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「HAKA(ハカ)は馬鹿げている」、「禁止されるべきだ」。
ニュージーランド(以下、NZ)代表、オールブラックスの欧州遠征の初戦イングランド戦を前にNZ国内がざわついた。試合メンバーに入っていないイングランド代表PR、ジョー・マーラーのSNS上での一言(後日謝罪をしている)は、彼が思っていた以上に物議を醸すこととなった。
いよいよ今週からオールブラックスの欧州遠征が始まる。トップ5に入っているイングランド、アイルランド、フランスとタフな試合が続く。まるでワールドカップのプレーオフ並みのスケジュールだ。
そして最後にイタリアと戦い、今シーズンを締める。
オールブラックスは欧州遠征前、横浜にて日本代表と対戦した。日本にはオールブラックスの熱狂的なファンが多い。観客は2年前の対戦に続き6万人を超えた。
NZラグビーは、日本をとても大切なマーケットと捉えている。
オールブラックスは、超速ラグビーを掲げる日本代表にあっさりと先制トライを奪われた。ファーストクウォーターは、ジャパンの方に勢いがあった。
しかしその後は予定通りに、サイズのあるFW陣を筆頭にフィジカル戦を意識してジャパンのディフェンスを何度もこじ空けた。
結果、10トライを挙げて64-19のスコアで圧勝した。
点数だけを見ると貫録勝ちに見える。
しかし、NZ国内のトークバックラジオから聞こえてきたものは違った。オールブラックス以上にジャパンは、若手を主体とした経験の浅い選手を選考していた。その相手に黒衣は、後半にミスも目立った。
それゆえ厳しい評価となったのかもしれない。
その一方で評価された選手も何人かいる。
真っ先に名前が挙がるのはFL/NO8ウォレス・シティティだ。これまでと同様に力強いランでディフェンスの穴を何度も突破した。新人とは思えないほどの落ち着きぶりでスキルが高く、正確なプレーをする。完全にブラックジャージのレギュラーを取ったと言えるか。
82人目のキャプテンに任命されたLOパトリック・トゥイプロトゥのリーダシップも評価された。
パフォーマンスにおいてもサイズを活かしたフィジカルプレーを十二分に発揮し、ボールを持てば前に出た。ワークレートも高くジャッカルを何度も見せた。レギュラー争いに再度加わる可能性も十分にありそうだ。
◆注目の10番はボーデン。ラティマとハーフ団。
オールブラックスの指揮官スコット・ロバートソン(以下、HC)は、ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)の最終戦の直後のインタビューで「メンバーは、ベストチームに近い」と語っていた。
NZ国内のメディアやラグビーファンの間では、欧州遠征の初戦のイングランド戦に向けてのセレクションに注目が集まった。
ロンドンの現地時間11月2日(土)午後3時10分キックオフとなる、対イングランド戦に挑むオールブラックスの試合の登録メンバーの発表が11月1日にあった。
ロバートソンHCをはじめセレクター陣が選んだメンバーは、日本戦をスキップして少し早めにロンドンに到着していた主力選手たちが、予定通りに先発組に名前が挙がっている。
先週のジャパン戦で先発したPRタマイティ・ウイリアムズ、FL/NO8シティティ、FLサム・ケイン、WTBマーク・テレアの4人のメンバーが引き続き先発メンバーに残った。
1番で先発が濃厚と思われていたイーサン・デグルートは、規則違反によりメンバーから外された。それにより2週続けてウイリアムズを1番に起用となり、2番コーディ・テイラー 、3番タイレル・ローマックスとなった。
なお、謹慎処分のデグルートは、次週対戦するアイルランド戦には、選考対象となるようだ。
LO陣は、キャプテンのスコット・バレット (4番)、トゥポウ・ヴァアイ(5番)のコンビ。7月の対戦では、ベンチスタートだったヴァアイは、トゥイプロトゥのケガによりザ・ラグビーチャンピオンシップ(TRC)で先発で起用されて成長し、信頼を得た。
前回の対戦でもオールブラックスを苦しめたLOマロ・イトジェ相手にヴァアイがどんなプレーを見せるか注目したい。
FW陣で最も注目されていたのは、FW第3列のセレクションだ。
ジャパン戦で本来のポジションのNO8に入ったシティティが、イングランド戦でもNO8に抜擢されるか注目されていた。しかし、これまで通りにアーディー・サヴェアがNO8に入る。シティティは6番、ケインが7番を付けることになり、主にTRCで戦ったFW第3列陣に戻った形となった。
BKのメンバーに目を向けると、NZ国内でも注目されているハーフ団が一番の目玉になる。
膝の大ケガから見事に回復し、ジャパン戦でも元気な姿を見せたキャム・ロイガードは先発ではなかった。新人ながらチャンスをものにし、信頼を得たコルテス・ラティマが、引き続き9番の座を確保した。
ラティマとハーフ団のコンビを組むのはボーデン・バレットだ(10番)。
TRC最終戦、10番で良いパフォーマンスをした。今季主に10番を背負ったダミアン・マッケンジーのアップダウンのパフォーマンスよりも評価される形となった。
センター(CTB)陣は、膝のケガから復帰が若干長引いたジョーディー・バレットが12番を付ける。リーコ・イオアネ(13番)との不動のコンビが戻った。
注目のバックスリー(WTB/FB)では、ブルーズのWTBコンビが揃った。今季見事な復調を見せたケイレブ・クラークが11番、ジャパン戦に続いて先発となるマーク・テレアが14番だ。
そしてFBは、TRC終盤に(14番ではなく)15番として良いパフォーマンスを見せたウィル・ジョーダンが引き続き務める。トップ5相手に15番ジョーダンが通用するか要注目だ。
ベンチを見ると、ジャパン戦で先発メンバーとして出場した選手の大半が入っている。
FWは、サイズがあり、フィジカルバトルで期待される選手が並んだ。イングランドの重いFWパックにしっかり対抗できそうだ。
18番を付けるPRパシリオ・トシは、フレッチャー・ニューウェルを抑えてベンチ入りをした。140キロを超えるサイズは魅力で、ワークレートも高い。セレクターの心をしっかりとつかんだかもしれない。
ジャパン戦で存在感を示したLOトゥイプロトゥ、FLサミペニ・フィナウは、レギュラー争いに食い込むためには、この試合でしっかりアピールしたいところだ。
BKの控えは、SHロイガード(21番)、CTBアントン・レイナートブラウン(22番)、SO/FBダミアン・マッケンジー(23番)と充実している。この3人も後半からインパクトあるプレーを見せてくれそうだ。
◆オールブラックスの3連勝か。イングランドがリベンジか。
イングランドは、NZで高校時代(ウェストレイクボーイズ高)を過ごしたチャンドラー・カニングハム・サウスが、7月の試合に続いて6番に入っている。前回の対戦では、サイズを活かした突進でチームを前に出した。
同じく7月の対戦でオールブラックスを苦しめたLOマロ・イトジェと合わせてFLカニングハム・サウスが目立つ展開になると試合が面白くなる。
ボーデン×マーカス・スミスの司令塔(10番)対決も注目だ。
7月にニュージーランドで対戦した時は(2試合)、マッケンジーが10番で、ボーデンはベンチスタートでポジションはFBだった。それでもワールドクラスのパフォーマンスを見せて勝利を呼び込んだ。
今回は司令塔としてイングランドと対峙する。どんなゲームメイクをしてくれるかも見どころだ。
ロバートソンHCは「今年すでにイングランドと2回対戦しているが、ラグビーでは4か月というのは長い期間であり、両チームとも7月にニュージーランドで対戦したチームとは違うことは分かっている」と語っている。
今年3回目の対戦(7月の対戦は、16-15、24-17でNZが2連勝)は、いろんな意味で注目だ。イングランドは今回負ければ、同じチームに(年間)3連敗。ホームの観客を前に、それは絶対に避けたいだろう。
※(2022年に今回と同じ場所のトゥイッケナムでの対戦では、イングランドが19点ビハインドからから25-25の引き分けに持ち込んでいる)
ハカに対してのクレームは、イングランド側のプレッシャーの表れと言えるかもしれない。
NZ国民だけでなくオールブラックスを怒らせたのは間違いない。そんな時のオールブラックスは半端ない力を出す傾向がある。今回はどうなるか。また、ハカに対してイングランドがどう対抗するかも興味深い。
イングランドがホームでリベンジか。それともオールブラックスが返り討ちをするのか。
トゥイッケナムではチケットが完売になったそうだ。8万2000人の観客を前に、白熱した試合になる事は間違いないだろう。