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ジリジリと強い日差しが照りつけた日曜日。しかし、横浜の高台にあるYC&ACのグラウンドにはときどき海からの風が吹き抜けて気持ちのいい時間もあった。
8月25日、横浜キヤノンイーグルスとYOKOHAMA TKMが主催した女子ラグビー体験会が開かれた(神奈川県ラグビー協会、横浜市ラグビー協会が協力、横浜市が後援。)。
参加したのは小学3年生から中学3年生の女子たち。神奈川プリンセス(神奈川県内で活動する女子選手の普及育成を目的として、神奈川県ラグビー協会普及育成委員会から発足した、小学生、中学生の女子選手たち)の選手たちを中心に85人が集まった。
ラグビーはしたことがないけれどタグラグビー経験あり、という女子もいれば、未経験者もいた。
イーグルスからは、パリ五輪に参加した男子セブンズ日本代表の主将を務めたWTB石田吉平、SH松木勇斗、SO武藤ゆらぎの3人がコーチ役として参加。TKMからも8選手が参加して指導にあたった。
毎週月曜日の夕方、戸塚の横浜FC東戸塚フットボールパークにて『YOKOHAMA TKMアカデミー』を実施。女子のコーチングに慣れているTKMの選手たちは、この日も的確な声掛け、フレンドリーなアプローチと、参加者たちを楽しませていた。
イーグルスの選手たちは、普段はあまり接点のない女子中学生たちの積極性に気圧されるシーンもあったものの、いろんな個性を持った女子選手たちの心を和ませる対応。
暑さの中でも参加者の心をつかむ時間を作っていた。
小3、小4を相手にキックキャッチからのランプレーの指導で子どもたちの心をつかんでいたのは松木だ。
高いキックや低めのキックを蹴り分け、参加者たちの成功体験を引き出す。盛り上げる声も場の空気を作っていた。
女子ラグビーのことについては、あまり知らなかった。しかし、「横浜拠点のチームと一緒にこういう活動ができてよかった。いい経験になりました」と笑顔を見せた。
なにより、予想以上だった参加者の多さに驚いた。
人を教える。その行動自体が自分のためになったと話した。
「小学生相手に、どういう言葉を使うのか。そこを意識することも勉強になったし、セッションの中で、より難しいことにチャレンジしようとする子どもたちの姿から刺激をもらいました」
石田は、「きっぺい、と呼んでくれた」と嬉しそうだった。
「中学生は思っていた以上に元気で、すごくやりやすかったです」
初めて訪れたYC&ACのロケーションの素晴らしさにも感激していた。
パリ五輪に出たことを知る参加者が多くいたことで、みんなに応援してもらえていたことをあらためて知った。
「かっこいいな、など、夢を与えるのもスポーツ選手としてやれることのひとつだと思っています。きょうの活動も含め、ラグビーを楽しみたいな、続けたいな、と思う子どもたちが一人でも増えてくれたら嬉しいですね」
新シーズンに向けて、まずは「セブンズにいつも出してくれたイーグルスに恩返しをしたいと思っています」と胸に秘めた思いを口にした。
今回、パリでは良い結果を残すことができなかった。そのリベンジの思いもある。
「15人制を通して成長し、次のオリンピックにもつなげたい」と話し、セブンズ代表主将の経験を通して得たものをイーグルスでのプレーにも生かすと誓った。
横浜の戸塚出身。横浜ラグビースクールで基礎を学んだ武藤は、自分の地元で子どもたちの育成に関われたことを喜んだ。
初めて女子の選手たちを教えた。「みんなレベルが高かった。きょうのことが女子ラグビーの活性化につながるといいですね」と語った。
スペースにボールを運ぶセッションでは、コミュニケーションをとることの大切さを伝えた。
東海大4年時の春、横浜市金沢区にある西金沢学園中学部で教育実習を経験したことが、この日生きた。
「みんなラグビー好きで、自分たちからいろいろ聞いてきてくれたし、グループ内でもよく発言していました」
経験者が初心者にアドバイスする姿からは学びを得たという。
12月から始まる2年目のシーズンに向けて、「昨シーズン以上に試合に出るだけでなく、チームの勝利により貢献したい」とした。
SOのポジションには田村優という大きな存在がいるが、「勉強しつつも超えなければいけない存在」と話し、頼もしかった。
この日参加した未経験者のひとり、横浜市内に住む菊地柚希さんは中学3年生。ラグビー好きに囲まれて育った環境もあり、高校入学後はラグビーを始めたいと思っている。
「ゆらぎさん推し」という15歳は、「本当に楽しかった」と話し、ラグビーへの思いがさらに強くなったそうだ。
「まずは勉強を頑張って、受験が終わったらイーグルスの試合を観に行って、体を鍛えて高校入学に備えたいですね」
イーグルスとTKM。現役選手と触れ合った経験は、2024年夏の想い出として、いつまでも心に残るだろう。
横浜つながりでラグビーの普及にベクトルを揃える活動は継続されていく予定。この場所からひとりでも多くのラグビー愛好者が生まれていくことを、そこにいる誰もが願っていた。