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東筑で鍛えられた。ボールキャリーもタックルも。吉村乙華[女子日本代表]
好きなLOはイングランド代表のマロ・イトジェ。「ハードワーカーで、ボールによく絡む」。(撮影/松本かおり)
2024.10.05
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東筑で鍛えられた。ボールキャリーもタックルも。吉村乙華[女子日本代表]

田村一博

 ボールキャリーはチーム最多の19回。66メートル走り、14回のタックルと、よく働いた。

 9月27日に始まった『WXV2』(女子世界大会)の初戦、同日おこなわれた南アフリカ代表戦で日本代表は24-31と敗れた。
 しかし、5番のジャージーを着た吉村乙華(おとか)は、冒頭のスタッツが表すように体を張り続けた。

 アルカス熊谷所属の23歳。174センチはサクラフィフティーンの中で最長身。肉体改造も進み、体重も83キロある。「重さは1年前と変わらないのですが、その頃はポチャッとしていたのが、いまは写真を見ても引き締まってきたと思います」と話す。

 2023年9月30日のイタリア代表戦から、先の南アフリカ代表戦まで12試合連続でテストマッチに出場中。通算キャップ数は23に達した。
 2022年の10月にニュージーランドでおこなわれたワールドカップ(以下、W杯)ではベンチからのスタートが続いていた。成長のスピードを高めている。

 もともと「ディフェンスの方が好きでした」と言う。そのスタイルが変わり、ボールキャリーの機会が増えたことは、日常のトレーニングが支えている。

 3月から長期の強化合宿をおこなってきたサクラフィフティーンのFW。カール・スレッジS&Cコーチのもと、合宿期間中にスピード(加速)、強いキャリーにフォーカスした練習を繰り返した。
 それが実り、ストロングポジションの姿勢のまま、加速して相手にヒットできるようになった。

「日本の選手の中では大きいのでビッグキャリアーとして期待されている」との意識が重なったことも大きい。
 新しく得たものを強みに感じながらプレーできている。

 福岡県の出身。ラグビーは福岡工、新日鉄八幡でプレーしていた父の存在もあり、中学生のときに始めた。
 学校では陸上部に入り、福岡レディースで楕円球を追った。高校は東筑へ進学した。

WXV2初戦の南アフリカ戦前。FL長田いろは主将の吉村評は「お姉ちゃん的存在でリーダーシップがある」。(©︎JRFU)

 中学時代に残した競技成績が、吉村のアスリート性の高さを伝える。
 砲丸投げに特に強く、北九州市1位、県3位、通信陸上1位、全国大会出場、ジュニアオリンピック出場の足跡を残している。
 走ることも得意。リレーで市1位、県7位、100m走が市3位、100mハードルで県6位。当時は線が細かったものの、砲丸投げに特化して逞しくなったと本人は記憶している。

 陸上競技で将来を嘱望された存在だったのに、楕円球に惹かれた。『将来はラグビーでオリンピックに出たい』という夢を抱き、高校ではラグビーへの専念を決意した。

 東筑高校への進学を決めたのは、中学時代の恩師、田上晴信先生の勧めもあったからだ。
 同先生は、東筑を花園に3度連れて行った小田守男先生の一番弟子(門司高校勤務時の教え子)だ。

 東筑で吉村を指導した畑井雅明先生は、受験前に練習見学に来た時のことを記憶している。母親と一緒だった。
「『女子だからと特別扱いは…』的なことを私が言ったところ、『自分の成長のためにも男子と一緒に本気で練習したい』と申し出てきたことを覚えています。実際に入学後はすべてのメニューを男子部員と一緒におこない、フィジカルとメンタルを鍛えていました」

 高校時代は様々な合宿、遠征に参加して学校を離れることも多かった。しかし学業を怠ることはなく、文武両道を成し遂げた。
「遠征先からその日の活動に対する自己分析を連絡するなど真面目な性格でした。怪我も多く、松葉杖をついたり顔にアザを作ってきたりで、周囲の友人や教職員から心配されることも多かったのですが、それ以上に活躍を期待して応援される様な人物でした」(畑井先生)

 吉村自身も、「高校時代がなければ、いまの自分はない」と話す。部員として受け入れてくれたこと、分け隔てなく男子と練習させてもらえたことに感謝する。
 大学時代(立正大)にさらに力を伸ばし、現在のステージにたどり着いた。

 2024年に入ってから前戦までの8テストマッチすべては、佐藤優奈とLOコンビを組んでいる。3歳上のその人は、信頼できる人であり、ライバルでもある。

「優奈さんは(ラインアウト時の)コーラーとして経験値もあるし、信用できる人。私はコーラーは、あまりやってきていません。尊敬しているので学んでいきたい。でも同じポジションなのでライバル意識もあって、優奈さんがいいプレーをすると、自分も、と思います」
「自分の良さを生かし、優奈さんにないものも出していきたい」とも話す。

 10月5日(日本時間、午後9時キックオフ)におこなわれるスコットランド戦(WXV2第2戦)にも5番のジャージーで先発する。
 チームを率いるレスリー・マッケンジー ヘッドコーチも、「フィジカル面が強く、アスレチックな面も優れている。アグレッシブでもあるし、先を見て動ける選手」と高く評価する吉村への期待は大きい。

 東筑高校には、同校から日本代表キャップを獲得した中野将伍(東京サンゴリアス/7キャップ)と吉村の代表ジャージーが飾ってある。
 そこに、サクラフィフティーンの2025年W杯ジャージーを追加できたら最高だ。

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