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前日の曇天から一転、晴れ渡った11月20日のロンドン。
これなら安心と、少し薄着で日本代表の練習取材に向かうと、最終的に凍えた。
この日の日本代表は15時前からの練習。バチバチと体を当て合うのはいつも通り。実戦的なトレーニングが連日続き、コミュニケーションは密になっている。
11月24日(日)に予定されているイングランド戦には8万のファンがスタンドを埋めると見られている。
大歓声が予想される。言葉を交わすことさえ難しい強烈なアウェー感が桜のジャージーを襲うだろう。
その対策として、練習時はグラウンドにスピーカーを持ち込み、録音された声援が大音量で流された。
スピーカーはラインアウト練習をおこなっている隣に置かれ、選手たちは騒々しい中で意思を伝え合う。エディーさんはアイデアマン。以前には、ボールが滑りやすい天候が予想されると、ボールを濡らしたり、石けんを使ったこともある。
15時前からの練習だというのに日の入りが16時過ぎなので、全体練習後のラインアウト練習は、車のヘッドライトが照らす範囲の中で繰り返された。
刺すような寒さに、全メニューを終えた選手たちは急ぎ足で隣接するホテルに戻っていった。
前日まで別メニューで練習していた長田智希(WTB/CTB)はこの日から通常練習に加わり、違和感なく動いていた。
前戦のウルグアイ戦は欠場した。11月12日、シャンベリー(フランス)でおこなわれたトンガ代表との実戦形式の練習で足首を捻った影響だった。
異国の地での怪我。治るまで、どれくらいかかるのか。不安だっただろう。
しかし本人は経験値から「ウルグアイ戦は間に合わないけど、イングランド戦には大丈夫」との感覚が最初からあったから焦りはなかったそうだ。
外から見つめたウルグアイ戦は、苦戦した時間帯もあったが36-20と勝利を挙げた。相手はワールドランキングが自分たちより下のチームも、勝ったことで得たものは大きいと感じた。
「うまくいかなかったところもありましたが、(3連敗中だったので)ひとつ勝ったのは自信になったし、イングランド戦へ向けてチームの雰囲気もいい感じです」
フィジー、NZ、フランスに敗れ、心が揺らぎかけたかもしれない。
しかし相手がどこであれ、勝利とは、信じてきたものにあらためて自信を持たせてくれるもの。そう実感している。
完敗したフランス戦直後、試合を振り返って「最初のキック処理で、バウンドさせて取った。それでリズムが悪くなった」と反省した。
そんな経験があるから、イングランド戦に出ることになれば、「いい入りをする」と誓う。
「キックの種類は違うかもしれませんが、イングランドも蹴ってプレッシャーをかけてくるでしょう。自信を持って取りにいきます。やるしかない。メンタルをしっかり準備して試合に入るつもりです」
イングランドバックスの印象を、「ここに力があり、脅威になるランナーもいる」とする。
「その相手に自分たちはコネクトしながら全員で守ります。ハイボールがキーとなるので、キャッチャー、サポートと、全員がそれぞれの役割をやり切ることが大事です」
2023年のワールドカップにも出場し、今季はウルグアイ戦を除いた全テストマッチでピッチに立った(マオリ・オールブラックス戦の2試合にも出た)。
経験を積み、責任ある立場にいる自覚も生まれている。
「引っ張ってくれていた(今季最初に主将だった)リーチさん、ハルさん(パシフィックネーションズカップから主将だった立川理道)がいなくなり、自分たちの世代が引っ張っていかないといけない、と思うようになりました」
その思いもあり、「周囲とのコミュニケーション量も増えた」という。
「以前は自分のパフォーマンスだけにフォーカスすることが多かったのですが、いまは、周囲と『どうしたらもっと良くなるか』など、喋ることが多くなりました」
ツアー最終戦で、今季の初戦で対峙した相手と戦う(6月22日/17-52)。自分たちがどれだけ成長したのか分かる。そのためにも、「積み上げてきたものを出し切って戦うことこそ大事。チャレンジしてやり切らないと」。
「いい形で締めくくりたいですね。チームとしての一体感、つながりは確実にレベルアップしています。コネクションが高まっている。全員が、自分たちのラグビーを深く理解したことも、その要因となっています」
チームはひとつに。そして、良い方向へ進んでいる確信がある。
トゥイッケナムでイングランドと戦う。相手は負けが込んでいるから、牙を向いてくるだろう。そして、相手チームへの大声援が頭上から降り注ぐ。
すべては自分を、自分たちを進化させてくれるもの。本気で勝ちにいく。
イングランド戦が近づいて、気持ちを昂らせている者は長田だけではない。こちらもウルグアイ戦を外から見つめたファウルア・マキシも「楽しみ。メンバーに選ばれたら自分の役割を果たします。ツアー最後の試合なので、チームに貢献したい」と話す。
「イングランドはテストマッチ5連敗。いつも以上にプレッシャーをかけてくると思いますが、やってきたことに自信があります。勝てるチャンスはある」と力強い。
「ボールキャリーにフォーカスしてプレーしたいですね。イングランドのバックローはワールドクラス。思い切りやります」
2022年の秋は、ツアーメンバーだったけれど、トゥイッケナムでのイングランド戦には出られなかった。しかし、「(大声援の応援が相手チームを)圧倒する空気は体感しました。クレイジーな雰囲気」と分かっているから、「今度こそ試合に出たい」と腕をぶす。
ワーナー・ディアンズは、この1週間、そんな仲間たちをサポートし、最高の状態で戦いの場へ送り出すつもりだ。
ウルグアイ戦の後半にヘッドコンタクトでレッドカード。退場となり、イングランド戦への出場は不可能となったから(4戦出場停止/11月20日現在)、試合出場メンバーが決まれば、その相手役となる。
「そこでできるだけプレッシャーをかけることが、チームのためになると思っています」
自分が出たい気持ちは大きかった。しかし「チームをヘルプするマインドセットに切り替えました」。
「タフな試合になります。仲間の助けになりたい」
レッドカードの瞬間を回想し、「タックルした瞬間に頭が当たったのがすぐ分かったので、イエローかな、と思ったのですが。いつも、そうならないように気をつけてきたのに」と話した。
繰り返さないことを誓う。
6月22日の国立競技場でのイングランド戦に出た。その時の体感も含め、アドバイスを送る。
「あの試合は(日本が)いいスタートを切れたけど、スタンダードをキープできなかった。今回の対戦は、相手は5連敗中。8万人のファンも、(逆に)プレッシャーになるかもしれません。でも、こちらはチャレンジャーとしてやれる。楽しく、自分たちのラグビーをやってほしいですね。結果をあまり考えず、自分のベストを出してほしい」
日本を発って、すでに約3週間。ピッチに立つ選手だけでなく、スコッド全体で戦う準備ができつつある。