Keyword
今の自分を作った原点に立ち返り、その道のりを誇りに思う。
シーズン初の公式戦は、そんな大会となった。
7月27日と28日、「第26回車いすラグビー日本選手権予選 兵庫大会」が兵庫県立障害者スポーツ交流館で開催された。
今回の予選には、日本選手権連覇を狙うBLITZ(東京)、Fukuoka DANDELION(福岡)、AXE(埼玉)、SILVERBACKS(北海道)、WAVES(大阪)の5チームが出場した。
2日間にわたる全6試合の結果、BLITZ、Fukuoka DANDELION、AXEが12月20〜22日(横浜武道館)におこなわれる本大会への出場権を獲得した。
パラリンピック開幕を1か月後に控え、今回の予選には、パリ2024大会に出場する代表メンバー12名のうち8名が集結。日頃の活動拠点となるクラブチームのプライドをかけ、日本代表同士が火花を散らす戦いが繰り広げられた。
2戦2勝の1位通過で本大会への切符を手にしたのは、前回の日本選手権で8年ぶりに王座を奪還したBLITZ(ブリッツ)だ。
島川慎一、池崎大輔、長谷川勇基、小川仁士。全チーム最多となる4名のパリ代表選手を軸に、スピードとパワー、国際レベルの攻撃と守備で他を圧倒した。
ただ今回の予選で、パリ代表の4人だけで組む『国内最強』ラインアップを目にすることはなかった。
「日本代表の4人が出れば強いだろうが、それでは意味がない。代表を本気で目指す人、フルタイムで仕事をしながら休日にエンジョイラグビーとして楽しむ人、ラグビーをもう一回楽しみたいと久しぶりに競技復帰した人、そういう選手が集まっているのがクラブチーム。みんなが出場して優勝する、それが(BLITZという)クラブチームの在り方だと僕は思っている」
キャプテンの小川はこのように語る。
その言葉を表すかのように、自身の決めた選手キャリアの中で、さらなる成長を追い求めBLITZに移籍した日向顕寛、昨年22年ぶりに選手登録をしてラグビーを謳歌する山村泰史、そして2005年のチーム設立から支え続けてきたヘッドコーチ兼選手の荻野晃一。全員でプレーすることにこだわり、戦い抜いた。
大会2連覇を目指すBLITZが本大会でどんなチームワークを見せるのか注目だ。
見どころの多い試合が続くなか、今大会屈指の好ゲームとなったのが、2日目の第1試合。
パリ代表の乗松聖矢と草場龍治を擁するFukuoka DANDELION(福岡ダンデライオン)と、同じくパリ代表の羽賀理之と倉橋香衣、そして日本代表の岸 光太郎ヘッドコーチがプレーヤーとして所属するAXE(アックス)の対戦だ。
ディフェンスと走力を武器とするDANDELIONは、組織的な連係プレーで鉄壁の守備を見せつける。オフェンスでは、韓国代表のエースとして活躍した朴雨撤(パク・ウチョル)が、自分よりも障がいの軽い選手を振り払うパフォーマンスでトライを重ねる。
対するAXEは、様々なラインアップで攻撃のリズムを変えながら、強固な相手守備を打ち破っていく。
両チームともに一歩も譲らない意地のプレーで、前半を19-19の同点で終えた。
固定メンバーで戦い続けるDANDELIONは、第3ピリオド序盤に3連続得点、後半に4連続得点を挙げ、AXEを一気に引き離して45-35で勝利。予選2位通過を果たした。
今シーズン、DANDELIONには2名の選手が新加入し、公式戦デビューを飾った。
26歳の赤星雄大と24歳の原田久嗣、ふたりとも数か月前に車いすラグビーを始めたばかりだ。
赤星は、障がいの程度が中くらいの「ミッドポインター」で、高さもある。
緊張のデビュー戦を終え、「パスを受けるプレーをもっと磨いて、自分でトライできる選手になりたい。自分の役割を理解してチームに貢献し、個人のスキルも上げて、パラリンピックに出場できるようにがんばります」と目標を語った。
また、障がいが重い「ローポインター」の原田は、日本代表としてパリを戦うチームメートの乗松と草場に大きな刺激を受けている。
「近くにすごいプレーヤーが僕のお手本としていてくれて、とてもありがたい。カッコいいなと思います」
ふたりのルーキーが、今後どのように成長していくのか楽しみだ。
一方のAXEベンチでは、アシスタントコーチを兼任する倉橋が、地元で開催された今大会に特別な思いをもって臨んでいた。
2011年にケガを負い、(会場敷地内にある)兵庫県立総合リハビリテーションセンターで2年以上の月日を過ごした。「ここで今の自分が作り上げられた」と話すほど、思い入れのある場所だ。
卓球や陸上などを通して、この体育館で車いす操作を覚え、スロープや周辺の坂道を上ったりしながらトレーニングをしたという。日常生活用の車いすでサッカーをしたときには、夢中になりすぎて、買ったばかりの車いすがボロボロになってしまったこともあったと笑う。
上京して車いすラグビーを始めた。これまで数々の試合を経験してきたが、この体育館で大会を迎えるのは初めてのことだ。
「ああ、ラグビーがここでできるんや、と思って、めちゃくちゃうれしかった」
家族はもちろん、小学生のころからの友達や、入院中ともにリハビリに励んだ仲間も応援にかけつけた。まるで同窓会のような賑わいのなか、凛と戦う姿を披露した。
パラリンピック代表に選ばれたことを知る友人から、たくさんの激励の言葉をもらい送り出された。
「がんばってきます!!」
はじまりの地で、パリでの活躍を固く誓った。
そして、関西を拠点とするWAVES(ウェーブス)のキャプテン・副山大輝もまた、人知れぬ思いを抱いていた。
5年前にケガを負い入院していた頃、東京パラリンピックを控えた倉橋に「一緒に走ろう」と、この体育館で声をかけられた。
倉橋と練習したり話をしていくうちに、自分も車いすラグビーをやってみたいと心が動いた。
だが、体育館にラグビー競技用の車いすはなかった。探してもらうと10年以上前のラグ車が1台だけみつかり、その「骨董品のような車いす」でラグビーを始めた。
そうして、副山と一緒に練習していた河野 悟、川口健太郎、小林和史の選手4人とスタッフ3人で、2022年にWAVESを結成した。
「関西から“波”を起こして車いすラグビーを盛り上げたい」
チーム名にそんな思いを込め、昨年のプレーオフ大会では、念願の公式戦初勝利を挙げた。
チーム立ち上げから3年目の今年。新たに3名のプレーヤーが加わり、選手10人、スタッフ10人で今大会を迎えた。
会場でたくさんの声援を浴び、副山は「まさかこんなに来てもらえるとは思っていなかった。こんなに歓声をもらったのは初めて」と喜びを隠せなかった。
「WAVESがこれだけの人に応援してもらえるようになって、今やっと、チームを作ってよかったと実感している。まだまだメンバーを増やして、ずっと応援してもらえるようなチームにしていきたい」
今大会で勝利することはできなかったが、11月のプレーオフを勝ち抜き、「日本選手権出場」というチームの目標を今年こそ達成したいと力強く語った。
車いすラグビー日本選手権・予選。次回は、パラリンピック後の9月21日と22日に新潟大会(長岡市市民体育館)がおこなわれる。
パリ代表の中町俊耶と橋本勝也を擁するTOHOKU STORMERS、日本代表のキャプテン・池 透暢がヘッドコーチを兼任するFreedom、若山英史が所属するOkinawa Hurricanes。そしてRIZE CHIBAと、今シーズンに結成したばかりのGLANZの5チームが出場予定だ。
世界を目指す第一歩が、ここにある。
ラグビーを楽しむ姿が、ここにある。
この競技の面白さにハマる「原点」にもなる国内大会に、ぜひとも注目してほしい。
【第26回車いすラグビー日本選手権・兵庫予選】
<試合結果>
◆1日目(7月27日)
AXE ○ 46-41 ● SILVERBACKS
Fukuoka DANDELION ○ 67-14 ● WAVES
BLITZ ○ 47-36 ● AXE
◆2日目(7月28日)
AXE ● 35-45 ○ Fukuoka DANDELION
SILVERBACKS ○ 59-36 ● WAVES
BLITZ ○ 48-40 ● Fukuoka DANDELION