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【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー】日本は予選1位通過で準決勝進出。
乗松聖矢のハードワークと献身的なアシストが光った。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー】日本は予選1位通過で準決勝進出。

張 理恵


 ついに4強が出揃った。
 パリ2024パラリンピック、車いすラグビー競技3日目の8月31日、予選ラウンド最終戦4試合がおこなわれた。
 日本はカナダとの一戦に臨み、前半でオフェンスにアップダウンが見られたものの、安定したディフェンスできっちりと立て直して50-46と勝利を収め、準決勝進出を果たした。

「パフォーマンスよりも、日本のラグビーを頭の中に叩き込んだ」。3年間の努力がプレータイムに表れている小川仁士。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 初戦、2試合目と同じスターティング・ラインアップを起用した日本は、安定した立ち上がりを見せる。しっかりと自分たちのリズムが作れているのは、強いディフェンスがあるからだ。
 経験豊富な「ハイポインター」(障がいの比較的軽い選手)と、若手の「ローポインター」(障がいの重い選手)で組む「ハイローライン(アップ)」。日本が伝統的に強さを誇るラインアップだ。

 司令塔の池 透暢と池崎大輔、そして守備の要となる小川仁士と草場龍治。1年をかけて、国際大会での実戦を通して連係に磨きをかけてきた。
 車いすラグビー競技歴は4年に満たないが驚異の成長スピードで駆け上がってきた草場。そして、東京パラリンピックでチームの戦力になれなかった悔しさを原動力に「ラグビーを知ること、日本のラグビーをしっかりと頭の中に入れる作業をした」という小川。2人のパフォーマンスの向上が、このラインのベースを押し上げた。
 池と池崎のボールプレッシャーも冴え、ターンオーバーを奪いながら順調な試合運びで日本がリードする。

写真左上/池透暢主将は「チーム内のコミュニケーションの向上がプレーの成長につながった」と語った。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)
写真右上/準決勝に向け、橋本勝也は「自分たちはディフェンスで世界一を取れるチーム」と自信を見せた。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)
写真左下/この先の戦いでは「アンフォースドエラーをゼロにすることが重要」だと語った池崎大輔。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)
写真右下/全力で楽しむために、全力を尽くす倉橋香衣。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 第2ピリオド序盤で5点差までリードを広げたが、相手のディフェンスにより、車いすをこぎ出すタイミングがずれる等してパスミスが起き、ターンオーバーを次々と与えてしまう。ラストトライを狙った前半終了間際にも、日本のバイオレーションからボールの所有権がカナダに移り、25-25の同点で試合を折り返した。

「同点に追いつかれても、残りのタイムアウトの数ではリードしていたし、自信を持って、もう一回一つひとつのプレーを丁寧にやっていこう、そして、それをやり続けることが僕らのラグビーだということを再確認して後半に臨んだ」と、キャプテンの池。

 その意識が安定感を取り戻し、しっかりとギアを入れ直した日本はアグレッシブに攻める。もう揺らぐことはない、そんな安心感すら与える戦いぶりで、着実に得点を積み重ねる。
 大きくスペースをとって、リスクを最小限に抑えたうえでロングパスを放ち、それを受け取ったローポインターも次々とトライを決めた。
 結果、50-46で勝利を収めた。予選ラウンド(プールA)をトップで通過し、準決勝進出を果たした。

超満員の観客がシャン・ド・マルス・アリーナを埋め尽くした。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 初戦より2戦目、2戦目より3戦目と、試合を重ねるごとに連係の精度があがっている。
 この日の試合でも、橋本勝也と乗松聖矢が“お手本”のような2on1を見せたり、トライライン手前の「キーエリア」と呼ばれる場所では4人がコミュニケーションをとって、ローポインターがコーナーのスペースを確保するなど、うなってしまうほどの見事なプレーが連発した。

 チームプレーの成長について質問すると、必ずといってもいいほど「コミュニケーション」というワードが返ってくる。
 チーム全体を見ると、ハイポインターに経験豊富な選手が多いのに対し、ローポインターやミッドポインター(障がいが中程度の選手)には若手が多い。

 キャプテンの池によると、試合や練習のビデオを見ながらチームで話し合うとき、以前はハイポインターが中心となって意見を言っていたという。しかし今では、「ローポインター側からも、こうした方がいいんじゃないか、もっとこういうふうにやってほしいという要望がどんどん出てくる」という。

 うまくいかない時に、どこに原因があるのか、こうしたらうまくいくよとお互いが言い合えるようになったことで、2on2やスクリーン、スペースをとるタイミングも良くなってきたと語る。

短いプレータイムの中でも自身の役割をしっかり果たした中町俊耶。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

「合宿中に毎晩、映像を見ながら、ミッドポインターとローポインターが熱心に勉強して、すごく力をつけてきた。1個1個の確認作業を、ハイポインター以上にローポインターが努力してやっていて、そういうことがチームの底上げにもつながった。ハイポインターが助けられる状況が作られているのも、彼らのおかげだと思う」

 付け加えると、そうやって映像を見ながら自分たちで考え、打開策を見つけていくなかで、相手のディフェンスを瞬時に打開する力や適応力がついてきたと、大会前に池は話していた。

 勝つべくして、勝ち上がってきた日本が、いよいよ準決勝に臨む。
「絶対に自分たちはディフェンスで世界一を取れるチームだって自信を持って言える。
勝ちたい。準決勝で負けたくはない」
 橋本勝也は力強い目で、湧き上がる思いを語った。

 準決勝の相手は、宿敵・オーストラリア。
 東京パラリンピックからの3年分の思いを「いつも通り」の奥に注ぎ込む。

チーム一丸となって戦う車いすラグビー日本代表。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【車いすラグビー試合結果 8月31日(競技3日目)】
ドイツ ◯ 47– 57 ● アメリカ(プールA)
デンマーク ◯ 49– 53 ● オーストラリア(プールB)
カナダ ◯ 46 – 50 ● 日本(プールA)
イギリス ● 50 – 49 ◯ フランス(プールB)

※9日1日の試合予定
【準決勝】
<日本-オーストラリア>
<イギリスーアメリカ>

【5-8位トーナメント】
<カナダーデンマーク>
<フランスードイツ>

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