Keyword
冷たい雨に濡れた芝に飛び込み、転がるボールを確保。チーム内でのアタック・ディフェンスでも、池田悠希は力強い相手チームのWTBをがっちり止めていた。
イングランドとのテストマッチまで1週間を切っている11月19日、欧州ツアー中の日本代表は、トゥイッケナムからそう遠くないグラウンドで練習に励んだ。
ツアーラストゲームに誰もが出たい。その気持ちが練習中のいろんなシーンから伝わってきた。
187センチ、100キロの体躯に高いスキル。29歳の池田が秘める力は高い。
東海大からNTTコミュニケーションズシャイニングアークス(トップリーグ/現・浦安D-Rocks)に加わり、リーグワン元年からは、「より自分が成長できる環境を求めて」リコーブラックラムズ東京に移籍した。
2023-24シーズンは入替戦も含めて8試合に出場。その前は2シーズンで22戦に出場と、安定したパフォーマンスを出してきた。
その力が評価され、2024年2月に福岡で実施された日本代表のコンセプト合宿に参加した。
6月からのテストシリーズへの代表メンバーからは外れる(バックアップメンバー)も、マオリ・オールブラックスと戦うジャパンXVの合宿に呼ばれ、9月にはパシフィックネーションズカップの決勝前から代表合宿に招集された。
試合への出場機会にはまだ恵まれていないが欧州ツアーのメンバーに入って、毎日トレーニングを積む。
11月19日の練習後、池田は、あらためて「ここまでは出場できていませんが、試合に出ることをターゲットに毎日を過ごしています」と話した。
「選手として成長することにフォーカスしています。自分がレベルアップすることがテストマッチに出るチャンスになる」
そう信じて体を張り続ける。
実際に成長を実感している。
たとえばボールのもらい方。チーム内では「インモーション」に注力している。走り込みながらパスを受け、前に出る。
守りでは、相手2人を視界と意識の中に入れるダブルディフェンスの力を高めている。
「ジャパンのラグビーへのフィットは高まっていると思うので、試合に出られるように頑張ります。(イングランド戦までに)アピールするチャンスも少ない。そのためにも、ひとつのプレーに集中し、しっかり自分の仕事をする。丁寧にやっていきたい」
「それが出場につながる」と信じる。
11月20日の練習でも、激しく前に出てチームに勢いをつけるプレーが見られた。
チームから期待されているのはボールキャリーやコリジョンの強さも、テクニックも高い。
速くて長いパスでディフェンスを切る。左右の足からキックを繰り出す。
それらは、もともと与えられたものでなく、努力を重ねてつかんだものだ。
パスはシャイニングアークス時代に磨いた。特徴は「ボールの回転数の多さ」だ。
「チームがパスを大事に、多く使っていこう、という方針だったので徹底して練習しました」
ただ、その武器をうまく使えなかった時期もあった。当時指導にあたった栗原徹スキルコーチが思い出す。
「すべてのプレーがハイレベルなのですが、状況に応じて最適なプレーを選択することが感覚的にできるので再現性を持てないという課題がありました」
ただ、「学習意欲が高いので、すぐに克服していきました」(栗原コーチ)。
本人も、「持っている引き出しの中から、その時、どれを使うのか。その部分を鍛えてもらいました」と話す。
ブラックラムズの竹内克アシスタントコーチも、池田の実力を高く評価する。
「ゲームの理解力もゲームセンスもあって、接点の強さだけでなく横にも動ける。ステップもいい。日本人ミッドフィルダーとして、ダイナミック+スキルフルなプレーでブレイクしてもらいたいですね」
「テストマッチレベルでどれだけできるか見てみたい」と付け加えた。
超速ラグビーをコンセプトとするチームで学んだことをブラックラムズに戻った時も意識し続けるなど、日本代表への想いは強い。
残り数日、出場機会を求めて力を出し切る。そして、もし思いが届かなくても、その気持ちを切るつもりはない。
チームの中でやれることをやり続ける。そして、テストマッチが終わっても、先に進み続ける。
「リーグワンは、自分がどれだけ変わったか見せるチャンスです。学んだことをブラックラムズにも還元します」
そして続けた。「リーグワンで活躍し、またジャパンに選ばれたい」。
欧州ツアー終了まで、残り僅か。
チャレンジと成長の道を終わらせる気はない。