るものがあったのではないだろうか。
大塚の今西裕監督は、「入替戦は独特の空気がある。これに飲まれないよう普段通りでベストゲームをしたい」と決意を語った。