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【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー】日本は開幕2連勝! 準決勝進出に王手
キャプテンの池透暢は「12人全員が世界のトップで戦えるすばらしい選手」と誇らしげに語る。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【パリ2024パラリンピック/車いすラグビー】日本は開幕2連勝! 準決勝進出に王手

張 理恵


 エッフェル塔を見上げるシャン・ド・マルス・アリーナで熱戦が繰り広げられている、パリ2024パラリンピックの車いすラグビー競技。
 8月30日には予選ラウンド4試合がおこなわれ、日本は2試合目となるアメリカ戦に臨んだ。
 一進一退、一瞬たりとも気の抜けない厳しい状況が終盤まで続いたが、試合を優位に進めた日本が45-42で接戦を制し、開幕2連勝とした。

 世界ランキング2位のアメリカと、同3位の日本。
 ともに初戦で勝利し、準決勝進出をかけて、お互い落とすことのできない大一番となった。

コートでもベンチでも存在感を発揮した若山英史。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 アメリカは、車いすラグビーがパラリンピックの正式競技となった2000年のシドニー大会以降、前回の東京パラリンピックまで、すべての大会でメダルを獲得している。そのうち2つが金メダルという強豪国だ。
 しかし、リオと東京では銀メダルに終わっており、2大会連続で銅メダルを獲得した日本と同じように、今大会にかける思いは強いはずだ。
 悲願達成に向け、思いと思いがぶつかる白熱した展開となった。

 試合の立ち上がり、日本がいきなりターンオーバーを奪うと、今度はアメリカが負けじと奪い返す。
 激しいボールプレッシャーによって、キャリーしていたボールがふっと浮いた一瞬の隙を狙われる…。会場の歓声に反比例するかのように、張り詰めた空気がコートを支配した。

チーム最多の18得点を挙げた橋本勝也。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 アメリカは、第1ピリオド残り0.2秒でトライを押し込むなど執念を見せるが、決して余裕はなかったはずだ。
 それは、第2ピリオド序盤で、コート内の選手がとれる4つのタイムアウトを使い果たしたことに起因する。

 車いすラグビーには、バスケットボールのように時間に関するルールがたくさんある。スローインでボールが入り、コート内の選手がボールに触れてから12秒以内にセンターライン、40秒以内にトライラインを越えなければならない。
 ボールの所有権を失わない手段として、「選手タイムアウト」が使われることが多い。そのタイムアウトがなくなると、メンタル的に追い込まれる。

初戦に続きアメリカ戦でもスタメン出場した池崎大輔は安定したパフォーマンスを見せた。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 ただ、池崎大輔は「タイムアウトがなくなってから本当のアメリカの強さが出る。相手がさらにギアを上げてくるのは分かっていたので、ひるむことなくアグレッシブに立ち向かうという気持ちを持ってプレーしていた」と、そのときの状況を語る。
 視点を変えれば、アメリカがタイムを取らざるを得ないほど、日本のディフェンスが強かったということだ。相手に対し、よく機能していた。

 一進一退のシーソーゲームが続く。日本は、個人の技量だけで相手ディフェンスを突破するのではなく、障がいの比較的軽い「ハイポインター」と、障がいの重い「ローポインター」が連係し、2on2で確実にボールをトライラインへと運んだ。

 だが、長らく世界ランキング1位の座をキープしていたアメリカは簡単には崩れない。激しいボールの奪い合いで、20秒に満たない間にターンオーバーが何度も繰り返されるハラハラドキドキの展開。「ニッポン、ニッポン!」、「USA、USA!」と観客のボルテージも上がる。
 両チームともに一歩も譲らず、22-22の同点で前半を終えた。

 日本のタイムアウトは残り2つ。それが、そのあとどう影響するのか…。
 そんな考えが巡ったハーフタイム。
 メンバーたちが軽くウォーミングアップをするコートの中央で、ベテランの若山英史が、パラリンピック初出場の若手・草場龍治に、車いすを動かしながら細かくアドバイスを送っていた。

パラリンピック初出場も堂々としたプレーを見せる草場龍治。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

「ベテランと若手、ハイポインターとローポインターをつなぐ潤滑剤のような働きができれば、チームがさらに強くなっていける」
 自身の役割についてそう語る若山は、プレータイムこそ3分半ほどだったが、その言葉通り、ベンチでも仲間を鼓舞する声をコートに送り続けた。
 若山に限らず、日本はコートでもベンチでも12人のメンバーがワンチームとなって戦っている。

 そうして後半がスタート。試合のトーンはそのまま持ち越された。
 やられたら、やり返す。ターンオーバーを奪われたら奪い返す。第3ピリオド終了間際、ようやく日本が2点差でリードしたかと思うと、残り8秒でアメリカが執念のトライを決めてみせて33-32。
 勝負の第4ピリオドを迎えた。

「12人全員が世界のトップで戦える選手に仕上がった」
 大会前に語ったキャプテンの池 透暢の言葉に、大きなヒントがあったようだ。

 ポイントゲッターとなる「ハイポインター」が、アメリカには2人だけ。エースでキャプテンのチャック・アオキと、今年6月のカナダカップで国際大会デビューを果たした18歳の新人、レディントン・ザイオン。
 一方の日本には、経験豊富な4人のハイポインターが揃う。

日本のディフェンスにアメリカは苦戦を強いられた(中央:チャック・アオキ)。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

ローポインターの長谷川勇基は、高い集中力で日本の強いディフェンスを支え続けた。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 チャック・アオキがフル出場しているのに対し、日本はハイポインターのみならず、チーム全体でプレータイムをシェアしながらフレッシュな状態で戦った。
 激しい攻防に体力はどんどん削られていく。それでも試合終盤まで、日本が戦力を落とさずに戦えるのはそのためだ。終盤になっても、丁寧にボールをつなぐ連係が見て取れる。

 会場からのUSAコールを受け、アメリカも最後まで戦い続けるが、45-42と日本の勝利で試合終了。キャプテンの池は、手応えを噛みしめるように小さく頷いた。

 岸 光太郎ヘッドコーチは試合を振り返り、「自分たちがやってきたことをやるというプラン通りに戦えた。相手に早々にタイムアウトを使い切らせて、あとは自分たちが慌てず、焦らず、粘り強く最後まで戦ったことが結果につながった」と勝因を語った。

相手の先を読むプレーに加え、倉橋香衣の身体を張ったディフェンスも光った。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

 倉橋香衣はアメリカのパワーにもひるむことなく、好ディフェンスで相手の動きを停滞させた。「エリアを見て、相手が抜けてきたところに待ち構えて遠回りさせることを意識した」と自身のプレーを振り返った。

 屈託のない倉橋の笑顔は、いつもチームにいいメンタルをもたらす。
 東京パラリンピックで楽しみ切れなかったぶん、パリの大会を楽しむ気は十分だ。
「純粋に、もう、すっごく楽しいです。この大歓声の中でプレーできることが楽しいし、初めて両親が国際大会を観に来てくれているので、それがうれしい。しっかりと、一生懸命プレーしている姿を見てもらいたい」と、試合の疲れも見せず、白い歯を見せながら笑顔で語った。

 ドイツ戦、アメリカ戦と、試合を重ねるごとにチーム力の高まりを感じる車いすラグビー日本代表。
 競技3日目の8月31日、準決勝進出をかけ、カナダ(世界ランキング5位)との予選ラウンド最終戦に臨む。

ノーサイド。お互いの健闘を称え合う日本とアメリカ。(撮影・ WWR / Megumi Masuda)

【車いすラグビー試合結果 8月30日(競技2日目)】
イギリス● 55 – 53 ◯ デンマーク(プールB)
アメリカ ◯ 42– 45 ● 日本(プールA)
ドイツ ◯ 47 – 54 ● カナダ(プールB)
オーストラリア ● 55 – 53 ◯ フランス(プールA)

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