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ありがとうシャンベリー。
日本代表がフランスを離れた翌日(11月18日)、こちらもロンドンへ向かった。
代表チームはジュネーブ(スイス)経由で空路での移動だったようだが、こちらはTGV(フランスの高速鉄道)とユーロスター(パリ→ロンドンの国際鉄道)を乗り継いで、約7時間の旅だった(パリでの待ち時間も含む)。
TGVが遅れたため、パリ・リヨン駅から北駅へは超速移動。ユーロスター乗車前にはパスポートチェック、荷物のX線検査があり混雑は必至。で、なんとか間に合った。
ユーロスターの乗車時間は2時間半ほど。ロンドンの玄関口、セント・パンクラスからは地下鉄に乗った。
こちらのエレベーターは関東と同じで、立っている人は右に寄り、左は急ぐ人が歩くスペースのようだ。それを知らずに左に立ち止まっている人がいると、後続の人たちがイライラ。なんだか、急いでいる人が多かった。
国鉄に乗り継いで、宿泊地のテディントンにたどり着く。地下鉄も、この路線も近距離なら改札口でクレジットカードのタッチで乗ることができるのは楽チンだ。
この時期、ロンドンの日の入りは午後4時台。人通りの少ない駅前は真っ暗、雨模様だった。
宿に荷物を置いて、近くのパブに食事へ。イングリッシュビールをいただく。挨拶代わりにフィッシュ&チップスを注文すると、しばらくして「きょうは魚がなくてできない。ごめん」。
代替に値段が同じスモークターキ―の野菜添えみたいなものを頼んだが、これがいまいち。
初日、それも最初の食事で決めるのは早計も、食事はフランスの方がおいしいな。
食事を楽しんでいると、しばらくして、日本語が堪能な小柄なご婦人が近づいてきた。
「主人が、どこかで見た顔だ。きっと日本のラグビーの人ではないか、と」
失礼ながら最初は怪しい勧誘かと思ったが、なんとご主人というのはRFU(イングランド ラグビー協会)のCEO。「主人は、以前はエディのボスたったんですよ」と奥様。
「顔をみたことがある」はきっと何かの間違いも、名刺もいただき、ひょんなことから縁ができて得した気分。
テディントンは、日本代表の活動拠点にも試合会場のトゥイッケナム(アリアンツスタジアム)にも近いので選んだ場所。翌日(11月19日)は、朝からおこなわれるトレーニングに向かった。
小雨が降り、気温は4度。しかし、練習場への道ですれ違う人たちの多くが平気な顔で歩いていた。「イギリス人は傘をささない」は本当だなあ。
こちらもできるだけ真似をしてみたが、ずぶ濡れになり、練習見学の間、体の芯まで冷え切ることに。翌朝は0度まで冷え込むそうだ。
日本代表の練習は90分の予定と聞いていたが、全体練習後のスクラム練習なども入れると2時間超。この日は、主にアタックについて練る時間も長く、コンタクトをしながらアンストラクチャーの動きを長く続けるタフなメニューもあった。
ツアー最終戦となるイングランド戦に向けてチームの組織力を高める空気と、それぞれが出場機会をつかみにいく気迫、その両方が感じられた。
練習後、ウルグアイ戦に途中出場してファイティングスピリッツ溢れるプレーをしていたFLアイザイア・マプスアと話す。
「(NZ戦、フランス戦と)何試合か試合に出られていなかったので、出場機会を得た嬉しさがプレーに表れたのだと思います。ふたたびチームのためにプレーできてよかった」
この日の練習でも精力的だった。イングランド代表との決戦の場はトゥイッケナム(アリアンツスタジアム)。「興奮しています」という言葉に続け、「ツアー最後の試合。チームの中には才能ある選手たちがたくさんいますが、進歩と準備をしていきます」と言った。
メンバー外となっていた時期も「残念な思いはありましたが、チームファースト、いいチームメートでいることを心がけました。アタックマインドとボールキャリーが自分の強み。そこにフォーカスして伸ばしています。この1週間もファイトし続けます」
今季日本代表にデビューし、「長い道のりでした。プライドで胸がいっぱい。家族やファンにも誇りに思ってもらえるように、と思ってプレーしています」
高いレベルの集団の中に身を置き、「ワークレートが高くなった」と実感している。「スピードを大事にしているラグビーなので、倒れてもすぐに起き上がり、次へいくことが大事」と肝に銘じて動き続けている。
トレーニング中、大きな声で周囲とコミュニケーションを取っていたPR岡部崇人は、NZ戦、フランス戦、ウルグアイ戦と直近の3試合に先発。その表情からも落ち着きが感じられた。
パシフィックネーションズカップまではベンチスタートだった。「先発は試合の流れを作る役割もある。リザーブからの出場では勢いを与える役目もありますが、それよりも、自分のやるべきことを正確に出し続けることを意識しています。一貫性が大事」と話す。
いろんな特徴を持つ相手と組んで、「引き出しが増えています」と体感を口にする。
「140キロとか、日本にはいないタイプの選手と組むこともありました」
日本代表のスクラムが安定してきた理由を、「シンプルですが、練習、試合を重ねて8人がかたまりとして強くなったのがいちばん。相手より低く、というジャパンハイトを大事にしています」
低さを大事にすることで、(バックファイブの)押しを伝えやすい姿勢を取れているとも言う。
発見と成長は続く。
「ウルグアイのスクラムは特殊でした。自分たちが、もっと相手をコントロールしていくべきだったかな、と。押しにいき、こちらは勝っている感覚なのに、相手が引いたことで、勢い余ってペナルティを取られた。レフリーによって、見え方が違うこともある。コントロールの大切さを学びました」
3試合連続での先発も、安心はない。ただ、競争を超えて出場機会を得ている事実からくる自分への自信は深まる。
「試合に出ることで通用する感触を得られていることは大きいです」
積み上げたものがある。代表活動後、リーグワンの舞台に立ってもやれる手応えを感じている。
「自信を持ってゴリゴリくるでしょう」と予想するイングランドのスクラムに、「積み上げてきたものに自信があります。8人全員が役割を果たして対抗したい」。
関西大学Aリーグで、母校・関西学院大が優勝候補の京産大に勝った知らせを聞いて、「自分も頑張らなあかんな」と思った29歳は、「ラグビーをやっているからには、トゥイッケナムでプレーできるとしたら光栄なこと。(それが実現するために)準備を進めていきます」と締め括った。