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チームを貫いている一体感は、ふたりの言葉から伝わってきた。
9月7日(土)、熊谷ラグビー場でおこなわれるパシフィックネーションズカップの日本戦を戦うアメリカ代表は、同6日にキャプテンズランをスタジアムで実施し、その後、記者会見に臨んだ。
スコット・ローレンス ヘッドコーチ(以下、HC)とLOグレッグ・ピーターソン主将は、「試合が楽しみ」と声を揃えた。
「日本は初戦(対カナダ/55-28)でとてもいいパフォーマンスを見せた。(アメリカとの一戦も)エキサイティングな試合になる」と指揮官。
主将は「これまで戦ってきた試合は、どれもワクワクするものだった。明日もペースのはやい試合になると思う」とした。
ローレンスHCは、日本について「ボールキャリーに長けている選手がいて、外にはスピードのある選手がいる」と分析した上で、自分たちのプレーにフォーカスすることに注力したいと話した。
「アメリカの試合をします。自分たちのすべきことに集中します。そのためにも規律が大事。そこを守れたなら、自分たちの持ち味であるフィジカル面の強さも出せる」
「勇敢に戦いたい」と話した。
2023年にフランスで開催されたワールドカップ(以下、W杯)は予選で敗退し、出場がならなかった。2031年には、自国でW杯が開催される。
現在の代表チームは世代交代期でもある。指揮官は、「2031年をにらんだメンバー構成になっています。しかしベテランもミックスさせている。その選手たちには、若い選手たちにインスピレーションを与える役目を期待しています」とする。
「テストマッチをどう戦うべきなのか、経験を伝えてほしい。試合に出ない若手も、それを見て学ぶ必要がある」
自身もアメリカ代表FLとして国際舞台で戦った経験がある。2023年のはじめにHC代行となり、今年に入って正式に代表指揮官となった48歳は、じっくりとチーム力を高めていく計画を口にした。
同HCについてピーターソン主将は、「明確なビジョンを示してくれる人」と言った。
「スコットは私たちにムーンショット(困難だがやり甲斐のある目標)に向かっていこう、と言ってくれた。みんなスコットを信じています。苦しい時を乗り越え、チームはいま、一丸となって次の目標に向かっています」
主将はRWC2023へ出場する道が閉ざされた時、人生について考え、悲嘆に暮れたという。
「しかし、トンネルの向こうには光があると信じています」
若い選手たちには「こういう経験が人を強くする」と話した。
ピーターソン主将はオーストラリア生まれ。206センチ、125キロとサイズに恵まれ、U20オーストラリア代表に選出された。ワラターズに加わり、スーパーラグビーの舞台に立ったこともある。
現代表の道を選んだのは両親がアメリカ人だからだ。
ワラビーズへと続く道が険しかったことは想像に難くない。同主将は、国際舞台へ進むための選択を「ひとつの扉が閉じた時、もうひとつの扉が開いた」と表現した。
自身の暮らしを「アメリカ的な家庭で育った」と話すキャプテンは、生活の中でアメリカにルーツがあることを感じていたし、何度もアメリカを訪れたという。
父はウィスコンシン州、母はオレゴン州の出身。鷲のエンブレムを胸につけることに抵抗はなかった。自身の決断に「間違いはなかった」と言う。
2014年に初キャップを獲得して以来、45キャップを積み上げた。2015年と2019年のW杯にも出場している。
グラスゴー・ウォリアーズやプレミアシップ(英)、トップ14(仏)を経て、現在はメジャーリーグ・ラグビー(以下、MLR)のサンディエゴ・リージョンに所属。若手の良き手本となっている。
主将が現在プレーするMLR(12チーム)は、2031年にW杯を迎える同国のラグビー環境を整える上で重要な役割を果たしている。
ローレンスHCはMLRの存在により、100人ほどの同国ベースのフルタイムプロ選手が誕生。代表候補の選手層を厚くしつつあるという。
また、選手の増加だけでなく、プロコーチの数も増え、ラグビーにおけるプロフェッショナル思考の高まりも呼んでいる。ファンの拡大にもつながる。
同HCは「本当の成功には時間がかかるだろうが、各チームがアカデミーを作り、ベテラン選手が若手を育てる機会も増えているので時間が経てばもっと良くなる」と展望を語る。
ラグビー普及面について主将が、小さな子どもたちにボールに触れてもらうプロジェクトを進めていること、小さな一歩を重ねていっていることを伝えると、HCが続けて言った。
自分たちのチームルームにはバナーが貼ってあり、そこには、各州の選手登録数が書いてあることを紹介した。
「その数字を見て、いつも感じることがあります。まず、それぞれの場所に、代表活動を支えてくれている人や、コミュニティーがあることへの感謝の気持ち。もうひとつは2031年に向け、もっと選手数を増やしていかないといけないな、との思いです」
楕円球を追う子どもたちの数は増えている。「その歩みを止めないようにしないと」と誓う。
2031年まで、あと7年。
代表チームが残す結果は、勝った、負けただけに終わらず、この国のラグビーの未来を照らすことにつながると、誰もが理解している。
熊谷でも、そのスピリットが感じられる戦いを見せるだろう。