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ザ・ラグビーチャンピオンシップ、いよいよ開幕。オールブラックスはウィル・ジョーダンが復帰
2023年10月のW杯決勝以来のテストマッチ復帰となるWTBウィル・ジョーダン。同大会準決勝のアルゼンチン戦では3トライを挙げている。(撮影/松本かおり)

ザ・ラグビーチャンピオンシップ、いよいよ開幕。オールブラックスはウィル・ジョーダンが復帰

松尾智規


 8月10日からニュージーランド(NZ)、サウスアフリカ、オーストラリア、アルゼンチンの南半球の強豪が激突する ザ・ラグビーチャンピオンシップ (TRC)がいよいよ開幕する。

  今年からヘッドコーチ(HC)に就任したスコット・ロバートソン率いる NZ代表 、オールブラックス”は、テストマッチで3連勝スタートを切った。イングランドと戦った2試合は苦戦したものの、いずれも後半に逆転して勝ち切った(7月6日/16-15、7月13日/24-17)。

 7月20日にサンディエゴ(アメリカ)でおこなわれ、多くの観客で盛り上がったフィジーとの対戦は47-5で圧勝。この試合でCTBビリー・プロクターがレギュラー争いに食い込めるほどの素晴らしいパフォーマンスでデビューを飾った。

 ベンチスタートで初キャップを得たHOジョージ・ベル、PRパシリオ・トシ、LOサム・ダリー、FL/NO8ウォレス・シティティ、SHノア・ホザムの5人もそれぞれ持ち味を出してアピールした。イングランド戦ですでにデビューを果たしたSHコルテス・ラティマを入れた新人7選手の活躍は、ロバートソンHCを大いに満足させた。

 3試合の評価も反映させたTRCのオールブラックスのスコッド、36人が7月28日に発表された。
 FLサム・ケイン、WTB/FBウィル・ジョーダンがケガから復帰、ユーティリティーバックスのデイヴィッド・ハヴィリも代表に戻ってきた。そして着々と成長しているFBルーベン・ラヴがいよいよ代表入りした事はメディアを賑わせた。この4人は7月もチームに帯同して一緒にトレーニングをしていた。スコッド入りは予定通りと言っていいだろう。
 デビュー戦の活躍が認められたLOダリーと SHホザムもバックアップメンバーから正スコッドに昇格している。
 一方で落選する選手も出ている。3試合中フィジー戦のわずか20分しかチャンスを与えられなかったWTBエモニ・ナラワがスコッド外となった。

 興味深いセレクションとなったSHは、ホザムが正スコッドとなったことで、昨年のW杯決勝を含む重要な試合でベンチ入りをしていたフィンレー・クリスティーがスコッドから外れた。このSHのセレクションを見るとセレクター陣が求めているものが明確になったと言える。

 代表デビューしたばかりのラティマ、ホザムの2人は、攻撃的なSHでボールを持って前に出る能力がある。イングランドより劣るフィジー相手とは言え、途中出場したホザムは、チャンスがあればラックサイドの突破を試みてチームの攻撃の幅を広げた。結果フィジーに圧勝した。

 南半球の強豪相手に今年の新人SHふたりがどれだけ通用するか試される。そして、長期のケガで離脱しているキャム・ロイガードが復帰すれば、セレクター陣が求める攻撃的SHが3人揃う事になる(TJ・ペレナラは今季限りでNZを去り日本に移籍を発表している)。

 セレクションに関してロバートソンHCは、「サム・ケイン、ウィル(ジョーダン)、デビッド(ハヴィリ)はグループに豊富な経験とリーダーシップをもたらし、ルーベン(ラヴ)、ノア(ホザム)、サム・ダリーは環境の中でチャンスを掴んだ。ルーベンにとって、初めて選ばれることは特別な瞬間となるだろう。彼は裏方として懸命に努力している。チャンスに備え準備ができているだろう」、と語った。

 なお、LOスコットバレット、SO/FBスティーヴン・ペロフェタのケガによりLOジョシュ・ロード、SO/CTBハリー・プラマーがバックアップメンバーとしてスコッドに召集されている。

◆対アルゼンチン初戦はキャプテン欠場もジョーダンが復帰。イオアネはベンチへ


 8月10日(土曜日)キックオフ19時5分 (NZ)、16時5分(JPN)、ウエリントンでおこなわれるオールブラックスのTRCの初戦となる対アルゼンチンの登録メンバーが8月8日に発表された。

 その発表を前に、負傷しているキャプテンのスコット・バレットがTRC2試合を欠場すると公表された。バレットの復帰の時期に関してメディアから執拗に問いだされるも、アシスタントコーチのジェイソン・ライアンは、「アルゼンチン戦の2試合を欠場」を繰り返すだけだった。具体的な復帰時期を明かさなかった事が逆に気になる。
 スコット・バレットの不在によりNO8アーディー・サヴェアがアルゼンチン戦の2試合のキャプテンを務める。HOコーディー・テイラーとCTBジョーディー・バレットの2人がバイスキャプテンとなっている。

 若手選手を多く起用したフィジー戦から先発メンバーは7人が変更された。
 FWから見ていくとフロントローは、イングランド戦で戦ったPRイーサン・デグルート、HOテイラー、PRタイレル・ロマックスの不動のメンバーに戻した。
 LOは、レギュラーのスコット・バレット(手指)、パトリック・トゥイプロトゥ(ふくらはぎ)のケガにより、トゥポウ・ヴァアイと新人のダリーのフレッシュなコンビとなった。LOの控えは、今季ケガにより数試合のみ出場のジョッシュ・ロードをベンチスタート。経験の浅いメンバーとなっている。

 FW第3列は、フィジー戦では7番を付けていたイーサン・ブラカッダーが6番に回り、ダルトン・パパリィイが7番に戻った。NO8は4試合連続でサヴェアが先発となっている。

All Blacksの公式『X』より

 BKではイングランド戦の初戦でヒザを負傷したTJ・ペレナラが復帰し背番号9を付け、10番ダミアン・マッケンジーとハーフ団コンビとなる。
 最も話題となったのはCTBのセレクションだ。12番のジョーディー・バレットとのコンビは、フィジー戦で安定感抜群のパフォーマンスを見せたアントン・レイナートブラウンがリーコ・イオアネ(ベンチスタート)を抑えて13番に選ばれた。

 この決断に対してロバートソンHCは、「今、(13番で)選べる選手は2、3人いる。パフォーマンスがものをいうスポーツだ。誰もが取り組むべき分野を持っていて、我々はアントン(レイナートブラウン)を選んだ。今週はこれが最善の決断だ」と、熱く語った。

 バックスリーを見るとWTB陣は、11番マーク・テレア、14番セブ・リースとイングランド戦のメンバーに戻し、FBは日本から戻って絶好調のボーデン・バレットが2試合続けて15番を付ける。

 ベンチに目を向けると、新人のシティティをフィジー戦に続いて起用している事からセレクターの期待度の高さがうかがえる。

 そして、ロバートソンHCが待ち望んだトライスコア・マシーンのWTB/FBウィル・ジョーダンが戻り、ベンチ入りとなっている。ジョーダンは、8月2日にNPC(NZ州代表選手権)のプレシーズンマッチが復帰戦だった。昨年のW杯決勝以来の9か月ぶりの実戦で約50分間プレー。キレのあるランを再三見せた。
 その試合をロバートソンHCらセレクター陣が、クライストチャーチで見ていた。日本から戻り休暇中のリッチー・モウンガも共に観戦していた。

◆試合の鍵はスタートダッシュ。


 過去4年でアルゼンチンは、オールブラックスに2度も勝利している。2020年シドニーで初めて勝利(25-15)。2022年には、NZの地(クライストチャーチ)で初めてオールブラックスに勝った(25-18)。いずれの勝利もスタートからアルゼンチンが有利に戦った。

 オールブラックスは、上記の敗戦以外は比較的大差でアルゼンチンに勝っている。昨年のW杯準決勝で対戦した際は序盤から主導権を握り、44-6と圧勝している。両軍ともスタートダッシュがカギを握る事になりそうだ。
 
 今回は、昨年のW杯準決勝の対戦で欠場していたFL/NO8パブロ・マテーラがアルゼンチンの先発メンバーに入っていることから、同じような展開になるとは考えにくい。

 オールブラックスは、強力FWのイングランド相手にもスクラムで有利に立って接戦をものにした。一方ラインアウトはバレット、トゥイプロトゥのレギュラーLO陣でもイングランド戦では苦労した。
 今回、ベンチも含めて若いLO陣で戦う。その点は不安材料も、2027年のW杯に向けてLO陣がステップアップする機会と思うと逆に楽しみでもある。

 勢いに乗るとめっぽう力を出すアルゼンチンに対しロバートソンHCは、「テストマッチに多くのフィジカルの強さと情熱を持って向かってくることは分かっている。我々はその挑戦に備えている」と自信を持ってて答えるとともに、試合へ向けてエキサイトしている様子が伝わってきた。

 レイザー(ロバートソンHCのニックネーム)ならオールブラックスを再び常勝軍団にしてくれるかもしれない。そんな期待を持つ人たちは多い。TRCで評価が下されることになる。



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