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毎日、目の前の勝利を積み重ねる。小野晃征[東京サントリーサンゴリアスHC]
NZで暮らす子どもたちと話し、一日が始まる。毎朝4時30分にはクラブハウスへ。(撮影/松本かおり)
2024.09.19
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毎日、目の前の勝利を積み重ねる。小野晃征[東京サントリーサンゴリアスHC]

田村一博

 コスは、ラグビーのことを考えるのが好き。将来、コーチになればいい。
 何年も前に、エディー・ジョーンズ(日本代表ヘッドコーチ)は、そう言っていた。

 コスこと小野晃征が、2024-25シーズンの東京サントリーサンゴリアスのヘッドコーチに就任したと発表されたのが8月29日。9月17日の午後、同HCが報道陣の囲み取材を受けた。

 昨季はアシスタントコーチとしてチームを支えた。現職を打診されたのは、シーズン終盤のことだった。
 プレーヤー時代から「自分の役割を100パーセントやるのが大事」が信条。それは指揮官になっても変わらない。
「(昨季と)ロール(役目)は変わったが、それをやり切る」と話した。

 現在37歳。リーグワンチームの中で最年少のHCとなる。
 本人は「年齢は数字」とそっけない。求められるのは、チームを前にドライブさせることと理解している。

 名古屋生まれも、1歳半で両親とニュージーランド(以下、NZ)へ移住。現地で育ち、クライストチャーチボーイズ高では、のちにオールブラックスとなる仲間とBKラインを成した。U19カンタベリー代表への選出経験もある。

 2007年、当時日本代表HCだったジョン・カーワンに招集されて代表スコッド合宿に参加。19歳の春だった。
 同年4月22日(20歳と6日目)、韓国戦で日本代表初キャップを得た。サニックスでのトップリーグ(当時)出場前のことだ。秋に実施されたワールドカップ(以下、W杯)にも出場した。

 サントリーへの移籍は2012年。2015年のW杯で南アフリカを撃破。サンゴリアスを頂点に導いたのは2016年度だ。
 そのシーズンは全17戦に出場。2019年度まで在籍し、翌シーズンは宗像サニックスブルースで過ごした。

 引退後は、「家族とクライストチャ―チへ戻り、暮らす」ことを第一に考えた。NZと日本を行き来しながらのエージェント業で2年働く。
 そして、チームと本人の思いのタイミングが合った昨季から、ラグビーの現場に戻っていた。

「クラブチームでも、高校でもいい。どこかでコーチングはしたいと思っていたところで話をもらいました。自分がプレーしていたチームに戻れることになったので、家族と相談して決めました」と感謝の気持ちを言葉にする。

 就任1年目のチームスローガンを『WIN THE ONE』としたのは、目の前のこと一つひとつに勝って、前へ進んでいく姿勢をチームに浸透させたいからだ。

 サンゴリアスに求められているものはただ一つ、優勝と理解している。そこにたどり着くためには、一人ひとりが階段を一段ずつ昇っていくしかない。

 自分のことを例に出して言った。
「まず、いまやっているメディアセッションをいいものにする。そして、それが終われば明日以降のプランニングを考える」

「目の前のことに勝っていくのは、自分自身が成長するためにも大事。そして、自分が成長することによって周りも成長する」
 選手、コーチ、スタッフ全員に、そのマインドでいてほしい。

シーズンオフにはラグビー・リーグ、ウォリアーズの練習に参加して学びを得た。写真は昨季のアシスタントコーチ時代。(撮影/松本かおり)

 サンゴリアスには、DNAとも言っていいクラブカルチャーがある。ファイティングスピリッツとアグレッシブアタッキングラグビーだ。「誰が見ても、アグレッシブにプレーしていることが分かるチームを作っていきたい」とする。

 アグレッシブアタッキングラグビ―は、攻撃的、積極的なマインドとボディーが合わさって実現すると考える。

「ボールインプレーの間、仲間のためにタックルする、立ち上がり、すぐに次のブレイクダウンに走る。そのマインドでいたら、きっと体もついていく。そのプレースタイルに合った体をS&Cと連係して作り、自分たちのスタイルで80分戦えるチームにしたいですね」

 バイリンガルの能力が自分の武器なのは、選手時代から変わらない。2015年W杯のときはエディーと選手たち、日本人選手たちと外国出身選手たちをつなぎ、ひとつの意志を持った集団にした。
 いつ、どのチームでも、そうしてきた。

 自分がHCに就いてから、ミーティングやハドルの中で話す時は、日本語と英語をミックスしている。
 明確な線引きはない。「大事なことはメッセージが伝わり、全員が理解すること」とし、感覚で言語を変えている。

 現在のチームには、ともにプレーしていた選手たちが、15人ほどいる。同じ目的に向かって汗を流した仲間たちだ。気心が知れた仲。信頼は何も変わらない。
 しかし、コーチと選手の距離感を曖昧にするつもりはない。メリハリをつけ、厳しさのスタンダードはいつも、誰に対しても同じにしようと思う。

 その一方で、クラブハウスを出ればコスの顔に戻る。そう言うのは、「ストレスをためないこと」がラグビーの時間の集中力を高めると知っているからだろう。
 自分をコントロールすることは、若い頃から長けている。

 エージェント業に就いた2年もためになった。「人との関係性が大事、という点では(コーチングと)似ているところがあると思います」と言う。
 50人から60人の選手のマネジメントに関わった。人によって何を大事にしているのか違う。「一人ひとりのことをしっかり見る、ということが勉強になりました」。
 サンゴリアスには55人の選手がいる。同じように、気を配っていくつもりだ。

 171センチの体躯で日本代表キャップは34。特にキックが長いわけでも、ステップが鋭いわけでもないのに戦えたのは、よく考え、その時やるべきことをシンプルにして動けたからだ。
 その思考は、HCになってもきっと変わらない。

 一日一日、目の前のことに勝っていけば、目指すゴールにたどり着く。それを実現するため、深く考え、シンプルな指示を出す日々が続く。
 日本人選手、外国出身選手に関係なく、『サンゴリアスがやりたいラグビーはこれ』とストレートに伝える。

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