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前半22分だった。
相手キックをレシーブした日本代表は、中盤でカウンターアタック。FB李承信が前進したラックからの攻撃で、SH藤原忍が持ち味のスピードを見せた。
9月21日に花園ラグビー場でおこなわれたパシフィックネーションズカップの決勝、日本×フィジーでのことだ。
日本は17-41と敗れた。しかし背番号9は、チームのプレースピードを上げようとし続けた。
10-3とリードしていた時間帯。
ラックから出たボールを自らさばき、左で待つLOエピネリ・ウルイバイティへパス。藤原はループの動きで再度ボールを受け、外へ走る。その時のスピードが相手を惑わせた。
フィジー6番のメリ・デレナランギは反応のいい選手だ。回り込んできた藤原へのタックルを試みる。しかしそれを速さと身のこなしで抜き、SO立川理道へつないだ。
チームはさらに大きくゲイン。フェーズも重ね、相手にプレッシャーを与える。
最終的にノックオンでプレーは途切れた。しかし、日本が目指す超速ラグビーを体現したシーンだった。
今季日本代表デビューを果たした藤原は、ジョージア戦を除く6テストマッチに出場。イングランド戦とイタリア戦はベンチからのスタートも、パシフィックネーションズカップの4戦ではすべて先発で起用された。
1999年2月8日生まれの25歳。大阪の茨田北中でラグビーを始め、高校進学は日本航空石川へ。天理大学4年時には大学選手権初優勝を経験している。
クボタスピアーズ船橋・東京ベイでも2022-23年シーズンにリーグワンを制覇。スピードあるプレーでチームにモメンタムを与えるスクラムハーフだ。
フィジー戦では後半14分までプレーした。
チームは後半20分前後から崩れ、終盤に4トライを許した。藤原は相手の圧力に思うように試合を運べなかったことや、キックを使うタイミングについて他に選択肢があったのかもしれないと、試合後に話した。
学ぶことの多い一戦だった。
それでもこの日の前半は10-10。スターターとして試合を作る力は試合を重ねるたびに伸びていると言っていい。
「アタック面を評価して起用している」と言っていたエディー・ジョーンズ ヘッドコーチも、ゲームコントロールの能力についても一歩ずつ成長していると感じている。
フィジー戦後には、「きょうは試練となるようなゲームになりましたが、若いハーフとしてはとてもうまくプレーしています。大きな学びを得ているでしょう。ラック周りの動き、速さに長けていて、パスとランもうまい。成長しています」と話した。
本人も「リーグワンでは味わえないプレッシャーの中でプレーできていることが収穫」と話す。
得意のランプレーを武器として持ったまま、チームに求められている超速の発信源となるプレーに注力している。
なにより、高速での球さばきが自分の仕事。それは「エディーさんに、そこに集中して力を出してくれと言われています」の言葉からも伝わる。『走るよりさばけ』はルールのようなものだ。
しかし、瞬間的に最良の判断をすることこそ超速ラグビーの正解。藤原も、「いける、と思ったらいっています」と言う。
「その判断について怒られるとか、結果が悪ければ怒られるということはありません。ただ、判断したのなら迷わずやり切れ、と」
サモア戦、後半18分に自らインゴールへ飛び込んだプレーは、まさに「いける」と決断して動いたものだった。
お互いにキツイ時間帯。相手反則で得たPK機に自らタップキックで仕掛け、FWを巧みに使い、トライラインに迫る。そして、ラックサイドの防御に僅かなスキができた瞬間、背番号9が走り、トライを奪った。
同じ時間を長く過ごし、選手間の距離がどんどん近くなっていると話す。SHとして、「この選手は前めに放った方がいいとか、手元でもらいたいとか」誰がどんなボールを欲しがっているか分かるようになっている。
それによってボールキャリーやブレイクダウンの質が変わる。それは、日本代表が理想とするスタイルの生命線でもある。
エディー体制が誕生し、指揮官が「超速ラグビー」を掲げたその時、「呼ばれるかも」とチャンスが巡ってきた感覚があったという。
それは現実のものとなった。
「日本代表に選ばれたからにはワールドカップに出て、チームが目指しているトップ4になりたいし、日本代表の歴史を変えたい」の思いも実現させたい。