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【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】体制揺らぐオールブラックス。W杯決勝のリベンジなるか
アルゼンチン戦でのサム・ケイン。RWC2023決勝、南アフリカ戦ではレッドカードを受けた。リベンジを誓う。(Getty Images)

【ザ・ラグビーチャンピオンシップ】体制揺らぐオールブラックス。W杯決勝のリベンジなるか

松尾智規


 オールブラックス × スプリングボックス。昨年のワールドカップの決勝の再戦だ。
 世界中のラグビーファンが待ち望んでいた対戦がいよいよ今週末(南アフリカの現地時間8月31日)に開催される。

 ニュージーランド代表 “オールブラックス” は、ザ・ラグビーチャンピオンシップ(以下、TRC)の初戦(8月10日)、アルゼンチン相手に黒星スタート(30-38)したものの、翌週(8月17日)は同チームに圧勝してリベンジに成功(42-10)。イーデンパークでの30年間無敗記録(48勝2分け)を更新した。
 しっかり立て直したことにより、昨年のW杯決勝(11-12でオールブラックスが敗戦)のリベンジに向けて追い風になると思われた。

 しかし、その5日後、南アフリカに飛び立つ前日の8月22日だった。ランチタイムに “オールブラックスのアシスタントコーチのレオン・マクドナルド退任” がブレイキングニュースとして表に出た。

 ヘッドコーチ(以下、HC)のスコット・ロバートソンと旧知の仲と言われているマクドナルドの突然の退任劇に、NZ国内はざわついた。スポーツニュースだけでなく、一般のニュースでもテレビ、ラジオ共に大きく取り上げた。ある意味ロバートソン体制が揺らいだ。ざわつくのも当然だ。

 ロバートソンHCは、「私たちは色々な面でうまく “クリックしなかった(噛み合わなかった)” のです」。 “クリックしなかった” ことを何度か口にした。
 それ以上の事は、関係者すべてが話す事はなかった。

 誰もが知りたがっている具体的な理由は、一切言わない事になっているようだった。マクドナルド側のコメントが一切出てこなかったこともあり、憶測が飛び交う事になる。

「二人(ロバートソンHCとマクドナルド)が今別れるという勇気ある決断を下したことを私は本当に誇りに思う。チームの最善の利益を第一に考えてのことです」
 そう語ったのは、NZラグビーユニオンのゼネラル マネージャーのクリス・レンドラム。いたる所に出演して誠実に答えるようにしている様子は、直ぐにでも騒動を治めたい意図が強く感じ取れた。

 早い段階でこの決断をした事について、NZ国内では評価している声が聞こえてくる。しっくりこないまま、ズルズルいくのよりは、賢明な選択だ。アシスタントコーチのジェイソン・ライアンは「スプリングボックス戦に向けて気持ちを切り替える」と言った。それに尽きるだろう。

◆キャプテンがケガから復帰 & 前キャプテンのケインが先発メンバー入り。

 TRC第3節のスプリングボックス戦は、南アフリカ時間の8月31日の17時(日本時間:9月1日、午前0時)に、エミレーツ・エアライン・パーク(エリスパーク)でおこなわれる。
 その試合に挑むオールブラックスのメンバーが8月29日に発表された。

 アルゼンチンとの2戦目のメンバーから3人(先発2人、ベンチ1人)の変更となった。
 手の指の骨折で数週間欠場していたキャプテンのLOスコット・バレットが予定通り2試合の欠場から復帰となり先発メンバーに戻った。
 注目されていたバレットとのLOコンビには、トゥポウ・ヴァアイを指名した。ラインアウトで抜群の安定感を持つスプリングボックス相手に、今季のオールブラックスのラインアウトの救世主的存在となっているサム・ダリーをベンチスタートにしたことは興味深い。

『All Blacks』の公式『X』より

 もう一人の変更はFLだった。前キャプテンのサム・ケインが背番号7を付けて先発出場する。あまり表に出てこなかったが、FLダルトン・パパリィイが親指を負傷したことによるものだ。
 ケインが先発で出場することは、キャプテンのバレットの復帰よりNZ国内で大きく取り上げられた。7番のポジション、そしてケインの存在への注目度は高い。

 ケインが先発に昇格したことにより、空いたベンチのスペースにサミペニ・フィナウが入った。
 7月のイングランドとの2試合で先発に起用されたが、インパクトを与えるまでにはいかず、今回も6番で先発に入っているイーサン・ブラカッダーにポジションを譲っている。今回パパリィイのケガにより、再びチャンスが巡ってきた。
 今季のスーパーラグビーで、フィジカル面を猛アピール。その結果、日本でプレーしているシャノン・フリゼルの後継者候補として首脳陣に期待されている。スプリングボックス相手にアピールできれば再び6番のポジション争いが過熱しそうだ。

 BKはベンチも含めて変更はなし。ケガ人がらみのところだけ変更がおこなわれることから、今のところ、これがロバートソンHCをはじめ、セレクター陣のベストメンバーとなっているのかもしれない。

 もっとも注目されているFW第3列のセレクションに関してロバートソンHCは、「(ケインは)経験豊富で落ち着きがある。それに、本当に優れた強靭な肩も持っており、我々は彼に期待している」と話し、「イーサン(ブラカッダー)は絶好調で、アーディー・サヴェアもいる。このテストのためのコンビネーションは、バランスがとれている」と続けた。

◆最大の見どころはフィジカルバトル。ケインの奮闘に期待

 試合展望は、キッキングゲーム、セットピース(スクラム、ラインアウト)、スプリングボックスのラッシュディフェンスにオールブラックが対応できるかなど、見どころ満載だ。
 なかでも、この両国の対戦の一番の見どころはフィジカルバトルだろう。
 先発に返り咲いたケインは、昨年のW杯での対戦時はレッドカードを受けた。数的不利になる状況を作り、エリスカップを自国に持ち帰れなかった責任を強く感じていた。
 うっ憤を晴らすため、ケインはディフェンス、ブレイクダウンで普段以上に奮闘するだろう。ケインが活躍すればオールブラックスがのってくる。ケガにより、今季出場したレベルの高い試合は、前戦のアルゼンチン戦の途中出場のみ。そこは気になる点も、この人のパフォーマンスは勝敗の鍵となるかもしれない。

 スプリングボックスがオーストラリア代表、 “ワラビーズ” を寄せ付けずに2連勝(2試合目は若手主体でも勝利)している事から、NZ国内では「1勝1敗でも悪くない」と言う声が聞こえてくる。2連敗も覚悟している人も少なくない。
 相手のコーチングスタッフにトニー・ブラウンがいることも、警戒する理由のひとつだ。NZラグビーをよく知っている。どんな策で挑んでくるのかも、試合の見どころのひとつだ。

 W杯決勝の再戦は、オールブラックスがリベンジをするのか、スプリングボックスが返り討ちをするのか。南アフリカの地での2連戦は、今季最大の注目カードになる。


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