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【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】新鋭たちが先発。NZ版ボムスコッドも。オールブラックス動く
なんとかチームを勝利に導きたいLOスコット・バレット主将。(Getty Images)

【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】新鋭たちが先発。NZ版ボムスコッドも。オールブラックス動く

松尾智規

 ニュージーランド(以下、NZ)国内のラグビーファンは、やきもきしている。
 ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)第3節、NZ代表オールブラックスは、27-31で南アフリカ代表 スプリングボックスに敗れた(8月31日)。

 後半20分くらいまで、オールブラックスは上手く戦った。スプリングボックスのラッシュディフェンスにも上手く対応し、11番ケイレブ・クラークの2つのトライを演出した。
 合計4つのトライを挙げ27-17の10点差でリードしていた。ある意味安心して試合を見ることができた。

 しかし、ファイナルクォーターに入ると一気に流れが変わる。すっかりお馴染みとなったスプリングボックスの“ボムスコッド”の控えの選手たちが、インパクトあるプレーを見せた。
 残り時間15分の間に2トライ。14点を挙げ試合をひっくり返した。

 逆転を狙うオールブラックスだったが、ブレイクダウンにおいてレフリーとの解釈の違いに対処できずに反則でリズムに乗れず。キッキングゲームにおいてもボールを相手に渡しているだけだった。大ベテランの15番、ボーデン・バレットの状況判断さえも鈍らせた。

 トライ数は、4-3と上回りながらもオールブラックスがスプリングボックスとの初戦を落とした。
 この嫌な負け方に、試合後のトークバックラジオは、数日間はいつものごとく荒れる事となる。
「ボックス(スプリングボックス)のボムスコッドに対抗できるようなメンバーが必要だ!」
 ラジオのリスナーたちが、セレクターとなってさまざまな意見を論議する。NZ国内のラグビーファンは熱い。

◆シティティ、ラティマの新鋭が先発。ベンチは経験者を揃えた布陣に


 TRC第4節、スプリングボックスとの2戦目の試合は、南アフリカ時間の9月7日、17時(日本時間:9月8日、午前0時)にケープタウンにあるDHLスタジアムでキックオフとなる。

 その試合に挑むオールブラックスのメンバーが9月5日に発表れた。
 今季ここまで、フィジー戦を除いて大きな動きがなかったセレクション。ここにきてヘッドコーチ(以下、HC)のスコット・ロバートンをはじめセレクター陣が大胆に動いた。

 メディアを賑わせた一つとして真っ先に挙がるのは、新人のFL/NO8ウォレス・シティティを先発メンバー(6番)に抜擢したことだ。
 ここ数試合コリジョン(衝突)で良いパフォーマンスを見せていたイーサン・ブラカッダーがハムストリングを負傷した。わずか2キャップ(いずれも途中出場)のシティティにチャンスが巡ってきた。

 シティティの先発起用に関してロバートソンHCは、「彼(シティティ)は、とんでもないアスリート。こういう試合(大一番)に向いている」と語り、「素晴らしいでフェンダーであり、素晴らしいスキルを持っている、私たち(セレクター陣)は、この1か月間、彼に感銘を受けた」と絶賛した。
 シティティ自身は、「まだ少し圧倒されている感じはあるけれど、とにかく興奮している、そこ(試合)に集中したい」と闘志を燃やしている。

 普段のポジションはNO8だ。6番の経験はNPC(NZ国内選手権)レベル。そこが気になる。
 これについては、「大きな変化だが、今週はしっかり準備してきた」とシティティは語った。

 BKに目を向けると、9番にコルティス・ラティマが今季2度目の先発の座を勝ち取った。
 これにより、チーフスのチームメイトの10番、ダミアン・マッケンジーとのハーフ団となり攻撃面で期待が持てそうだ。

 その他の変更を見ると、バックスリーを大きく動かしてきた。
 先週、右WTBで出場したウィル・ジョーダンが、ロバートソンHC体制で初めて15番を付けてメディアを賑わせた(代表で2回目のFBでの先発)。
 WTBは、先週の試合で背中を痛めたケイレブ・クラークの代わりに11番マーク・テレア、14番にセブ・リースが入り、超攻撃的なバックスリーとなっている。

 ベンチに目を向けると、FW第3列の控えは3つのポジションをすべてこなすことができるルーク・ジェイコブソンがベンチ入りを勝ち取った。
 先週ベンチ入りしていたFLサミペニ・フィナウはインパクトを残せず、今週はベンチから外れた。ケガが癒えてセレクション対象となっていたFLダルトン・パパリィイがメンバー外になったのは興味深い。

All Blacksの公式『X』より

 シティティ、ラティマの先発抜擢と同じくらいメディアを賑わせたのは、SHのTJ・ペレナラとFBボーデン・バレットがベンチに降格となった事だ。
 これに関してロバートソンHCは、「タフな選択だった」と語り、「試合の終盤に経験者が居ることが非常に重要であることを認識した。多くのテスト(代表の試合)と多くの経験を積んだこの2人の名前をそこに(ベンチに)載せる事は、素晴らしいこと」と続けた。

 あくまでも降格でなく、前週の終盤に逆転された教訓から、後半に経験のある選手を起用する作戦をとったことになる。
 控えのBK陣は、ペレナラ(85テストマッチ)、バレット(129)、アントン・レイナートブラウン(76)と、経験豊富な3選手がベンチで待機する。相手にとっては不気味だ。
 スプリングボックスに対抗しての “ボムスコッド” を形成したと言えるかもしれない。

◆フィジカル戦に注目。オールブラックスはキッキングゲームの改善が鍵


 世界チャンピオンが相手でも連敗だけは避けたいオールブラックス。連敗ストップの鍵はフィジカルバトルが真っ先に浮かぶ。前戦では特に終盤の大事な場面にジャッカルされ、攻撃を遮断された。
 前戦で苦戦したレフリーの解釈とともに、ブレイクダウンでの攻防は見応えがありそうだ。

 そして、前戦では精彩を欠いたオールブラックスのキッキングゲームの改善も必須になってくる。今週は、ジョーダンが15番。展開ラグビーにおいて大いに期待できる。

 しかしタイトなテストマッチは、展開ラグビーの多いスーパーラグビーとは違ってキッキングゲームの精度が試合を左右する。
 キッキングゲームに長けているスプリングボックス相手に、オールブラックスの10番、マッケンジーをはじめ、上背のないリースのキック処理、15番としてのジョーダンのキッキングゲームがビッグマッチでどこまで通用するか注目される。

 大胆とも言える今回のセレクションについては、NZ国内で賛否が分かれている。
 現在スプリングボックスに3連敗中のオールブラックス。4連敗となると、NZ国内のラグビーファンがこれまで以上に荒れることになりかねない。
 見どころ満載の好敵手の対戦は、激戦になると約束されている。




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