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【U20日本代表】間に合った。海老澤琥珀、強くなって戻ってきた。
50メートルを6秒で走る。急加速で勝負したい。左は増山将。(撮影/松本かおり)

【U20日本代表】間に合った。海老澤琥珀、強くなって戻ってきた。

田村一博


 久しぶりに全開で走っていた。U20日本代表の海老澤琥珀(えびさわ・こはく/明大2年)だ。
 痛めていた股関節の影響で、1か月以上別メニューで練習に取り組んでいた。リハビリを経て、6月22日から始まっている千葉での同代表合宿から仲間と同じ練習に取り組んでいる。

 6月26日、合宿でおこなわれたトレーニングにはサッカーボールを用いるメニューがあった。そこで目立っていたのが海老澤だった。
 2歳の頃から小6までサッカークラブに入っていた。練習を終え、「久しぶりに、しっかりラグビーをできています。楽しいです」と表情を崩した。

 股関節を痛めたのは、ジャパンXVとして参加した4月のパシフィックチャレンジの前あたりだった。同遠征では2試合に出場も、本調子ではなかったと振り返る。

 症状が長引くことを防ぐため、1か月以上、リハビリに励んだ。
 上半身、コアを特に鍛え、ベンチプレスの数値は怪我以前より10キロ以上伸び、130キロとなった。「以前より強くなって戻る」と言っていたことを現実のものにした。

 チームは、ワールドラグビー主催のU20トロフィー参加のため、6月28日にスコットランドへ向けて旅立つ。
 プールステージで戦うのは、7月2日=香港、同7日=サモア、同12日=スコットランド。その先の順位決定戦に進み、優勝すれば、上位大会のU20チャンピオンシップに昇格できる。

 海老澤は、まもなく始まる大会で自分に求められるプレーを、「しっかりトライを取ること。ディフェンスでは常に外側で止め続けること」と理解する。
「それを遂行して必ず優勝したいですね。リハビリ中、上半身と体幹が強くなったと思います。それが海外で通用するか楽しみ」と前向きだ。

 小柄でも大きな相手と戦えているのは、速さと低さを自身の強みと認識してプレーしているからだ。
 大男に低く刺さり、スピードで置き去りにする。世界の舞台でも、いつもの自分を表現したい。

 強みであるステップのときにかかる負荷により、体感や股関節が耐え切れなかったから痛みが出たようだ。リハビリ中は、そこを鍛えるメニューに取り組んだ。

 コンタクトプレーへのGOサインが出るまでは時間がかかった。
 しかし、慎重に回復具合を確認しながら復帰計画を進めたお陰でスピードも高まった。

 千歳中学ラグビー部時代から好ランナーとして知られている。そのランニングは、「ひたすらアタックに参加し続ける意識のもとでプレーして」高まっていった。

 U20代表にともに選ばれている伊藤利江人(SO)は、ラグビースク―ル(世田谷)、そして中高大と、常に同じ道を歩んできた仲間。
 お互いステップに強みを持つ。少年時代から、お互いに抜き合いをやっていたこともアジリティーを高めることにつながったと感じている。

明治大学の2年生。情報コミュニケーション学部に学ぶ。(撮影/松本かおり)

 報徳学園高校の3年時は全国高校セブンズで頂点に立ち、花園では準優勝と好成績を残した。
 明大に進学してからも、1年時から試合への出場機会を得た。しかし、11番を背負えるようになったのはシーズンの半ばになってからだった。

 春シーズンは、チームからあまり信頼されていないと感じることもあった。
 しかし大学のレベルにも慣れて安定感が出てくると、パスが回ってくるようになった。時間をかけて周囲との関係性を築いていった結果だ。
 順風満帆に見えて、改善と成長を重ねたからいまがある。

「(ジャパンタレントスコッドやU20など)いろんな機会をもらう中で、エディーさんの指導を受けたりして、自分に足りないものが分かったり、目指しているものまでの距離感が分かるようになってきた」と、自分がいま置かれている立場に感謝する。

 まだ大学2年だからといってノンビリするつもりはない。2027年のワールドカップを視野に入れて行動していく。
 6月中旬、JTSの活動で日本代表の宮崎合宿に参加、田中史朗、リーチ マイケルという2人のレジェンドの話を聞く機会があった。

「大事なのは自分次第、ということをあらためて知りました。(自分ができていないことを)環境のせいにしない」
 向上心を持ち、ハードワークを欠かさない。そうすれば、目指しているところに必ず手が届くのだ。

 憧れであり、目標としているのは、南アフリカ代表で東京サントリーサンゴリアス所属のWTB/FB、チェスリン・コルビだ。
 その人とは、サンゴリアスの練習会に参加した際に接したことがある。

 優しくしてもらった。アドバイスを受けたわけではないが、そのスピード感を目の前で体感できたことは大きかった。
「加速が凄かった。抜ける理由が分かりました」

 自分とのその部分の差を埋められたなら近づける感覚を持った。
 身長も体重も自分の方が少し大きい。世界で戦うのに大事なことが見えてきた。

 6月22日に行われたイングランド戦には、U20代表から昇格した同い年の矢崎由高が日本代表のFBとして先発し、国立競技場を駆けた。
「あの舞台に、同じチームでプレーしていたメンバーが立った。すごく刺激をもらいました。自分も頑張らなきゃ、と思いました」

 自分を奮い立たせてくれるものが、身近にたくさんあることも幸せだ。
 いまはトップスピードでは敵わないが、持ち味であるステップをさらに磨き、自分らしいWTBとして勝負したいと思っている。

 直近の数か月の間に、「超速ラグビー」の目指すものは理解したつもりだ。「相手に関わらず、まずは自分たちが積み上げてきたものを出す。そこに集中して勝ってきます」と誓う。

 スコットランドでの戦いを終えて帰国した時には、さらに進化したウインガーを見られるか。

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