logo
喜び、違和感、そして誇り。岡部崇人と竹内柊平、代表合宿で所属チームと真剣勝負
イーグルスのグラウンドを、日本代表として訪れた岡部崇人。沢木敬介監督と。(撮影/松本かおり)
2024.10.18
CHECK IT OUT

喜び、違和感、そして誇り。岡部崇人と竹内柊平、代表合宿で所属チームと真剣勝負

田村一博

◆難しさより「面白さ」を感じています。


 凱旋ではないけれど、「さすが、ジャパン」やら「おい、ジャパン」の声が嬉しかった。
 短い言葉には、愛情と親しみ、そしてリスペクトの感情が詰まっている。

 10月13日から3日間、日本代表のFW合宿が関東で実施された。
 2日目、3日目にはそれぞれ、横浜キヤノンイーグルス、浦安D-Rocksとのスクラム、ラインアウトのライブセッションがおこなわれた。

 イーグルス所属の岡部崇人、D-Rocks所属の竹内柊平にとっては、別チームのフロントロー(PR)として同僚たちと対峙する滅多にない機会だった。

「ジャパン側で、僕がいちばん気合が入っていたはず」と言った岡部は、1番に入って組み合った。
 日本代表が大事にしているのは、低さと(相手との)近さ。自分たちの強さを出せる低い姿勢と、相手に力を出させない距離をとることに集中した。
 もうすぐオールブラックスと戦う。一貫性が求められる。

 イーグルスは、沢木敬介監督以下、全員で「いじってきた」そうだ。
「さすが、ジャパン」の言葉での揺さぶり、監督による練習中の揺さぶり。
「監督は足も踏んできました」

 そんな中で、何回も組んでいくうちにジャパン側の強さが増していった。

「ジャパンのスクラム、ラインアウト、モールをやり切ることにフォーカスしました」という岡部は、「自分たちにフォーカスして相手をドミネートする。それが今日の(代表側)テーマでした」とした。

上宮高校、関西学院大学卒の29歳。180cm、105kg。日本代表キャップ4。(撮影/松本かおり)

 日本スタイルのスクラムを追求し続けている。相手どうこうでなく、それが第一歩。それが一貫性を呼ぶ。
 実践して、自信を得て、課題をあぶり出す。セッション後には、すぐミーティング。全員で話し、修正の方法を話し合う。

 簡単ではない作業を毎日続けているが、岡部自身、面白みを感じているという。
「各選手にいろんな癖がある。それ自体が学びになるし、その人たちと合わせようとするときに、思考力が伸びます」

 キャップ4。「いい意味で慣れてきています」と言う。
 FW合宿中には、焼肉店でのチームディナーがあった。たらふく食べ、話した。
 新しく加わった選手の顔もあった。「(その選手が)知らなかった過去の話などもしてくれて、人を知る、という点で、いい機会になりました」

 オールブラックス戦の舞台は、所属するイーグルスのホストスタジアムのひとつ。そこで最強国のひとつと戦いたい気持ちは強い。「(出場するとなると)緊張するとは思いますが楽しみです」の言葉から高鳴る胸の内が伝わって来た。

◆ファーストパンチを打たないと。



「自分のグラウンドにバスで来て、D-Rocksの円陣での掛け声を聞きました。違和感がありましたが、わくわくしたし、とてもいい収穫を得られました」
 そう話す竹内の頭が丸刈りになっていた。

 マロ・ツイタマの髪型を真似ようとパーマをかけた。しかし、想像していたものと違い、似合わなかったから丸めたと説明した。
 どんなときもハキハキ答える。そんなムードメーカーが、所属チームとのセッションでいつも以上に燃えていた。

スクラムとラインアウトのセッションを終え、浦安D-Rocksの選手たちと健闘をたたえあう。(撮影/松本かおり)

「おい、ジャパン」
 そんな風にいじってきたD-Rocksの選手たちが、この日に向けてどれだけ準備してきたか知っていた。
 結果、ジャパンは最初のうちは圧を受けた。そして、盛り返していった。

「(普段から)切磋琢磨している相手と組んだからこそ、自分に足りないものも見えました。ジャパンの強みも、D-Rocksの強みも分かった。充実した一日でした」

 先にやられたことを反省した。それがテストマッチなら、取り返しのつかないことになるからだ。
「特にニュージーランドにファーストパンチを打たなければ絶対に勝てません」
 声やプレーでチームのエナジーを引き出すのは、自分の武器であり求められている役割と理解している。

 セットプレーの重要性を理解し、責任と期待を背負ってプレーしている。
 チームの掲げる『超速ラグビー』の威力の大きさは、スクラムやラインアウトの安定が前提となっているからだ。

「例えばスクラムで圧力をかけて、相手の足を止める。それがあってこそ、そのあとのスピードある攻撃が効く」
 超速は、何もBKだけが主役ではない。足がかりは自分たち、という誇りと責任を持って取り組む。

 竹内も岡部同様、低さへのこだわりを話した。「自分たちの低さ」が大事だ。
 相手より低くが基本。ただ一辺倒なら、上から押し潰しにくるチームもあるし、第二波で出てくるところもある。
 コミュニケーションを取って考え、その時の最適の低さを見つけて組むパックになることが理想だ。

宮崎工業高校、九州共立大学と、無名の学生時代から階段を昇って来た。183cm、115kg。日本代表キャップ10。(撮影/松本かおり)

 この合宿から3番にはクボタスピアーズ船橋・東京ベイの巨漢、オペティ・ヘルも加わった。その新しいチームメートについて、「自分の何倍もフィジカルの強さがある」と認める。
「なので、僕はスキルやトークの部分を出してチームに貢献します。タメ(為房慶次朗)も含め3人で切磋琢磨を続ければ、若くて強いフロントローを作っていけると思う」と前進し続けることを約束する。

 最近、FWの中では『バイオレント』という言葉が浸透している。いろんな局面で激しく前に出ていこう。そんな意識付けを強くする言葉だ。

 今回のFW合宿で一人ひとりの距離はより縮まり、絆は太くなった。ひとつの塊になって、ラグビー界の巨大な存在、黒衣の男たちに立ち向かう準備を続けていく。



ALL ARTICLES
記事一覧はこちら