logo
男子セブンズ代表新指揮官は「もっとアスリートにならないと」。15人制代表、リーグワン、大学との絆を太く
1975年10月3日生まれの48歳。日本の文化を愛している。(撮影/松本かおり)
2024.09.11
CHECK IT OUT

男子セブンズ代表新指揮官は「もっとアスリートにならないと」。15人制代表、リーグワン、大学との絆を太く

田村一博

 男子セブンズ日本代表の強化は、現在の日本ラグビーにいくつもあるカテゴリーの代表チームの中で、もっとも難しい立場にあると言ってもいいだろう。

 パリ五輪には出場した。しかし全敗。12位と最下位に終わった。
 3大会連続でオリンピックに出場してはいるものの、リオで4位となった以降は低迷が続いている。

 だから選手たちはそこを目指さないのか、その舞台を必死で目指そうとする選手たちが少ないからレベルアップできないのか、堂々巡りの議論が長く続いている。

 そんな現状もあり、日本の男子選手たちのほとんどは五輪よりワールドカップに大きな憧れを持っているのが現実だろう。
 7人制より15人制。セブンズ活動に参加するより、自チームでのレギュラー獲得、プレータイム増加の方を求める選手がはるかに多い。
 その方が、多くの人にも見てもらえる舞台に立てる。

 女子セブンズ代表のように、HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズに常時出場できているなら、世界と戦う魅力を追求する選手も出てくるだろうが、現在はそのステージにも立てない。
 男子セブンズの復興を実現しようとする時、越えなければいけない障壁は多い。

 そんな現状を変えるためにフィル・グリーニングはやってきた。
 9月1日に男子セブンズ日本代表のヘッドコーチ(以下、HC)に就任し、9月7日、8日に韓国・仁川で開かれたアジアセブンズシリーズ第1戦で指揮も執った。同HCの会見が9月10日、都内で開かれた。

 プレーヤーとしての経験も、コーチング歴も豊富な人だ。
 イングランド代表のHOとして獲得したキャップ数は24。1999年のワールドカップにも出場し、ブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズへの選出歴もある。

 英・グロスター生まれの48歳。地元クラブのグロスター、セール・シャークス、ワスプスに所属し、30歳までプレーした。

 現役引退後はロンドン・ウェルシュ(15人制)のヘッドコーチを務めたこともあるが、主にセブンズの世界で指導者としてのキャリアを積んだ。
 イングランド代表のアシスタントコーチを皮切りに、スコットランド協会に請われて強化に取り組んだ時期もある。

 直近の10年はアメリカにわたり、セブンズマスターのマイク・フライデーHCとともに働いた。
 男女のセブンズプログラムの中枢に関わったほか、15人制の強化にも部分的に影響を与えた。

 パリ五輪で、7人制アメリカ代表は8位という成績に終わった。それを最後に日本へ。
 チーム再建へ向け、まずは2年の契約を結んだ。
「2年でワールドシリーズ(HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズ)のコアチーム入りを果たし、残りの2年を使ってロサンゼルス五輪(2028年)への準備をするつもりです」

 15人制代表、リーグワンチーム、大学チームとの連携を深めていきたい意向を持っている。
 日本ラグビー協会も含め、結束することが重要だ。

 日本のリーグワンや大学の各チームは在籍している選手も多く、誰もが十分なプレータイムを得ているわけではないと分析する。
 ならば、セブンズの素養を持つ選手に関しては代表チームで経験を積み、進化し、それが所属チームのためにもなればいいし、15人制代表への選出にもつなげたい。

 グリーニングHCは、自身が関わってきた各ラグビー協会で、セブンズを成長プロセスとして使うケースが多かったとする。
 例えば、過去のイングランドならジェームス・ハスケルやダニー・ケアらがセブンズ代表から15人制代表に育った。
「ニュージーランドなら100人以上がセブンズからオールブラックスになっています」

 南アフリカでも、クワッガ・スミスやチェスリン・コルビがセブンズ出身だ。
 日本でも福岡堅樹がセブンズで経験値とスプリント回数を伸ばし、さらに大きく成長した例がある。

「日本人のコーチの育成もしていきたい」。左は男女セブンズ日本代表のチームディレクターを務める梅田紘一氏。(撮影/松本かおり)

 そのパスウェイを作るには、まず自分たちが各チームから信頼を得ることが大事と新HCは理解している。
「セブンズ代表のプログラムを経験すれば選手たちが確実に成長して戻るとなれば、信頼してもらえるようになると思っています」
 まずは自ら各チームに足を運び、理解を求める。

 新HCは、セブンズの理解とともに、トレーニングやスキルセットの分野にも造詣が深い。
 現在の男子セブンズ日本代表を見て注力したいとするのは、コンタクトエリアで必要なフィジカル面と、ストレングス&コンディショニングの強化だ。

 アメリカ代表と日本代表を比較して話す。
「アメリカの選手は、パスはうまくないけれど、アスリートとして優れている。日本の選手は、パスはうまいし、ラグビーIQも高いのにアスリートとして足りない」

「現在のセブンズは、ブレイクダウンの激しさが以前より増しています。選手たちのサイズも大きくなっている」
 ただ15人制のスター選手が簡単に通用しなくなっていることからも分かるように、テクニカルな部分の追求も求められるから、「その点については日本の選手は有利」とする。

 現役引退後、一時シンガポールに住んだこともあり、アジアに親しみを持つ。
 特に日本の文化が好きで、これまでの自分のコーチングの中にも「わびさび」や「一期一会」の考え方を活かしてきたという。
 アサヒビールも愛飲する。

 とにかく2年でワールドシリーズに復帰することが大事。それができれば、選手派遣も強化もうまく回り出すと考える。
 チームが目指すプレースタイルは、ディフェンス面では「ワークエシック」がすべてとする。何度でも前に出て、倒れては起き上がり、抜かれても諦めない態度と体力を作り上げる。

「アタックではスペースを探す、作り出すことが大事。そしてスピードあるプレーをする。攻守において、フィジカリティーがもっとないと思うレベルには達しません」
 高いスタンダードを設定して、鍛え上げるつもりだ。

 多くの指導者とチーム強化にあたってきた中で、ウォーレン・ガットランド(ウェールズやブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズで指揮を執ったほか、多数のクラブで指導)のコーチングには感銘を受けた。

「彼のコーチングフィロソフィーは、きちんと才能を発掘し、そのチームに合ったような育成をおこない、成熟させていくことです。そこは見習いたいと思っています」

 男子セブンズ代表浮上に燃える新指揮官の情熱に応えるためにも、男女セブンズ日本代表のチームディレクターを務める梅田紘一氏など、周囲による環境整備は必須となる。
 選手たちが目指したい場所、各チームが所属選手を推薦したくなる代表にしなければいけない。


ALL ARTICLES
記事一覧はこちら