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【車いすラグビー/パリ2024パラリンピック日本代表】史上最強のチーム力で世界に勝つ!
『挑め、自分史上 最強。』というパラリンピック日本代表選手団のスローガンを胸に、五輪の熱狂を引き継ぐ。(撮影/張 理恵)

【車いすラグビー/パリ2024パラリンピック日本代表】史上最強のチーム力で世界に勝つ!

張 理恵


 パリ・オリンピック開幕に世界が沸くなか、その熱狂を引き継ぐパラリンピックに向けた準備が進んでいる。
 車いすラグビー日本代表の国内での強化は、8月の最終合宿を残すのみとなった。

 パリ2024大会代表メンバー発表後の7月合宿では、「基礎の確認と早いトランジション(攻守の切り替え)、敵よりも1歩早く動くという部分をテーマにした」と、岸 光太郎ヘッドコーチ(以下、HC)は語り、リザーブのメンバーも含めて「全員でパリまでチームを作っていく」と強調した。

 日本が世界王者のオーストラリア(当時)を圧倒し、パラリンピック出場権を獲得した昨年7月。
2017年から6年にわたり日本代表を指揮したケビン・オアー前HCが健康上の理由から電撃退任、その翌月に岸HCによる新体制がスタートした。

 チームを率いるにあたり岸HCが掲げたのは、これまで日本が築いてきた「スペーシング」「アグレッシブ」「スマート」といったラグビーのコンセプトを継承しつつ、さらにプレーの細かい部分にまでこだわり、チームプレーへの意識を高めるということだった。

ハードワークに加え、細部にまでこだわる緻密さも日本ラグビーの持ち味だ。(左・草場龍治、右・島川慎一)。7月の合宿にて。(撮影/張 理恵)

 オアー前HCが最も大事にし、根気強く鍛え上げた基礎。それをもう1段階、深いところで追及した。

 パリがパラリンピック4大会目となる池崎大輔は、「これまでも基礎を徹底的にやってきたが、その中でまだ自分たちが見落としている部分があるかもしれない。車いすの操作、ボールハンドリング、そういう細かい基礎の基礎をもう一回改めて精度を高めてきた。そうすることで、ゲーム中の応用という部分でもプレーの精度が上がった」と、この1年の取り組みについて振り返る。

 車いす同士のコンタクトが認められている中で、たとえば、なんとなくプレッシャーをかける、ではなく、自分のチェアをしっかりと相手の車いすに付ける。その時、次に起こしたいアクションを考え、相手のホイールのどの箇所に、どういうアングルで当てるのか、味方や相手の位置やコートの状況を見ながら力学的に判断する。

 また、ボールを持っている相手選手へのタックルでは、ただ力任せにぶつかるのではなく、相手がバランスを崩しパスミスを誘発させるよう、あえて中心ではないところを狙うこともする。
 車いすの性質を熟知し、自分の障がいと向き合いながら、プレーの中で思い描く動作を再現できるよう忍耐強く積み上げてきた。

国際大会の経験やプレータイムの増加が自信となり、高いパフォーマンスにつながっていると話す橋本勝也(右)。左は池崎大輔。(撮影/張 理恵)

 そして、チームプレーへの意識を高め、「チーム力」に磨きをかけた。
 得点パターンが、トライによる「1点」のみの車いすラグビーにおいては、ひとつのミス、ひとつのターンオーバーが命取りになる。自分たちにボールの所有権がある攻撃の場面で、1点をきちんと取りきることが必須となる。
 その中で、より確実にスコアするため、個人のスキルで突破できそうな場面でも、2on2、あるいは2on1で上がる選択肢をつねに持ちながら、チームプレーを意識的に強化した。

 ゲームプランのもと、コートにいる4人が同じビジョンを描き、それぞれの役割を遂行する。ラインアップ(コート上4人の組み合わせ)が代わっても「一貫性」をもって最後まで戦い続ける。
 チームで戦うという一体感が、パラリンピック前哨戦となった先月の国際大会(カナダカップ)全勝という結果につながった。
 守備の要・乗松聖矢は、「相手に個のパフォーマンスが高い選手がいたとしても、それをチームでカバーできるところが今の日本の強み」と、手応えを語った。

 岸HCは「金太郎飴(アメ)」と表現するが、どのラインアップも同じ強度で戦える、つまりは12名のメンバー全員で戦えるチームであることが、日本の大きなストロング・ポイントだ。
 競技歴25年、2004年のアテネからパリまで6大会連続でパラリンピック日本代表として戦う島川慎一は、「今が一番強い」と迷うことなく言う。そして、「課題に対してしっかり修正ができ、ラインアップが代わっても戦力が落ちないチームになった」と胸を張る。

 障がいの比較的軽い「ハイポインター」は機動力やパワーがあるため、ポイントゲッターとしての役割を担い、“エース”と呼ばれることも多い。
 世界トップランクの強豪国には、高いパフォーマンスでチームをけん引するエース選手がいるが、試合の強度が高くなるほどエースをベンチに下げられず、フル出場を余儀なくされるのが現状だ。
 日本も少し前までは、高さと正確無比なパスを武器とする司令塔の池 透暢にプレータイムが偏り、「いかに池を出さない時間帯を作れるか」が課題となっていた。

ハードワークに加え、細部にまでこだわる緻密さも日本ラグビーの持ち味だ。(左・草場龍治、右・島川慎一)。7月の合宿にて。(撮影/張 理恵)

 しかし、個人のスキルアップと各ラインアップの成長により、全員でプレータイムをシェアできるのが現在の日本だ。コート上の4人が一気に交代し、相手に流れを渡さないという展開は、もはや見慣れた光景となっている。
 東京パラリンピック以降の国際大会で、試合中に起用したラインアップだけでも20パターン以上あり、これほどの「持ち駒」を携えている国は、そうそうない。

「(ベンチにいて)自分がいつ呼ばれても戦える準備はできている。それに、誰が出てもバタつかない安心感がチームにある」
 数種類のラインアップで起用されるクラス0.5の長谷川勇基も、チーム力の高まりを実感している。
 これは主観的な感想にとどまらず、海外チームの選手やコーチに日本の印象を聞くと、「Deep Bench(選手層の厚さ)」という答えがまず挙がることからも証明できるだろう。

 最後に。東京パラリンピックでチームの戦力になれなかった悔しさをバネに、地道に実力を積み上げてきた橋本勝也、小川仁士、中町俊耶。そしてチームで唯一パラリンピック初出場となる新星、草場龍治といった若手選手たちの目覚ましい成長が、チーム力を押し上げている。
 そして、チーム最年長の島川慎一が49歳、最年少の橋本勝也が22歳と親子ほどの年齢差があろうとも、世代や競技歴の壁を取り払い、お互いの声に耳を傾け、言い合えるコミュニケーション、さらには共に重ねてきた時間と経験が、揺るぎないチームワークを作り上げたことも言っておきたい。

 緻密で、ハードワークを惜しまず、12人でつなぐラグビー。
「チーム力」を武器に、パリの舞台で、日本ラグビーが世界に挑む。

パリ・パラリンピックでもこの笑顔に出会えることを期待したい。(撮影/張 理恵)

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