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いつも思う。日本代表がラクに勝てるテストマッチはない。
11月16日、サクラのジャージーはタフなゲームを制した。フランス、シャンベリーでおこなわれたウルグアイ代表戦は36-20。後半に入ってから突き放し、勝利を収めた。
曇り空がキックオフ前には晴れ渡り、歴史のある街をぐるっと囲む山々が美しかった。
強い西日が人工芝のピッチを照らし、上着はいらない気温となり、立ち席なども含めて約8000人が集まり、熱気のある中での一戦となった。
この日のウルグアイ代表は、先発15人のうち13人が2023年ワールドカップのスコッドに入っていたメンバー。キャップ数は15人で221とさほど多くないが、FWの合計は173と決して経験は少なくなかった。
対する日本代表は先発メンバーのキャップ総数が192。昨年のW杯経験者は8人で、キャップ総数は105。日本14位、ウルグアイ19位というワールドランキングは、両チームの現状を正確に表しているとは言えなかった。
実際、ウルグアイは試合序盤から情熱的にプレーしてモメンタムを生む。前半7分の先制トライもCTBフェリペ・アルコス・ペレスの好走でつかんだ勢いでチーム全体が前進。その後、NO8マヌエル・ディアナがトライラインを越えた。
コンバージョンキックも決まり、0-7とリードされた日本は、しかし、長い時間後手にまわることはなかった。
先攻を許してから3分後、トライを返したのはNO8姫野和樹。この日はボールをインゴールにねじ込んだプレーをはじめ、ジャッカルでPKを得たシーンもあった。厳しいフィジカルバトルの中で実力を見せた。
「この試合の自分たちのテーマは、率先してやる、というものがメンタルのテーマでした」と姫野は言う。
「若い選手たちが多い。エディーの思うようなプレーをしないといけないとか、考えてしまいます。なので、自分が率先して(思い切った)プレーをしようと思った。それが、あのトライに結びついたと思います」
SH齋藤直人も前半から、ブレイクダウンで激しくプレーした。
頭を突っ込み、相手のボールに圧力をかけてはすぐに自分のポジションに戻り、周囲に指示を出す。
ウルグアイのSHサンティアゴ・アルバレスもスキを見てよく動くタイプだった。9番同士が両チームを前に出すゲームは、ほぼ満員となったスタジアムのファンを喜ばせた。
この日、いつもの試合よりキックを多く使った日本。無理に自陣から攻めるより敵陣で効果的に攻めることを、9番、10番を中心に選択し、考えたゲーム運びだった。
しかし、より効果的にキックを使えたのはウルグアイだったか。エディー・ジョーンズ ヘッドコーチも、「日本のフロントライン(防御ライン)とバックラインの間にうまく蹴ってきた」と相手を褒めた。
日本の前半の失点(2PG)はキック処理時に与えたもの。そのうちの一つは、SH齋藤がジャンプしてキックレシーブを試みようとしてイエローカードを提示されたものだった。
齋藤は「ボールだけを見てプレーしました(が、空中で相手と接触した)。完全に個人の責任」と話した。最初は挙げていた両手が、ジャンプ後には降りていたことも、レフリーへの印象を悪くしたのかもしれないと反省した。
日本は前半のラスト10分に2トライを奪ったことでウルグアイに飲み込まれることはなかった。
前半32分のトライは、自陣深い位置での相手ボールのラインアウトから始まった。
スローインのオーバーボールを確保した後、大きく左に展開。FBマロ・ツイタマとWTBジョネ・ナイカブラで左サイドを前進。そこからセンタークラッシュを見舞った後、右端までパスをつなぐ。WTB濱野隼大がインゴールにボールを置いた。
◆起き上がれ。起き上がれ。
ジョーンズ監督はこの試合で選手たちが見せた、チャンス時とピンチ時のサポートプレーや反応の良さを評価した。
全員が好機に反応して奪った日本らしいトライだった。
前半36分には敵陣ゴール前のラインアウトからサインプレーを使い、FL下川甲嗣があっさりトライを奪った。
18-13でハーフタイムを迎えた。
齋藤がピッチにいない中で後半は始まった。8分までは14人での戦い。しかもSHがいないとなれば、自分たちの本来のスタイルを出すのは難しかった。
後半4分に許したトライは、ウルグアイがラインアウトから攻めた後、密集周りをうまくタテに突くプレーを重ね、最後はFLルーカス・ビアンキがトライラインを越えた。
コンバージョンキックも決められ、18-20とされた。
個々の前に出る意志が強く伝わるパフォーマンスを見せたウルグアイ。しかしスコアシーンは、ここで終わった。
後半20分過ぎ、LOワーナー・ディアンズがレッドカード(ヘッドコンタクト)を受けた直後のPK→ラインアウトからモールを押し切ったシーンがあったように(結果的にはオブストラクションがありキャンセル)、勝利への思いは最後まで続いたが、日本の運動量の方が上だった。
日本が再逆転した後半12分のトライは、相手の反則で得たPK後のラインアウト、モールから。左のゴール前で押し込みながら、SH齋藤→WTBナイカブラでスコアした(23-20)。
21分、29分と齋藤のPGで加点し、ジリジリと点差を大きくした日本代表。積み上げてきたものを出したのは後半30分からだった。
ウルグアイがラインアウトから3分超、26次続くアタックを見せた時、赤白のジャージーは全員がハードワークで止め続けた。辛抱強く、そして激しく。最後はCTBシオサイア・フィフィタが判断よく前に出て、相手のノックオンを誘った。
その間、コーチ席のジョーンズHCは「ゲット・アップ! ゲット・アップ!」(起き上がれ)と叫び続けていた。日々のトレーニングと同じ光景。完全に動き勝った3分だった。
相手の息の根を止めたのは後半38分。ウルグアイのモールからターンオーバー。自陣22メートル内の位置から展開し、この時はFBだった松永が思い切ってアウトサイドで勝負。駆け上がって、最後は内側をサポートしていたCTBディラン・ライリーにラストパスを送った。
コンバージョンキックも決まり、36-20とファイナルスコアが刻まれた。
「結果は良かったと思う」としたジョーンズHCは、「試合の流れをつかみかけた前半にキャプテン(SH齋藤シンビン)を欠き、残り15分でワーナー(LOディアンズ/レッドカード)も。難しい試合となった」と続けた。
ただ、「全員がファイトし続けた」ことについては、「若いチームが、ファイトする姿勢を見せ続けられたことは良かった」と評価した。
フランス代表戦ではターンオーバーされるシーンが相次ぐも、この試合では大きく減少。相手ボールを奪取するプレーもあった。
「難しい状況、厳しい状況への反応、対応力で一歩前へ進めたのは収穫」とするも、トップチーム相手にも同じ結果を残すには「一貫性が大事。強いチームは良い瞬間を続けられる。やり抜く力(グリット)を伸ばさないといけない」。
アタックでは良い結果も多い。「今後はディフェンスが課題」と話した。
グリット(やり抜く力、粘り)の言葉は、終盤にトライを挙げたライリーも口にした。この試合では副将も務めた13番は、「ラグビーはパーフェクトにならないことが多い中で、忍耐力を見せられた試合だった」と言った。
「SHを失うのは(攻撃、ボール保持の面で)タフ。試合中にいくつかの変更点もあった。ただ、試合をコントロールしたり、シンプルにプレーする点で勉強になった。自陣でプレーしすぎた面もあるので、もう少しキックを使った方がいいのかも」
両チームのキック数に大差はなかった。使い方に改善の余地があると見る。
◆もっとラインスピードを上げないといけない。
ディフェンスリーダーでもあるFL下川甲嗣は、「ディフェンスのコネクションが途切れた時に前に出られてしまった。横とのコネクションをしっかり取りつつ、前を見て得た情報と合わせて判断する能力を上げないといけない」と反省した。
HO原田衛は、スクラムについて「低さで勝負したが、相手が(その低さに)耐えられず落としてきた。それに対応するのが難しくペナルティを取られてしまった」としながらも、「後半は対応し、押すスクラムを組めた」と続けた。
原田は膝に痛みを抱えて練習も満足にできていなかったが、副将としてチームをうまくリード。後半29分までピッチに立った。
3キャップ目、初先発で司令塔のポジションに立ったSO松永は、「うまくいかない時間帯も長かったですが、パニックになることはありませんでした」と自分のパフォーマンスを振り返り、思うように試合を運べなかったのは、「相手のフィジカリティの強さ」が理由とした。
4つのプレースキックを外し、フィールドキックも満点とはいかなかった点については、「キックの精度とハイパントの処理がうまくいかなかった」と課題を口にした。
ショットクロックへの対応にフォーカスして準備していなかったことも、乱れた原因のようだ。
「コミュニケーションを取りながらプレーできましたが、相手のリズムに合わせないでもっと(自分たちのペースで)戦えたら良かった」と言う松永は、ライリーのトライを呼ぶ好走については、「自陣からでもアタックスペースがあれば攻めようと言っていたので。ディランがいいサポートをしてくれた」。
その時間帯は、ポジションがSOからFBに変わっていた。SOとしての試合への準備などを通して勉強になっている点は多いが、FBの方が、まだしっくりくるようだ。
「(FBの位置に立つと)安心感というか、気負わず、自分のプレーにフォーカスしやすかった」
接点で前に出続ける力強さを何度も見せたNO8姫野は、13回のボールキャリー、15回のコンプリートタックル数でチーム最多(RUGBY PASSより)。怪我から復帰して3試合目で、コンディションは上がっている。
相手に先制された直後にトライを取り返したシーンについて、「ウルグアイはハードワークするチーム。順目に回りたいディフェンダーの逆を突くことは戦前から直人(SH齋藤)と話していました」と明かした。
ただ、チームのディフェンスについては「準備をしてフィジカルバトルに挑みましたが、ダブルタックルができなかったり、オフロードでつながれたシーンもあり、すべて良かったとは言えません」。
ウルグアイFWが小さなパスを多用したことも、ダブルタックルを実現できなかった要素になっていたが、「細かいパスをさせないようにラインスピードを上げることが大事」と話した。
11月24日のイングランド戦へ向け、「システムをもっと明確にしていかないといけない」とした。
テストマッチでの勝利は4試合ぶり。フィジー、ニュージーランド、フランスに完敗し続けていたチームは、苦しみながらも勝利を手に入れ、気持ちが上向いたようだ。
「14人になっても、全員でチームになり、勝ちたい意欲を出して戦えた。久しぶりに勝つ喜びを味わえてよかった」と下川は言う。
原田は、「負けが続く中でタフな練習の連続。(全体が)メンタル的にも少しダウンしているような感じでしたが、勝って、試合後のミーティングでもみんなの表情が明るかった」と空気の変化を口にした。
次戦へのエナジーを得た試合ではあるが、イングランドにも勝つラグビーには足りない。
それは、チームの誰もが分かっていることだ。ツアーも、ハードな準備も続く。ジョーンズHCも、「挑戦する姿勢を持ち続けることが若いチームには必要」と繰り返す。
姫野はイングランド戦を睨み、「(ディフェンスの)ラインスピードが重要。受けてはいけない。(前へ出て)ダブルタックルし続けられたら結果は残る」と焦点を絞る。
歴史に残る80分で2024年のシーズンを終えたい。
エディー率いる日本代表が再始動する来年6月を、どれだけの人たちが楽しみに待つか、重要な試合だ。