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【車いすラグビー/パリ2024パラリンピック日本代表】東京の悔しさをパリで晴らし、世界の頂に立つ。
史上最強のパリ・パラリンピック日本代表に期待が高まる。(撮影/張 理恵。以下、同)

【車いすラグビー/パリ2024パラリンピック日本代表】東京の悔しさをパリで晴らし、世界の頂に立つ。

張 理恵


 最強JAPANが動き出した。
 いざ、世界の頂へ——。

 7月8日、パリ・パラリンピックを戦う車いすラグビー日本代表の記者会見が東京都内でおこなわれ、代表選手12名と岸 光太郎ヘッドコーチが決意を語った。

 リオと東京のパラリンピック2大会連続で銅メダルに輝いた日本が、パリで目指すのはただひとつ、悲願の金メダル獲得だ。
 現在、世界ランキング3位。
 ただ、ランキングはただの数字とばかりに、今年に入って出場した国際大会では、3大会すべてで優勝を果たし、今まさに上昇気流に乗っている。
「チームが最高の状態でパリに臨める」
 キャプテンの池 透暢は力を込める。
 パラリンピック3大会出場のベテラン、池崎大輔も「今のチームは間違いなく世界一になれる強さを持っている」と、自信をのぞかせる。

「全員で一歩一歩しっかり登って山頂を目指す」とパリ大会での目標を語った岸光太郎ヘッドコーチ

 12名のメンバーのうち、11名が東京パラリンピック代表という顔ぶれとなった今回の日本代表。
 チームで唯一、パラリンピック初出場となる草場龍治は、東京大会以降に彗星のごとく現れた新鋭だ。

 手足の筋力や感覚が徐々に低下する難病「シャルコー・マリー・トゥース病」により車いす生活となった草場が、車いすラグビーを始めたのは19歳のとき。
「自分と同じ障がいがある乗松聖矢選手が日本代表として活躍しているのを見て、自分にも可能性があるなら頑張ってみたいと思った」
 強い意志を持って、乗松も所属する地元・福岡のクラブチーム「Fukuoka DANDELION」に自ら申し入れ、2020年11月に正式加入した。

草場龍治は、憧れでありライバルの乗松聖矢とパラリンピック初出場を果たす

 車いすラグビーでは障がいが2番目に重い、クラス1.0の草場は、同クラスで世界トップレベルのスピードを誇る。
 2年前の2022年には「2028年のロサンゼルス・パラリンピック出場が目標」と話していたが、同年に次世代の若手選手たちによる日本代表に選出されると、2023年10年には、パリで開催された「国際車いすラグビーカップ」でフル代表デビューを果たした。
 闘争心をむき出しにするタイプではないが、内に秘めた「ド」がつくほどの根性がある。
 草場の台頭はチーム内の競争力を高め、ベテランをも脅かした。並外れた成長ぶりに「自分も負けてはいられない」とチーム全体が刺激された。
「スピード、体幹機能を生かしたハードワーク、そして最後まであきらめないプレーが自分の持ち味」と草場。

「これまで共に戦ってきた仲間の思いと、日本代表としての自覚と責任を持って最後まで全力で戦います」。世界最高峰の舞台での活躍を誓った。

 男女混合競技である車いすラグビーにおいて、日本代表初の女性プレーヤーとして注目されるのが倉橋香衣だ。
 東京パラリンピックに続き2大会連続での選出となった倉橋。一番障がいの重い、クラス0.5ではあるが、プレーを先読みして相手の走路にヒュッと現れると、屈強な海外選手の動きを止めてみせる。ラスト・トライを狙うピリオド終盤の場面で起用されることも多く、勝敗のカギを握るプレーヤーのひとりだ。

倉橋香衣は東京大会の分までパリ・パラリンピックを楽しみ、勝ちにもこだわるつもり

「楽しむ」をモットーとする倉橋のトレードマークは、笑顔。会見でも“香衣スマイル”が会場を和ませた。
「国際大会は楽しい。だから、試合をするごとに大会が終わっていくのが寂しい…」と話す倉橋だが、前回の東京パラリンピックは「楽しみきれなかった」と胸の内を明かす。
「がんばろうと思い過ぎて、楽しみきれなかった。(コロナ禍で)東京2020大会の開催に賛否がある中での大会だったし、自分の体調やコンディションの方に頭がいって、いろいろな思いがあった」

 だからこそ、パリへの思いは人一倍強い。
「大会自体も、一つひとつの試合も、一個一個のプレーも、全部楽しんで全力で取り組む」
 倉橋の「楽しむ」という言葉には、多くの意味を含む。
「だからって負けたら楽しくはないので、ちゃんと結果を求めていきたい」

 本気で金メダルを掴みにいった、3年前のパラリンピック。
 日本は2大会連続の銅メダル獲得も、最後にコートにあったのは、涙と悔しさだった。
 乗松聖矢は会見で、固い決意を口にした。
「パリ大会で一番目標にしているのは、まず準決勝の舞台に上がること、そして準決勝で負けないことです。もう準決勝で負けるところは見せしたくないし、自分たちもそこで終わりたくない。残り1か月半、まだ時間はある。その舞台で後悔しないように、チームのためにできることをすべてやり切りたい」

池崎大輔(後列中央)からエースのバトンを受け取った橋本勝也(前列中央)は、バリで日本のキープレーヤーとして活躍することを誓った

 東京パラリンピックの3位決定戦のあと。日本のすべての試合を終え、池崎大輔に「次はお前の番だぞ」と、エースのバトンを託されたのは、橋本勝也だった。
「あの一言で僕は変わった」
 橋本はそれを、パリの大舞台で存分に体現するつもりだ。
「3年間やってきたことが間違いではないということを証明する大会にしたい。悲願の金メダルを獲得して、みんなと一緒に喜びを分かち合いたい」
 池崎の前で、堂々と宣言した。

 パリ・パラリンピックで車いすラグビー競技は、開会式翌日の8月29日から9月2日の5日間にかけて熱戦が繰り広げられる。
 史上最強の呼び声高い、チームJAPAN。
 虎視眈々と、熱くも冷静に、世界の頂点を狙う車いすラグビー日本代表に注目だ。

パラリンピック3大会連続出場となる乗松聖矢は、準決勝の壁を打ち破ると固い決意を語った

【パリ2024パラリンピック 車いすラグビー日本代表】
倉橋香衣  0.5 F(東京2020パラリンピック)
長谷川勇基 0.5 (東京)
若山英史 1.0 (ロンドン/リオ/東京)
小川仁士  1.0 (東京)
草場龍治  1.0  初出場
乗松聖矢 1.5 (リオ/東京)
羽賀理之 2.0 (リオ/東京)
中町俊耶 2.0 (東京)
池 透暢 3.0 (リオ/東京)
池崎大輔  3.0 (ロンドン/リオ/東京)
島川慎一 3.0 (アテネ/北京/ロンドン/リオ/東京)
橋本勝也  3.5 (東京)

※数字は障がいの程度や体幹等の機能によって分けられるクラス(持ち点)。数字が小さいほど障がいが重いことを意味する。F」は女性選手。
※カッコ内は、パラリンピック出場歴

池透暢(※スクリーン)がリオ、東京に続きパリ大会でもキャプテンを務める(※体調不良のためオンラインで出席)



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