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ハーバード大卒に馬術出身。パワーと個性あふれる女子アメリカ代表
オンとオフの切り替えがうまい女子アメリカ代表。(撮影/松本かおり)

ハーバード大卒に馬術出身。パワーと個性あふれる女子アメリカ代表

田村一博

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 強い日差しが照りつけるミクニワールドスタジアム北九州でテストマッチ前日の練習をおこなった。
 8月10日、女子アメリカ代表が翌日の女子日本代表(サクラフィフティーン)戦に向けて調整をした。

 5月、ニュージーランド、オーストラリア、アメリカ、カナダが出場したパシフィック・フォー・シリーズ(以下、パック4)でオーストラリアに勝ち、2024年のWXV(女子国際大会)では最上位グループで戦う(6チーム)。
 その大会の開幕を1か月半後に控え、重要な試合と位置付けている。

 チームを率いるシオネ・フコフカ ヘッドコーチ(以下、HC)は、「パック4で積み上げたものに、さらにここで上乗せをしたい」と話した。
 テス・フュリー主将(FB)もそれに同意する。
「初めてテストマッチに出る選手もいます。彼女たちが成長していくきっかけになるような試合にしたいですね」

 パック4の戦いを通してセットプレーに自信をつけた。キッキングゲ―ムの進め方も。その一方で、戦術の徹底や判断力には改善の余地が残った。
 チームの強みはフィジカリティーの強さ。恵まれたサイズと高めてきたパワーを前面に出して戦い、モメンタムを作る。

 ふたりは「この暑さは大変」と言いながらも、準備してきたことに自信を持つ。
 アメリカは広い。今回のツアーメンバーが揃ったのは日本到着時の空港ではあるけれど、8週間に渡り、リモートでつながってトレーニングを続けてきた。北九州に着いてからの日々で、結束力は急激に高まっている。

英・ブレミアシップのレスター・タイガースでプレーするテス・フュリー主将(左から4人目)。(撮影/松本かおり)

 フュリー主将は2022年にNZで開催されたワールドカップで日本と対戦した経験がある。
 その時の体感と記憶について、「日本は最後まで諦めないチーム。リスペクトしています」と話した。

 2年前の試合でアメリカは30-17と勝利を手にした。しかし先制したのは日本。前半は5-3とサクラフィフティーンがリードした。
 キャプテンはその展開を踏まえ、「今回はキックオフから自分たちの力を出していきたい」と話す。序盤から全開で戦う。

 アメリカの女子ラグビーは、じわじわと人気が高まっている。2016年からラグビーがオリンピックの正式種目になったことも大きい。
 女子セブンズ代表はパリ五輪で銅メダルを獲得。「国際舞台で良い結果を残すことが、また競技人口が増えることにつながる」と主将は話す。

 現在、代表チームのジャージーを目指すワイダースコッドには約60人の選手たちがいる。国内には『ウィメンズ・プレミアリーグ・ラグビー』があり、現在は東海岸、中部、西海岸で7つのクラブが活動している。そこにいる約300選手も、上を狙う選手たちの一部だ。

 同国でラグビーをプレーする選手たちは、大学入学や卒業のタイミングで競技を始めることが多い。それまでは別競技に取り組んでいた選手たちが楕円球を追い始めるケースがほとんどだという。

 例えば、日本戦にLOで出場するエリカ・ジャレルは現在、英・プレミアシップのセール・シャークスに所属する25歳。
 ハーバード大学でラグビーを始めるまでは馬術に取り組んでいたという。

 SHのオリビア・オルティーズも馬術の出身。彼女の場合、7歳からその競技を始め、高校時代にラグビーと出会った後、チームスポーツに惹かれていまがある。
 同選手も今季からジャレルと同じセール・シャークスでプレーをする。昨年まではエクセター・チーフスに所属していた。

150センチと小柄も、フィジカリティーの強さに自信を持つSHオリビア・オルティーズ。「低く、強くプレーします」。(撮影/松本かおり)

 現在プレミアシップでは20人ほどのアメリカ人選手がプレーしている。同リーグは試合数が多いため、フルタイムのプロ選手として活動できる。それが魅力で活躍の場を求め、海を渡る。アメリカ国内リーグの規模では、そうはいかない。

 そんな環境の中で、フュリー主将は他と違う道を歩んできた。
 同主将がラグビーを始めたのは4歳の時。ラグビーマンの父が自分と兄弟たちのためにフラッグラグビーチームを地域(ニュージャージー州)で立ち上げてくれたことで、幼い頃からプレー環境に恵まれたそうだ。
 2016年にアメリカ代表となり、昨年からは英国にわたり、レスター・タイガースでプレーする。

 自身もサッカーを並行してプレーした時期がある主将は、「このチームは、いろんなスポーツ経験がある選手たちで構成されているのも強みのひとつ」と話す。
 フィジカル面の強さを押し出しながら、一人ひとりが強い個性を持つ。多様性もチームの武器となっている。

 昨年からチームの指揮を執るフコフカHCは、トンガ人の父を持つNZ生まれ。オーストラリアで育ち、現在はデンバー(米)に住む。
 女子オーストラリア代表のアシスタントコーチを務めている時、アメリカ代表がHCを探していると知り手を挙げた。

チームを率いるシオネ・フコフカ ヘッドコーチ。(撮影/松本かおり)

「このチームには大きな可能性があると思いましたから。新しい文化や生活の中で冒険するのも楽しみでした。その中で、彼女たちが持つ力を引き出していけたら、と思っています」

 パック4で古巣のオーストラリア代表を破った時は、その時点で相手がワールドランキング5位、自分たちが10位だったこともあり、「とてもエキサイティングだった」と話す。

 元ジョージア代表(男子)ヘッドコーチで、東京サントリーサンゴリアスの指揮官も務めていたミルトン・ヘイグ氏がワールドラグビーからのコンサルタントとしてサポートしてくれていることも、自身の知見を増やすことにつながっていると話す。

 2戦目(8月17日/静岡・エコパ)も含めて連勝したいチームの雰囲気は、オンとオフの空気の切り替えが絶妙だった。
 最初からパワー全開で向かってくる相手に、サクラフィフティーンはハードタックルで立ち向かうしかない。

チームに多くの知見を与えるミルトン・ヘイグ コンサルタント。(撮影/松本かおり)


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