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パリの大観衆の前に立った選手はひとりだけ。新しいヘッドコーチが若い選手たちを率いる光景は新鮮だった。
女子セブンズ・デベロップメント・スコッドの合宿が、弘前(青森)でおこなわれた(8月27日~8月30日)。
パリ五輪での指揮を最後に退任した鈴木貴士HCの後任、兼松由香HCが就任後初めてグラウンドに立ち、選手たちの指導にあたった。
7月におこなわれた五輪に出場したのは辻崎由希乃だけ。参加した18名の中で同選手が30歳と最年長で、次が25歳で最年少は18歳(丸山希香/アルカス熊谷)と若手が顔を並べた。
兼松HCは、「オリンピックで戦ったメンバーたちは、まず心身とも休んでほしい。ずっと走り続けてきて、地元に帰ったり、家族と過ごす時間も少なかったと思います。なので今回は、パリに行っていないメンバーを中心に選んでいます」
6月にフランスでおこなわれた世界学生選手権の指揮も執った。その時のメンバーからも数人を招集した。
兼松氏は『新』HCとはいうものの、長く強化に携わってきた。
2016年のリオ五輪後に代表選手からは退くも、その後、ユースアカデミーとジャパン・ライジング・スター・プロジェクトで人材発掘に関わった。 2019年からはユースアカデミーのヘッドコーチも務めてきた。今回の合宿参加メンバーの中には、「中2の頃から見てきた選手もいます」。
そんな背景があるから選手たちには、ユース世代から大事にしてきたものをトップチームでも続けていこうと話した。
また、「リオ、東京、パリと、サクラセブンズが挑戦し続けてきたからこそ、いまの代表チームがあることを忘れず、継続すべきところは引き継いで、さらにみんなで進化していこう」とも伝えたという。
以前から選手たちと共有してきたものについては、「フィジカルでは海外の選手を上回るのは難しいが、体が小さい分、低さや転がっているボールへの仕掛け、起き上がりの速さ、リアクションや反応のスピードなど、日本の強みで勝負すること」と話す。
攻守におけるコミュニケーションについても、細やかな表現ができる日本語を駆使すれば、さらに深いものにできるのではないか、と考える。
「それらを体現できる、新しいセブンズ、他の国ではやっていないセブンズをやっていきたいと思っています」
サクラセブンズはパリ五輪で、9位という五輪史上最高位の成績を残した。
それについてHCは、「勝った3試合については、やってきたことを出し切っていたと思います。オリンピックの舞台では、1勝することすら難しい。その中で、9位という順位より、3勝したこと自体が素晴らしいですよね」とチーム、選手たちを称えた。
しかし、上位チーム(アメリカ、フランス)には完敗した事実も残った。
「あれだけの大舞台でトップチームに勝つには、まずは、自分たちのラグビーをやる、出し切ることが大事で、マインドという要素がとても重要になる。今回の負けた試合では自分たちのやりたいことを体現できなかったと思うので、高いレベルの中でも持っているものを出せるように、練習からそこを意識していきます」と、改善すべき点について話した。
9月7日、8日におこなわれる韓国大会を皮切りに、アジアセブンズシリーズが始まる。
そのシリーズ初戦には、弘前合宿に参加したメンバーから選んだ選手たちで挑む。
兼松HCは、パリ五輪に出場した経験値の高い選手たちがいない状況を活用し、若い選手たちに、より大きく羽ばたいてほしいと考えている。
「実績のある選手たちがいない環境では、今回新しく来た選手たち自身がリーダーをやらないといけないし、サクラセブンズの文化を再構築する必要もある。その過程では、これまでのことを忘れるまではいかなくとも、大事なものは継承しつつ、新しいものをいれていくこともできると思います」
例えば、世界学生選手権を戦った女子セブンズ学生日本代表は同大会で優勝して世界一の座に就いた。
「そういう自信を代表チームにも引き継いでもらいたい」と考えている。
韓国大会以降については弘前合宿参加メンバーの中から代表選手が選出されるものの、それ以降は、パリ五輪メンバーも選考対象になる。
また今季については、多くの選手たちにチャンスを与える意味でも選考の幅を広げる意向だ。
その方向性をうまく利用しながら、毎回の合宿に同じメンバーが参加するケースを少なくしていく。結果、一人の選手の代表活動期間は少なくなり、プレーヤーウェルフェアの観点からもプラス材料となる。
韓国大会も含め、アジアシリーズには優勝をターゲットとして参加する。
メンバーは現段階では不明も、パリ五輪で6位となった中国の存在もある。昨年の五輪予選では日本が勝った実績はあるものの、新HCは、「チャレンジャーとして挑み、勝つことで自信をつけたい」と話した。
アジアシリーズの先には、HSBCワールドラグビー・セブンズシリーズも待っている。
「誰が試合に出ても、自分たちのラグビーをやれば勝てる、と思えるチームにしていきたい」と芯のある集団になるための道を歩んでいく。