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【東京ガスSPIRITS③】前へ転がる。 宗像仁&新居良介
宗像仁の好きなSOは元アルゼンチン代表のファン・マルティン・エルナンデス。(撮影/松本かおり)

【東京ガスSPIRITS③】前へ転がる。 宗像仁&新居良介

田村一博

 今季の開幕戦、9月15日におこなわれた日立Sun Nexus茨城戦に41-14と快勝し、続く横河武蔵野アトラスターズ戦にも28-16。2連勝と好スタートを切った東京ガス。その2試合で10番を背負ったのが西仲隼だ。

 京都産業大学から加入して2シーズン目。
初戦の日立戦ではチームを快勝に導くゲームコントロールが評価され、プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出された。

 伸び盛りの若者の姿を見守るのは楽しい。それは誰にとっても同じ感覚だろう。
 その中でも、特に若き10番の成長を嬉しく思っているのが今年から東京ガスラグビー部のマネジメントスタッフを務めている宗像仁だ。2023年度シーズンを最後に、現役を引退した。

◆温厚な司令塔。目標を立て、逆算。


 2015年度から9シーズン在籍した宗像は、実はもう1年はやく引退するつもりでいた。
 2022年シーズン、チームはトップイーストリーグを制し、三地域社会人リーグ順位決定戦でも1位となり、充実した日々を過ごした。宗像は正SOとして全12試合中10試合に先発出場。ラグビー人生を締めくくるに良い終わり方ができるな、と思った。

 しかしチームに残った。
 将来性あるSOがチームにやって来ると知ったからだ。
「きっちり育てるというか、伝えられるものは伝えてからやめた方がいいな、と考えました」
 ラストイヤーは、「自分自身のことより、チームのことを最優先に考えてプレーする」と覚悟を決めて過ごした。

 最後のシーズンは途中出場の3試合のみ。西仲は7試合に出場し(すべて先発)、ピッチで、チームの真ん中に立つにふさわしい選手となった。
 宗像の胸の中に、「やりきった」の感情が湧いた。

 静岡聖光学院中学校で始めたラグビーを同高校、立命館大学、そして東京ガスと続けた。
 いつも冷静。相手を見つめ、どうされたら嫌か、自チームの力を引き出すにはどうすべきかを考え続けた。
 派手さはないが、信頼の厚いプレーヤーとしてチームに必要とされた。

相手との駆け引きを楽しむSOだった。(撮影/松本かおり)

 キックが上手いのは、幼稚園のときからサッカーをやっていたからだ。左右の足で蹴ることができる。
 そして、この人の足から蹴り出されたボールは前へ、前へと転がっていくのが特徴だ。

 アタック側に大きな利益をもたらす50/22メートルキックのルールがもっと早くからあれば、この人の価値はさらに高くなっただろう。
「相手にも警戒されていましたが、その裏をかくイメージを持ってプレーしていました」と、さらりと言うのがかっこいい。

 1970年代に大ヒットし、漫画やアニメを通して長く愛された『エースをねらえ』の登場人物、テニスの鬼コーチである宗方仁と同じ読み。「テニスをやっていたんですか」と聞かれたことは一度や二度ではない。
 若い人には、漫画が原作の人気ドラマ『JIN-仁-』の登場人物、南方仁(みなかた・じん)のことを出されることもある。名前をいじられることが多い人生。「名前負けしないようにしなきゃ、と思ってきました」と笑う。

『仕事100、ラグビー100』の東ガス魂を体現するのは簡単ではなかったが、信念を持って、理想の東ガスラグビーマンの姿を貫いた。
 自分のやるべき仕事は就業時間内に終わらせる。就業態度はもちろん、生活面も整える。周囲から応援してもらえる人になるため、自分を律した。

 限られた中で成果を残せるのは、高校時代の原体験が生きている。
 進学校に学んでいたから、週に2、3日、一回の練習が約60分という環境だった。その中で2年時、3年時と花園出場を果たした。
 2年時のそれは、部史上初のこと。歴史を変えた喜び、自信も、人生のいろんな場面で自分を支えてくれている。

「自陣からでも攻める、というチームではなく、中盤ではキックでエリアを取り、敵陣でのラインアウト、ディフェンスからなんとかするチームでした。キックをうまく使うとか、そういう面に関しても、その頃の経験が生きているように思います」

 高校時代から「目標を立て、逆算してしっかり行動に移す」という生き方をしてきた人は、いま、バックヤードでチームを支える立場になっても、「仕事もラグビーも全力」のチームスピリットを曲げずに活動し、強くなっていってほしいと願う。
 チームの力を余すことなく引き出す力を、新しいポジションでも出していく。

◆アメリカンフットボールへ挑む。


 宗像と同じ立命館大学出身の新居良介も、2023年シーズンを最後に、チームを離れる決断をした。
 こちらは、新たなチャレンジのためだ。

 新居は2020年度から4シーズンプレー。セブンズ日本代表候補スコッドに招集され、強化合宿にも参加したスピードスターだ。
 2023年11月4日の秋田ノーザンブレッツ戦(73-28。14番で先発)で4トライを奪ったほか、昨季は6試合出場で8トライだった。

 大活躍だった秋田戦の4つめのトライは、この人の良さが詰まっていた。
 後半19分、CTBアンドリュー・ディーガンがうまく転がしたキックに対して反応よく飛び出し、ボールをつかみ、インゴールに入った。

 代表活動などを通じて、いろんな刺激を受けた新居の向上心が高まったのは、不思議ではないだろう。
 より高いステージでプレーをしたい。そんな気持ちを抑え切れない自分がいた。シーズン終了後、リーグワンチームでの挑戦を頭に行動を起こした。

 不退転の気持ちだった。
 望みが届かずとも、チームに復帰する選択肢は自分の中で断った。中途半端な気持ちでは先に進めないと思ったからだ。

 結果的には、願いは叶わなかった。
 しかし、歩を止めなかった。次に踏み出したのは、アメリカンフットボールへの道。
 東京ガスには、クリエイターズというチームがある。Xリーグに所属する同チームで、プレーする決心をした。

175センチ、85キロの新居良介。現在は東京ガスクリエイターズのランニングバック。(撮影/松本かおり)

 母校・立命館大学のアメリカンフットボール部は強豪で知られる。そんなクラブが身近にあったことと、自分の持つスピードと強さが活かせるのではないか、と考えた。
「どこまでやれるか、試してみたいと思い、決めました」

 大学卒業時はトップリーグでのプレーは頭になく、仕事とラグビーに打ち込める環境を求めて東京ガスを選んだ。
 周りに支えられながらの生活で学んだことは多い。先輩、同期、後輩ら、仲間との楽しい思い出もたくさんある。

 楕円球のサイズはひと回り小さくなるが、仕事100、アメフト100の生活に、この4年の経験を生かすつもりだ。
 練習グラウンドは大森から深川へ。防具をつけ、ルールは違い、覚えるべきサインプレーも増えたけれど、慣れるごとに持ち味を発揮できるようになるだろう。

 河内長野ラグビースポーツ少年団、富田林ラグビースクール出身。大阪桐蔭高校で力を伸ばした。
 妹・里江子さんが女子セブンズ日本代表に選出されたことを喜ぶ(弘前サクラオーバルズ)。ラグビーは大好きなままだ。

 9月28日のオール三菱ライオンズ戦でXリーグデビューを果たした。
 その日は妻が観戦する前でプレー。32秒間で3度ボールを持って走り、14ヤードゲインした。

 特に第4クォーター、この日最初のプレーでは相手の強烈なタックルを弾いて、さらに足を動かし続け、前に出た。
 2回目のランでは、巧みなステップで抜き、前進。背番号39の新人ランニングバックは、短い時間の中で存在を印象づけた。

 春シーズンは練習試合で膝の内側靱帯を痛める不運に見舞われた。転向直後で不安な時期があっただろう。しかし、チャレンジ精神を折らずに復帰へ向かったからデビューの日を迎えられた。
 ラグビーから競技が変わっても、変わらず支えてくれる家族や友人、チームメイトやスタッフへの感謝の気持ちを忘れない。

「まだ自分の思うようにプレーできないことがあります。でも、20年間ラグビーで培ったスキルや経験もあるし、アメフトで学んだ新しい知識やスキルもある。それらを使って、新しいことに挑戦できている環境が楽しくて仕方ないです」

 チームには日本代表選手もいる。
「これから、ますますアメフトにハマっていきそうな気がしています」という27歳は、レベルの高い仲間からの刺激をエナジーに、加速していく予感。

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