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【パリ五輪】満員のスタジアムで、男子日本代表は初日連敗。坂井克行氏(セブンズ日本代表最多キャップ)が28分間を分析
NZの好ランナーを止め切れなかった。(撮影/松本かおり)
2024.07.25
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【パリ五輪】満員のスタジアムで、男子日本代表は初日連敗。坂井克行氏(セブンズ日本代表最多キャップ)が28分間を分析

田村一博


 スタジアムへ向かう人の中に各国のジャージーを着ている人たちは、そう多くなかった。
 それがラグビーワールドカップとの違いだろうか。
 7月24日、パリ五輪のラグビー(男子/セブンズ)が始まった。

 舞台のパリ郊外、サンドニにあるスタッド・ド・フランスは、熱気に満ちていた。
 スタンドを埋めたファンは6万9000人。この日おこなわれたプールステージの戦いを楽しんだ。

『ESSAI』
 フランス語でトライを表すその文字が、この大会で初めて大型ビジョンに映し出されたのは開幕戦、オーストラリア×サモアの開始2分だった。サモアの10番、モトゥ・オペタイがインターセプトから60メートル近くを走り切った。
 しかし、試合は21-14でオーストラリアの勝利。第1試合から好ゲームだった。

 スタジアムが最も沸いたのは第3試合。フランスがピッチに登場した時だった。
 アメリカとの一戦には人気者のアントワンヌ・デュポンも登場。味方を活かすパスや仕掛けで活躍し、後半4分30秒までピッチに立った。
 しかしチームはその後追いつかれ、12-12と引き分けた。

大歓声を受けてプレーしたフランスのアントワンヌ・デュポン。(撮影/松本かおり)

 男子セブンズ日本代表の初戦は18時開始。野口宜裕がニュージーランド陣へキックオフを蹴り込んで始まった。
 ピッチ中央に短いキックを転がす。そこに先に到達、あるいはプレッシャーをかけてマイボールにする作戦だった。
 しかしボールは相手の手に入り、いっきに攻め込まれた。37秒で先制トライを与える展開となった。

 しかし日本は崩れなかった。
 リスタートのキックオフボールをなんとか手にすると、左右にボールを動かす。
 相手防御が前に出てきたところを狙い、ジョシュア・ケレビが裏のスペースにキックを蹴り込む。そのボールを受けた津岡翔太郎がインゴールに入った。コンバージョンキックも決まり、スコアは7-7となった。

NZ戦。津岡翔太郎のトライで一時は追いついたのだが。(撮影/松本かおり)

 しかしハーフタイムに入るときのスコアは26-7とNZのリード。
 黒いジャージーは3トライを追加して攻撃力の高さを見せつけた。

 リスタートのキックオフボールをレシーブし、入れ違いで攻め切ったもの。反則やターンオーバーから攻め、日本の前に出るディフェンスを破って走ったもの。
 NZはサクラのエンブレムを胸にした選手たちの防御を翻弄した。

 NZは後半が始まってすぐに追加点を取るも、33-7とスコアが開いてからは、日本が攻める機会も多かった。ンガロヒ・マクガーベイブラックが次にトライを奪ったのは残り1分50秒。コンバージョンも決まり、40-7と大差がついた。

 日本が5点を返したのはラストプレーだった。
 後半の7分が経ったことを知らせるブザーが鳴った後の攻防で、日本は前半のトライシーンと同じようなシーンに持ち込む。左展開した後、松本純弥が防御裏にキック。それを石田大河がインゴールで抑えた。

 リオ五輪で4位に入ったチームの中核で、男子セブンズ日本代表の最多キャップホルダー(62キャップ)の坂井克行さんは、「ジャパンがやりたかったことは感じられた」と話す。

「ワイドに攻めていました。ボールを下げ、散らすことで相手の防御が前に出てくる。その裏に蹴ったり、ラインアウトからオーバースローを投げて攻めたり、いろんなオプションを用意していたと思います」

 試合開始のキックオフで見せたショートキックも、結果的にトライを許すきっかけになったものの、初戦に懸ける気持ちが伝わる「いいチャレンジだった」と言う。
 ただ、NZの好ステッパーたちにプレッシャーをかけられなかった。

スタッド・ド・フランスには6万9000人が訪れた。(撮影/松本かおり)

 リスクを背負って前に出るディフェンスが思ったように機能しなかったのは誤算だった。
「NZのラインが思っていたより深かったのだと思います。それで上がり切れず、(タックラーの網に)引っ掛からなかった」
 横の選手とのコミュニケーションをもっと密にして動くことで局面を打開してほしかった。

 ただ、ラストプレーで挙げたトライは今後の戦いに良い影響を与えると、評価した。
「たまたまのトライではなく、準備していたプレーを出して取ったもの。自信にもなっただろうし、次の試合に気持ちよく向かえる、という点でも意味のあるものだったと思います」

 次戦のアイルランド戦は、21時のキックオフだった。
 結果は5-40。またもディフェンスが思ったように機能せず、計6トライを奪われた。

 試合開始直後(1分)にトライを許したものの、2つ目の失トライはキックオフから7分が過ぎたことを知らせるブザーが鳴った後だった。
 その間、日本はアイルランド陣に攻め込むことも少なくなかった。
 一人ひとりの動きのキレも悪くない。ただ、ラインブレイク、ゴール前まで攻め込むシーンはあっても点を取り切れなかった。

 後半はキックオフボールをうまく取られ、そのまま走り切られるシーンあり。ターンオーバーから失点する場面もあった。
 残り1分を切ってから1トライを返すのが精一杯だった。

アイルランド戦の前半は、好機を作るシーンも多かった。写真は福士萌起。(撮影/松本かおり)

 坂井氏は、この試合も前戦同様、準備が伝わるシーンがあったという。
「ディフェンスのシーンで、ラインアウト時、BKに4枚立たせていました。得点シーンは攻撃時のラインアウトから。センタークラッシュした後、ボックスキックで相手にプレッシャーをかけ、そこからトライを奪った(津岡)。NZ戦でも効いたプレーでした」

 守り切れないのは、ラッシュディフェンスが読まれているからと感じた。NZがそうだったように、アイルランドもディフェンダー間を走ってきた。
 1つのタックルミスで7点を重ねられていては、勝ち目は少ない。2日目以降に浮上するためには、その点の修正が急務となる。

 7月25日は、南アフリカとのプールマッチを戦った後、順位決定戦へと進む。
 個々の動きはいい。ボールを持っている時間は、日本らしさを出せている。持てる力を最初から出し、僅差で後半に入る展開に持ち込みたい。

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