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フランス協会、LNR(プロリーグ運営団体)も出資。同国レフリーが再び世界で輝くため新プラン創設
RWC2023の舞台にレフリーとして立ったマチュー・レイナル氏。(撮影/松本かおり)

フランス協会、LNR(プロリーグ運営団体)も出資。同国レフリーが再び世界で輝くため新プラン創設

福本美由紀


 フランスの新しいシーズンがまもなく始まる。プロD2(2部リーグ)は8月29日、トップ14は9月7日の開幕に向けて、各クラブが合宿や練習試合を行い、少しずつギアを上げている。

 新シーズンの準備をおこなっているのはクラブだけではない。彼らの試合を担当するレフリーの合宿も実施された。フランスではレフリングのレベル向上のために新しい取り組みが行われている。

 2019年RWC日本大会では、決勝で主審を務めたジェローム・ガルセスを初め、ロマン・ポワット、パスカル・ガユゼール、マチュー・レイナルとフランス協会所属の4人のレフリーが主審を務めた。
 しかし、4年後の自国開催の大会のフィールドで笛を吹いたのは、マチュー・レイナルただ一人だった。

 国際シーンでフランスのレフリングの地位が下がったことを嘆いたフランス協会は、LNR(プロリーグ運営団体)と協力して、レフリーのレベルを上げて再び国際シーンでの存在感を高めようと、2023年7月に「プロ部門レフリングパフォーマンスプラン」を立ち上げた。
 このプロジェクトには、フランス協会とLNRのそれぞれが、2027年まで毎年100万ユーロ(約1億6200万円)ずつ出資する。

 このプランの一環で、今年7月1日に「プロ部門レフリングテクニカル対策室」が創設された。
 指揮をとるのは、元国際レフリーのロマン・ポワットと、昨季で引退した、同じく元国際レフリーのマチュー・レイナルだ。

「私たちの現役時代に欠けていたこと、苦労したことを書き出して協会とLNRに提出した」と言うポワット氏は、現役引退後、トゥーロンで2年間、コーチとしてディシプリンの改善を担当していた。昨シーズンのトゥーロンのペナルティの数がトップ14で最も少なかったのは、進化していくプレーに対応しながら指導してきた彼の功績と言えるだろう。

 ポワット氏とレイナル氏の他に4人の元レフリーがこの対策室のスタッフとして共に働く。さらにSCコーチやメンタルコーチ、ドクター、栄養士、データ管理担当者も与えられている。

「一つのクラブチームのように機能させたい」と言うのがポワット氏の意向だ。

レフリー引退後2年間、トゥーロンでコーチとしてディシプリンの改善を担当したロマン・ポワット氏。(Getty Images)

 今回の4日間の合宿には、32人のレフリー、22人のアシスタントレフリー、15人のTMO、39人の第3アシスタントレフリーも参加し、レフリングに関する研修やフィジカルトレーニングをおこなった。

「彼らがなりたいレフリーになれるように、最大の支援を提供する」と、今後も継続してサポートしていく。毎週月曜と火曜に集まりトレーニングを実施する。
 イングランド協会が、毎週月曜、火曜にトゥイッケナムにレフリーを集め、試合の分析やフィジカルトレーニングをしているのを現役時代に見学したレイナル氏の意見が反映されたのだろう。

 さらにレフリーには、トレーニングと週末の試合の報酬として月1500ユーロ(約24万円)が支払われるようになる。プロのレフリーの数はまだほんのわずか。待遇の改善も必須だ。

「私たちの目標は、もちろんトップ14でのレフリングのパフォーマンスを上げることだが、それと同時に国際レフリーも育てていきたい」とレイナル氏。

 ポワット、レイナル、ガルセスの3氏がワールドラグビーでのレフリングに関する協議に積極的に参加し、存在感を高めていく。

 また、プロクラブとの関係の改善も彼らのミッションの一つだ。
 この合宿にトップ14とプロD2の全30のクラブから来たコーチたちも1泊2日で合流し、新ルールの説明や、ファウルプレーの映像を見せて、「これはイエローカード? レッドカード?」とコーチたちに問いかけ、レフリーの判定基準を説明し、質問に応じ、レフリングに関する理解だけでなく、親交も深めた。

 参加したスタッド・フランセのロラン・ラビット ディレクター・オブ・ラグビーはこの新しい取り組みを評価している。
「映像を見てカードの色を判断するゲームでは、リアルタイムで笛を吹く難しさを感じさせられた。食事をしながらもたくさん意見交換できた。昨季は、レフリーを総括する仕組みがなく、それぞれが思うようにレフリングに当たっているように感じたが、指導してくれるスタッフがいて、レフリーも支えられていると感じているようだ」

 クラブとは今後も、試合前の準備、試合後のデブリーフィング(内容を振り返り、考察、推察、現状課題を共有する場)など、コミュニケーションを密に取りながら、より良い協力体制を築いていく。

 この合宿中、参加したレフリーに昨季のペルピニャン×クレルモンの試合後の映像が見せられた。
 地元のペルピニャンのサポーターが判定に不満を持ち、レフリーにビールの入ったタンブラーを投げつけた時のものだ。ヤジが飛ぶ中、レフリーが一人でロッカールームへ向かおうとする光景が映し出されている。

「この映像ではアシスタントレフリーが一人で先にロッカーへ帰ってしまった。主審は目でもう一人のアシスタントレフリーを探しているが、少し離れたところで他の誰かと話をしている。みんなに考えてもらいたい。私たちは5人(レフリー、2人のアシスタントレフリー、TMO、第3アシスタントレフリー)でグラウンドに入る。私たちが団結していると感じるには、ハーフタイムと試合後、どのようにロッカールームへ向かうべきだと思う?」と問いかけたポワット氏が続けた。

「今季もビールを浴びせられるかもしれない。でもその時は、みんなで一緒に浴びようじゃないか」
 あらためて団結を訴えた。

 今季、このレフリー合宿は、11月、2月、5月にも予定されている。

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