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昨年のW杯の準々決勝で死闘を演じた両軍(オールブラックス28-24アイルランド)が1年の月日を経て再び激突する。大一番でオールブラックスの重要な主力の2人が欠場とあり大ピンチだ。
ニュージーランド(以下、NZ)国内において、NZ代表 、オールブラックス”の欧州遠征の中で一番の注目は、2戦目のアイルランド戦(世界ランキング1位)だ。トークバックラジオから聞こえてくるラグビーファンの声のトーンの違いも感じる。
欧州遠征初戦のイングランド戦(ロンドン/現地時間11月2日)は、タフな試合となった。イングランドのPRジョージ・マーラーのハカ批判(後日、謝罪)でヒートアップしていた事から、いつも以上に注目されていたハカ。
『“カパ・オ・パンゴ 』が始まると、お互いに間合いを詰めて5メートルまで接近。両軍の演出はスタジアムを大いに盛り上げた。
試合は、開始早々オールブラックス2番コーディー・テイラーが脳震盪で退場(5分弱)。不安がよぎったものの、引き続きこの試合でも何度も鋭いランを見せた6番ウォレス・シティティがチャンスを作るなどオールブラックスが2トライ。
一方のイングランドは、前半ノートライながらも10番マーカス・スミスが4つのペナルティーゴール(PG)で食らいつき14-12のスコアで折り返す。
後半は、規律面の悪さの他にハンドリングエラーなどのミスも相次ぐ。オールブラックスがインターセプトトライを奪われ、その後1PGを与えて14-22とセーフティーリードに持ち込まれた(59分)。
66分、途中出場のダミアン・マッケンジーが1PGを決め5点差へ(17-22)。その8分後に14番、マーク・テレアがディフェンスを数人引きずりながらもインゴールになだれ込み、この試合2つ目のトライ。タッチライン沿いの難しいコンバージョンを途中出場のマッケンジーが見事に決めて24-22の逆転に成功した。
その後、逆転のチャンスがあったイングランドだが、途中出場の名キッカー、SOジョージ・フォードがPGを狙うも失敗。ロスタイムに入り同選手はDGを狙うも失敗に終わり、オールブラックスの24-22の勝利が決まった。
◆アウムア人生最大のビックゲームで2番。マッケンジーが再び10番。
ダブリン(アイルランド)、現地時間の11月8日(金)、午後8時10分(日本時間11月9日、午前5時10分)にキックオフとなるアイルランド戦。その一戦に挑むオールブラックスの試合登録メンバーが11月7日に発表された。
スコット・ロバートソン ヘッドコーチ(HC)をはじめセレクター陣が選んだメンバーは、前週の試合から先発メンバー2人の変更となった。
脳震盪の影響で欠場となるHO(フッカー)、テイラーの代わりにアサホ・アウムアが2番に指名された。これまでのアウムアのキャリアで最も大きな試合となる。
同じく脳震盪で欠場のSOボーデン・バレットの代わりは、今季2試合を省いて10番を付けていたダミアン・マッケンジーが再びキーポジションのジャージを託されることとなった。
マッケンジー起用についてロバートソンHCは、「D-マックはD-マック。彼からは様々な事が少しずつ得ることができる。彼は、調子が良い時はワールドクラスで、素晴らしいタッチを見せる。そして自分自身を信じ続けた」。
前週はベンチに降格としながらも、継続してマッケンジーを信頼しているコメントが出た。
この試合の先発メンバーの変更は、ケガによる2人のみ。一貫性を保ってのセレクションとなった。
その他の興味深いセレクションを見ていくと、規律違反で前週のイングランド戦でメンバーから外されたPR(プロップ)のイーサン・デグルートは、今週はセレクション対象となっていたが再びメンバー外となった。首脳陣は、前週に続いてタマティ・ウイリアムズを1番起用の決断をした。
このセレクションに関して記者から当然のように質問があった。
ロバートソンHCは、やや言葉を詰まらせながら「パフォーマンスで判断をした」。続けて「今シーズン全体を見ての決断で、彼(ウイリアムズ)は、50~60分プレーできる選手だ。先週は彼に対して厳しい判定(スクラムの反則)があったと思う。彼はフィットしていて準備ができている」と起用理由を説明した。
そして、イングランド戦から6日後の試合と、いつもより1日短い事がセレクションの一貫性を続ける事になったとも付け加えている。
ベンチに目を向けると、先発昇格のHOアウムアの控えは、今季の新人、ジョージ・ベルとなった(16番)。
PR陣は、オファ・トゥンガファシ(17番)、パシリオ・トシ(18番)が引き続きベンチ入りをした。前週、途中出場から良いスクラムを組んだことで首脳陣の信頼を得たのだろう。
BKのベンチでは、マッケンジーの先発昇格で空いたスペースに、SO/FBのスティーヴン・ペロフェタが指名された。
ペロフェタは今季、代表、スーパーラグビーで主にFBとしての出場が多かった。そのため、オールブラックスXVから急遽呼ばれたSOハリー・プラマー(12番も可能)のベンチ入りの声も聞こえていたが、結局、今季充実のペロフェタが評価された。
◆オールブラックス、勝利の鍵はセットピースとキッキングゲーム。
テイラー、ボーデン(バレット)の主力の欠場が大きいのは否めない。セットピース(スクラム、ラインアウト)抜群のアイルランドがより有利になると予想される。
前週のイングランド戦でHOテイラーが退場(5分未満)、アウムアが入った後のラインアウトは悪くなかった。
ところが後半に入ると一変しラインアウトの獲得率が大きく低下した。その影響で試合がもつれることにつながったと言える。
控えのHOベルは、スーパーラグビーでも経験が浅く、ラインアウトのスローイングはアウムアと同様にまだまだ安定感があるとは言い難い。そこがオールブラックスの最大の懸念材料とする声がNZのメディア、ラグビーファンから聞こえてくる。相手は当然、ラインアウトをターゲットにしてくるだろう。
アイルランドはスクラムも強力だ。前週オールブラックスは、何度かスクラムで反則を取られている。しかし、今週の試合ではPRの先発メンバーを据え置いている。ここにも注目したい。
SOのマッケンジーは、前戦で貴重なペナルティゴールと逆転のコンバージョンキックを決めていることからゴールキックで期待が持てる。
しかし、タイトな試合で重要となってくるフィールドプレーにおいて、彼のキッキングゲームには改善の余地ありとの見方がある。セットピースと合わせて、マッケンジーのゲームメイクにも注目が集まる。
この試合で、他にもNZのメディアを賑わせていることがある。
NZのラグビー実況レジェンド、グラント・ニスベット氏が今回のアイルランド戦で350試合目のテストマッチ実況となる。
1984年に初めてオールブラックスの試合の実況をしてから40年。まさにレジェンド中のレジェンド。なめらかで聞き取りやすい安定感抜群の実況は健在だ。
節目となる実況は、世界ランキング1位のアイルランドが相手。激しい試合が予想されるだけに、ニスベットの実況にも力が入りそう。
テイラー、ボーデンの欠場の影響もあり、NZ国内では、昨年のW杯準決勝同様、オールブラックスがアンダードック(勝ち目が薄い)の声が少なくない。
ピンチを乗り越えてオールブラックスが勝利するか。それともアイルランドが昨年のリベンジを果たすのか。
新人シティティがアイルランド相手にどんなパフォーマンスを見せてくれるかなど、見どころ満載の試合は、見逃せない。