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ヒリヒリするような緊張感ある80分にはならなかった。
8万1634人の観客にとっては、我が代表チームがテストマッチで5連敗する間にたまった鬱憤を晴らし、2024年ラストゲームをトライショーとして楽しむ時間になった。
深紅のジャージーを着たイングランドが奪ったトライは前半5、後半4の計9トライ。スコアの仕方も、FWがモールを押し込んだもの、パスをつないで、そして巧みなキックからと、バリエーションが豊かだった。
11月24日にアリアンツスタジアム(トゥイッケナム)でおこなわれたイングランド×日本は、59-14とホームチームが来訪者を圧倒した。
雨と強い風の中で、日本のファンが期待したような熱戦とは遠かった。
先制機は日本に訪れた。
キックオフ直後の攻防を経てファーストスクラムが巡ってきた。そこでお互いのタイミングが合わずFKを得ると、速攻を仕掛けた。相手のノット・ロールアウェーを呼び、ゲームキャプテンを務めるSH齋藤直人がPGを狙う(5分)。
しかし3点の先制とはならなかった。
イングランドに最初のトライを奪われたのは、先のPG失敗後の攻防からだった。
コンテストキックではなく、BKのフロントラインとバックラインのスペースへのショートパントを有効に使っていこうと考えていたこの日の日本。それを実践したものの、求めたような結果にはならなかった。
9分に許したトライは、自陣に閉じ込められた中でのラインアウトからの攻撃。階層的な攻撃を長短のパスとタテへのランでつなぎ、最後はNO8ベン・アールがトライを奪った。
その後、14分、23分、31分と奪われたトライは、すべて反則後のPKで日本陣に入られた後のもの。ラインアウト後の攻撃から攻略された。
2つはオフサイドから侵入を許し、最終的にはFWのパワーで押し切られたもの。
3つめはスクラムでのコラプシングがきっかけとなった。
前半38分のトライは、リスタートのキックオフ後に大きくボールを動かされ、WTBオリー・スライトホームの高い個人技で仕上げられた。
7-35だった前半に日本が唯一挙げたトライは34分。きっかけは、相手キックをWTBジョネ・ナイカブラがキャッチしたプレーからだった。
左のラックからBKで右へ。深めのパスをつなぎ、最後はCTBディラン・ライリーに好球を渡してラインブレイクを呼んだ。
ライリーは内側をサポートする齋藤にラストパスを送り、背番号9が走り切った。
風上に立った後半開始直後は、日本がボールを手にすることも多く、敵陣にも入った。10分強の間に、自ボールのラインアウトが6回あり、スクラムで相手反則を誘うこともあったが、攻撃がミスで終わることも少なくなかった。
14分、20分にトライを許し、スコアは7-45と大きく開いた。
自ボールラインアウトでボールを失い、巧みなキックを使って取られたものと、反則後のPK→ラインアウトで押し切られたもの。
リスタートのキックオフ後につかんだチャンスから、FL姫野和樹がインゴールに入ったプレー(22分)は、長短のパスと、テビタ・タタフ(途中出場)の前進力、WTB長田智希のコース取り、全員のサポートによって生まれたものだった。
しかし、その後も自在に攻められて2トライを許し、14-59というファイナルスコアとなった。
6月22日に国立競技場で、現体制となって初めての試合となるテストマッチをイングランドと戦った。その日は17-52だった。
5か月後、10のテストマッチ(初戦を含めると11戦)とマオリ・オールブラックス戦2試合を経て再びイングランドと対峙。選手たちが、「自分たちの(5か月間の)成長が分かる一戦」として戦った結果は、敵地ではあるが前回の35点差より大きな得点差(45点差)で終わった。
◆ディフェンスのゴールが見えないまま。
試合後の会見で、ゲームキャプテンを務めたSH齋藤は、「前半の20分から30分は、セットプレーからのペナルティやディフェンスの規律を守れず、悪循環が続いた。ただ前半のラスト10分と後半の入りは自分たちのラグビーをやれた時間もあった」と話した。
エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)は、「シーズンを振り返ると、まだ新しい車に乗っているような状況なのかな、と思っています」と切り出した。
「あまり走り出しがうまくいっていない状況。ひとつの点がうまくいけば、もう一つの部品が壊れてしまう。今日の試合はラインアウト、スクラムがどちらもうまくいかず、試合の流れに乗れずに苦戦しました」
総キャップ数も少ない若いスコッドという背景から、「プロセスを重視し、やり続けることが重要」とあらためて強調した。そして、この5か月の足取りを「もちろんアップダウンはありましたが、特にここが伸びたといった成長点もなければ、ここがひどくなったというところもない」と総括し、再度「プロセスを信じてやり続けることが大切」と繰り返した。
スコッド内に10キャップ前後の選手が多い。経験を積んで適応能力を高めることが大事も、「現状ではそこに苦戦しています」とした。
結果、「(次のステージも)やり続けるしかない。経験を積んで学びを得ることができる」に話は行き着く。
イングランドのSOマーカス・スミスを例に出した。
「私が若い頃から才能を見つけ、育てた選手の一人で、今晩の確かなディシジョンメイキングや、落ち着いたプレー、スキル、そしてスピードも活かせる。その素晴らしさは、まさに40キャップのプレーヤーでした(この試合で39キャップ目)」
そしてスミスのような選手を育てるプロセスには、「我慢して、プレーをやり続けさせることが必要」と言った。
また日本が取り組むスタイルについて、「スピードに乗った(他とは)違う形のラグビーをどんどんしていきたい。ただそのスタイルは、スキルにプレッシャーがかかる」とし、だからこそ「時間と学びがいる」と主張した。
現地記者に「久しぶりのトゥイッケナムの感想は」と尋ねられて「素晴らしい」と答えるも、ハーフタイムにコーチボックスからロッカールームに移動する際に邪魔をされ、不快な言葉を発せられたことについては「残念だった」と表情を曇らせた。
選手たちはシーズン最終戦に大敗したことについて複雑な表情だった。
試合の数倍きつい練習の日もあった、この数か月。
それなのに結果が出ないとなれば、不安にもなるし、疑問も頭に浮かんで当然だろう。
この試合には後半21分から出場したCTB梶村祐介は、キャップ数こそ少ないが代表歴は長く、出場機会も限られているから考えることも多い。チームの現状について、思うことをいろいろ話した。
イングランド戦については、「ボールを早い段階で手放すゲームプランでこれまでよりキックの数が増え、結果、すれ違いや、そのあとのターンオーバーボールからトライに結びつけられた」と振り返った。
コンテストキックでなく、防御のフロントラインの後方へのキックで、そこにあるスペースを攻略するプランを描いていた。
不安に感じているのは、「どこでボールを取る(奪い返す)のかプランがなく、相手のエラー待ち」という状態で戦っていることだ。
「ディフェンスのゴールが見えない。やっていて、正直にそう感じている」と吐露する。
「自分たちで感じていることがいろいろあり、それをコーチに伝えてはいるが、(最終的には首脳陣から)降りてきたものしかできないので、現状はそれをプレーしています。選手たちは、やれることはやっていると思います」
強豪国との対戦では50点以上の失点が続いている現状がある。選手としては、「ディフェンスにすぐに手をつけないといけない」と感じるのだが、攻撃のプランは示されても防御についての対策が練られないから、練習も含め、フィールド上はいつも変わらない。
言葉が難しいのですがと前置きして、「(選手とコーチが)お互いにもっと成長しないと、ここから伸びるのは難しい」と体感を口にした。
「毎試合あまり(新しい)プランが出ず、同じ展開で負けている感覚です。もっと修正してゲームに臨めたのにな、と感じます」
シーズン序盤は、試合の最初の20分は相手を圧倒していたが、それもなくなってきた。「ここ数試合は、入りで流れを持っていかれています。(チームには)やり続ける一貫性が欠けている」と話す。
◆ベクトルを向ける先はどこだ。
「(試合結果は)残念です」と話し始めた姫野和樹(FL/NO8)は、「前半であれだけ受けていては(ダメ)。スクラム、ラインアウト、モールと、相手のやることが分かっていて止められないのは自分たちの力不足。やることがいっぱいある」とシンプルだった。
2023年秋のワールドカップからリーグワン、肘の手術などを経て、10月から1年ぶりに日本代表活動に参加した。
そういう状況もあり、現チームでの生活は、まだ1か月。自分にフォーカスしてきた。その点については「コンディションがすごくいいと感じられるツアー」としながらも、チーム全体に目を向けると喜べない。
「コーチ陣がやりたいことを信じてプレーするのがいいチームの条件。負けが続くと自分たちのやっていることが正しいか疑ってしまうかもしれませんが、そうならないようにしないといけない。それぞれが違うことをやると崩壊する」
「(いまチームは)いいビジョンを持って取り組めていない気がしますが」と体感を口にしながらも、「一選手として信じてやる」と断言した。
ただ、代表主将経験者だ。信頼関係を築いてからは、違った行動も出てくるだろう。
姫野はショートキックについて、「(防御の)裏のスペースは空いていました。ただ、自分たちがディフェンスに課題がある中で(自陣からでも)キックを使い、相手に取られたらきつい。ディフェンスに自信があればもっと攻撃的に蹴れる。そこをもっといいものにしていければ、チャンスを生み出せるはず」と話した。
実際にキックを蹴ることが多かったSOニコラス・マクカランは、「エリアマネージメントをもう少ししたらよかった」としながらも、準備を十分にして試合に臨んだと言った。
12歳まではSOをしていたが、その後は、ウルグアイ戦の途中からその位置に立った以外、高校時代の試合途中に20分だけの司令塔経験。テストマッチで先発SOを任され、「あらためて 10 番に対するリスペクトが大きくなった」と感じた。
「1 週間を通してプレーのことを常に考え、こういうことが起きたら何をすればいいか常に考える必要があったので、自分にとって、すごく大きな学びと感じるとともに、楽しかった」
SOでのプレー指令が再び出た場合、「必要なら」と従うも、「今後は12番でやっていきたい」と話した。
PR竹内柊平は、「セットプレーがあそこまでうまくいかないと、正直、ゲームにもならない。試合前の会見ではスクラムからモメンタムを生みたいと言ったのですが、逆にプレッシャーを受けて相手にボールが渡り、そこからスコアされることが続いてしまった。責任を感じています」と反省した。
自分たちの、低く、近い(間合いで組む)スクラムを、相手との駆け引きの結果、組ませてもらえなかった。イングランドは少し引いた位置を譲らなかった。
「組んだ感覚がないぐらい、自分たちがしたいことができなかった。相手の土俵にのってしまいました。レフリーとのトークもうまくいきませんでした」
試合中、トライを奪われた後のハドルの中で、CTBライリーが日本語と英語を交え、「プライドを持て。俺たちは桜のジャージーを着ているんだ」と言って仲間を鼓舞した。
「僕が、FWが踏ん張れずに、テンポを出せなかったから、ディランをそんな気持ちにさせた。日本を愛して、代表になってくれたのに、そういう思いをさせたことが悔しかったですね」
今季10キャップを積み上げた竹内ではあるが、シーズン初戦と最終戦が同じイングランドとの試合という中で、「成長を何も見せられなかった」という。
それは誰のせいでもなく、自分自身にベクトルを向け続けるしかない、と竹内は考える。そして、スコッドの全員が同じように考える集団になることこそ、チームが高みに向かう条件と考える。
「もっと一人ひとりが主体性を持ち、イニシアチブをとって考え、行動しないといけない」と考えるのは、今季が進んでいく中で、経験値のあるリーダー的存在の選手たちが怪我などの理由もあり、離脱していくたびにチームが揺らいだからだ。
「経験のある人たちに頼りすぎていたと思います」
自分を含めそれぞれが、任された領域でリーダーシップを発揮しようと奮闘はしていたが、それで十分だったのか考えないといけない。
2024年の代表活動がすべて終わり、2027年ワールドカップまで3年となった。
ただのコンセプト以上に、自分たちをひとつにしていた「超速」の言葉だけではない、本当の意味でチームをひとつにする大事なものをみんなで探さないといけない。