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姫野和樹にとって、特別な思いがいくつも重なる日。
10月26日、日本代表がオールブラックスとテストマッチを戦う。
姫野はその試合に、背番号7を背負って出場する。
テストマッチは、2023年ワールドカップ以来の出場。舞台は2017年11月4日、オーストラリア代表と戦って初キャップを得た日産スタジアムだ。そして、相手はオールブラックス。
「日本代表に帰ってこられた喜びを感じています。また、このジャージを着ることが目標だった。新たな気持ちが湧き上がっています」と話す表情が上気していた。
気合いが入って当然だ。
自分のラグビー人生の半分ほどまで来たと話した。1年ぶりのテストマッチは新たなスタートと言っていい。
「その場所がファーストキャップを得たところ。そこに戻ってプレーする。感慨深いですね」と話す。
記者会見に同席したCTBディラン・ライリーが「自分たちがラグビーしているのは、まさしく、こういう日のため。長くトップに居座っているチームと試合をするためにラグビーをしている。ニュージーランドは、自分たちができることを証明する、とても良い相手。その試合を日本でできることが楽しみ」と語るのを頷きながら聞いていた。
7月に30歳となったバックローは、自分が求められていることについて「持てる力、自分の強みをどんどん試合の中で出していくことが大切だと思うし、それが仕事」とした。
「僕の強みは運動量。7 番は多くの仕事を求められます。ボールを奪う。ジャッカルも期待されているので、自分のストロングポイントとして、それを 120パーセント出すだけ」
その言葉を実現するためのコンディションは整えている。
「ニュージーランドはプレー中の状況判断が優れている。一人ひとりが考えてプレーするチーム」と見る。
しかし、ボールキャリアーが孤立するシーンは必ずある。その瞬間がジャッカルのチャンス。積極的に挑みたい。
ただ、熱くなりすぎてはダメだ。「相手はブレイクダウンで嫌なことをしてくる。が、それに付き合っちゃいけない」と肝に銘じる。
「強いボールキャリアーにしっかりタックルし、彼らのモメンタムを止める。ボール争奪戦でどちらが優位に立つかが重要」と落ち着いている。
慢性的に痛めていた肘の手術やリハビリなどもあり、代表活動からしばらく離れていた。
その間、赤白のジャージーを着て世界と奮闘するチームを「すごく複雑な気持ちで見ていました」という。
「第三者として日本代表の試合を見ることは、(もう何年も)なかった経験。その場に自分が立っていないことに、悲しいとか、悔しいなど、いろんな気持ちが混ざり合っていた」と振り返る。
ただ、外から見ていても「日本のラグビーが向かっている方向性は間違っていないな、と。自分たちのスキル、スピードはワールドクラスのレベルにあると思った」。
だから代表に合流して日数が浅かろうが、自信を持ってオールブラックス戦に臨める。
思いを募らせてきた分、帰属意識は以前以上に大きく、強くなった。
「日本代表というチームが好きですし、日本という国が大好きな人間。日本代表としてプレーすることは、いつまで経っても自分の中で嬉しいし、誇らしい。そういった気持ちでいつもプレーしています」
そう言ってさらに、「チーム、大好きです」と付け足した。
「ブレイブブロッサムズとして戦える喜びを、次の世代に伝えていかないといけない」と言う。
「それは、自分たちのプレーで表現できる。そんなプレーを明日もしたいし、今後も、全身全霊かけてこのチームにコミットしてプレーする」と頼もしい。
ハーフタイムをどんな展開、どんなスコアで迎えたいか質問を受けると、「ヒャクゼロ(100-0)だったら最高」と笑って、「リードして折り返せたらいい」と続けた。
ファーストパンチを先に出すことが重要。そして流れを先につかむ。受けずに、自分たちから積極的にアタックしていくことが、メンタル的にも大事とした。
「自分たちのプラン、そして自分たち自身、チームを信じて、自分たちのラグビーをする、ジャパンらしくプレーすることがすごく重要」
「あまり気負いすぎず、リラックスして」キックオフを待つつもりだ。
「前のめりになってもしょうがない。自分のメンタリティと体は100パーセント近いですが、そこを突き抜けて 120パーセントのコンディションで臨めるように調整していきます」と笑顔で話した。
「自分たちにフォーカスして、ジャパンラグビーのスタイルを貫いていく必要がある。みんなプランは理解していて、そのプランに自信を持っています。自分たちがコントロールできるものだけをコントロールし、試合終了の笛が鳴る瞬間まで、みんなハードワーク。いちばん最後に、みんなのビッグスマイルが見られるような試合にしたい」と話すライリーを頼もしそうに見つめていた。
今季6テストマッチで6トライと欠かせぬ13番となっている男は、「明日は、歴史を変えられる、日本に大きなレガシーを残すことができる日と、みんな、共通認識として持っています。チームとしての準備は終わったので、明日に向けてそれぞれが心の準備をしていく必要がある。自分自身はリラックスし、ゲームのことはあまり考えすぎず、試合でベストパフォーマンスを発揮できる状態でいたい」とも言った。
誰もが闘志を秘めてビッグゲームに挑む。
2024年10月26日という日を、日本ラグビー史の中に、深く、大きく刻みたい。