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「オールブラックスが日本に到着して温かく歓迎をされた」
その様子がニュージーランド(以下、NZ)のTVのスポーツニュースで取り上げられた。
日本では10月26日のオールブラックス戦を控え、熱が増している。NZ国内では、どうだろう。
今週に入り、コアなラグビーファンの間ではトークバックラジオなどで盛り上がりが見えてきた。しかし遠征初戦となる日本代表との試合は、のちにおこなわれるイングランド、アイルランド、フランスと、世界トップ5相手との試合と比べると注目度は高いとは言えない。
チームにとっては、欧州遠征に向けてゲームタイムが少ない若手に経験を積ませる、貴重な位置付けとなっている。
◆バレット3兄弟、サヴェアなど主力はメンバー外も、強力布陣で日本戦へ。
横浜での日本代表戦の前日(10月25日)には、欧州遠征の初戦、イングランド戦に出場する10数人の選手が先に現地に旅立つことから、試合メンバーの発表は通常より2日早かった(10月22日)。
スコット・ロバートソン ヘッドコーチ(以下、HC)をはじめセレクター陣がセレクトしたメンバーについて、日程を含めて「バランスをとった」と語っている。
NZ国内のスポーツニュースが真っ先に取り上げたのは、オールブラックスで初めてキャプテンを務めることになった、LOパトリック・トゥイプロトゥの話題だ。82人目のキャプテンとして日本代表との試合でチームを引っ張る。
今季ケガに泣かされたトゥイプロトゥは、負傷しながらもスーパーラグビー・パシフィックの決勝に出場した。プレーだけでなく、リーダーとして優勝に貢献している。
日本戦のセレクションに関してロバートソンHCは、遠征前から初戦の日本、最終戦のイタリア戦は、ゲームタイムが少ない選手に経験を積ませると明言していた。
今回のメンバーは、その言葉通りにセレクトしている。ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)最終戦のメンバーから、先発メンバーの変更は11人となった。
しかし、大物の主力選手が抜けていながらも、将来が期待される新人選手を含めた若手と、経験豊富なベテラン勢を織り交ぜた強力なメンバーと言える布陣だ。
◆FWはフィジカルバトルを意識した選考。
日本対策を練り、しっかり勝ちにいく事を意識した布陣と言ってもいい。
セレクター陣は、日本代表が依然としてフィジカルバトルで格上相手に苦戦していると分析した印象だ。FW戦で優位に立ちたい意図が見える。サイズがあり、フィジカルに強い選手をFW陣に揃えた。
代表2年目で着々と成長しているタマティ・ウイリアムズ、今季のサプライズ選出の新人パシリオ・トシ(初先発)の両PRのサイズは、140キログラムを超える。
両選手は巨漢ながらもモバイルに動くだけでなく、スキルやワークレイトも高く、サイズを活かしたボールキャリーで前に出る力も魅力だ。
巨漢の2人に対し、日本のフロントローがどう対抗するか見ものだ。
そのほかにも、HOアサフォ・アウムア、6番サミペニ・フィナウらの突破力が日本のディフェンスを苦しめる存在となりそうだ。
そして、キーポイントとなるセレクションとして、これまで代表では6番を背負っての出場が多かった新人のウォレス・シティティが、今回初めて8番を付けて出場となる事にも注目が集まっている。
シティティが代表でも本職のNO8のポジションで起用できる目途がつけば、今季で代表からの引退を表明しているサム・ケインのポジション(7番)にアーディー・サヴェアを起用できる。シティティのパフォーマンスから目が離せない。
◆待望のロイガードが復帰。期待のラカイ、ラブは初キャップへ。
BK陣に目を向けると、まずは、9番を付けるSHキャム・ロイガードの復帰が一番の目玉になる。
膝の大ケガから無事にNPC(NZ国内州代表選手権)で復帰を果たし、2試合出場した。10月5日の復帰戦では、いきなりインパクトある持ち味のランプレーを見せて2トライを挙げた。その結果セレクター陣を満足させ、遠征メンバー入りとなった。NZ国内のラグビーファンも待ち望んでいただけに嬉しいニュースとなっている。
ロイガードがケガの間に新人SHのコルティス・ラティマが経験を積んで成長した。今の時点でラティマがファーストチョイスの9番と言われているだけに、ロイガードは日本戦で良いパフォーマンスを見せ、欧州での試合に向けて弾みをつけたいところだ。
ロイガードとハーフ団を組むのは、今季ここまでTRC最終戦を省いたすべての試合(8試合)で10番を付けたSOダミアン・マッケンジーだ。TRC最終戦、ボーデン・バレットが10番で良いパフォーマンスをしただけに、マッケンジーも日本戦でのアピールが今後に向けて必須となる。
本気のマッケンジー、ロイガードの超攻撃的ハーフ団コンビは、ジャパンにとっては脅威となるだろう。
CTBは、フィジー戦以来のアントン・レイナートブラウン(12番)、ビリー・プロクター(13番)のコンビ。両者とも能力が高く、レギュラー争いに加わる実力があるだけに、この試合でのパフォーマンスが楽しみだ。
バックスリー(WTB/FB)を見てみると、マーク・テレア(11番)、セヴ・リース(14番)の両WTBは、スピードだけでなくキレキレのステップで一気にディフェンスを抜き去る能力がある。危険なランナーだ。
ケガから復帰し、NPCでも良いパフォーマンスを見せていた15番スティーヴン・ペロフェタと合わせて危険なバックスリーとなっている。
ベンチに目を向けると、デビュー戦となるFL/NO8ピーター・ラカイ、FBルーベン・ラヴの2人も注目されている。ラカイは、ルーク・ジェイコブソン、イーサン・ブラカッダー、ダルトン・パパリィイの3人のケガによりチャンスが巡ってきた。ジェイコブソンと同じで、FW第3列の3つのポジションでレベルの高いパフォーマンスを発揮できる。貴重な存在だ。
ラカイのハンブル(謙虚)な性格は、首脳陣が大切にしている事のひとつでもある。シティティと同様、将来を期待されている。
積極的なランが魅力のラブも、同様に首脳陣の期待を背負っている。ここ数年ケガがちで、欠場する時期があつた。しかし、昨年はオールブラックスXVに選ばれた。今年に入って首脳陣が代わってもラブの評価は変わらず、今回の日本戦で初キャップに向けてのチャンスを得た。
◆2年前は冷や汗勝利も、今回は気の緩みなし!?
ロバートソンHCの成績は、アルゼンチンにホームで敗戦(30-38)、南アフリカに2連敗(27-31、12-18)があるなど、決して良いとは言えない(6勝3敗)。日本戦は勝利だけでなく、内容が問われる。
今回は、NPCに出場して調整をしてきた選手もメンバーに多く入っている事もあり、前回のように、調整不足ではないだろう。
対する日本は、まだまだ完成ではないものの、「超速ラグビー」を掲げた攻撃が徐々に浸透してきているようにも見える。課題はやはりディフェンス。W杯で勝ち切れなかった要因のひとつでもあり、特に日本人選手は、1対1でのディフェンス時にフィジカルの差で抜かれ、失トライに繋がっている印象がある。
勝利を得るためには、ディフェンスが鍵となる。
オールブラックスは日本の弱点をしっかり突き、力の差を見せることができるか。それとも、日本が持ち堪えられるか。
2年前の日本での対戦時は、調整不足のオールブラックスが38-31と冷や汗勝利を手にした。果たして、今回はどうなるか。
決戦は10月26日(土)、横浜・日産スタジアム。 キックオフは午後2時50分。
【オールブラックス 日本代表戦メンバー】
①タマイティ・ウィリアムズ クルセイダーズ 196 140 24 14
②アサフォ・アウムア ハリケーンズ 177 108 27 15
③パシリオ・トシ ハリケーンズ 193 140 26 3
④サム・ダリー ブルーズ 203 110 24 5
⑤パトリック・トゥイプロトゥ◎ ブルーズ 198 120 31 46
⑥サミペニ・フィナウ チーフス 193 115 25 4
⑦サム・ケイン○ 東京サントリーサンゴリアス 189 103 32 100
⑧ウォレス・シティティ チーフス 187 113 22 5
⑨キャム・ロイガード ハリケーンズ 183 88 23 5
⑩ダミアン・マッケンジー チーフス 177 78 29 56
⑪マーク・テレア ブルーズ 186 94 27 15
⑫アントン・レイナートブラウン○ チーフス 185 96 29 79
⑬ビリー・プロクター ハリケーンズ 187 96 25 1
⑭セヴ・リース クルセイダーズ 179 87 27 30
⑮スティーヴン・ペロフェタ ブルーズ 181 85 27 5
⑯ジョージ・ベル クルセイダーズ 183 107 22 1
⑰オファ・トゥウンガファシ ブルーズ 195 122 32 63
⑱フレッチャー・ニューウェル クルセイダーズ 186 121 24 20
⑲ジョシュ・ロード チーフス 205 106 23 6
⑳ピーター・ラカイ ハリケーンズ 186 108 21 -
㉑TJ・ペレナラ リコーブラックラムズ東京 184 90 32 87
㉒デービッド・ハヴィリ クルセイダーズ 184 88 29 28
㉓ルーベン・ラヴ ハリケーンズ 183 90 23 -
※左から背番号、名前、所属、身長、体重、試合当日の年齢、キャップ数。
※◎は主将、◯は副将。