完敗も、ヘッドコーチに鬼の形相はなかった。
6月22日、国立競技場でおこなわれたイングランドとのテストマッチに日本代表は17-52と敗れた。
しかし、エディー・ジョーンズ ヘッドコーチの表情は穏やかだった。
ゴールは2027年のワールドカップ。このチームはまだ、10日しか本格的な練習をしていない。
僅かな準備期間での成長と現状、目的地までの距離、時間を考えたなら、間に合うメドがついたからなのだろうか。
『超速ラグビー』を掲げる日本代表はこの日、目指すスタイルを立ち上がりに見せた。
赤×白のジャージーは、キックオフ直後から全開で攻めた。
FWが鋭く動いてブレイクダウンを制し、SH齋藤直人が軽快に球をさばく。ランナーがスペースに走り込み、何度も前に出た。
イングランドのディフェンスは後退した。
2分にSO李承信のPGで先制。試合開始から15分ほどは日本代表の時間だった。
ここでトライを取り切れていたら、その時間はもっと延びたかもしれない。しかし仕留め切れず、ボールを相手に渡してしまうと守れなかった。
14分にFLチャンドラー・カニンガムサウスにトライを許すと、薔薇のエンブレムを胸につけた男たちは、前半だけで4回インゴールへ入った。
後半に入っても20分で3トライを重ね、イングランドが45点、日本は3点のまま。勝負は決まった。
日本代表はFL山本凱の好走から26分にWTB根塚洸雅がトライ。その3分後にはLOワーナー・ディアンズが抜け出し、FB山沢拓也が走り切った。いずれも、相手の運動量が落ちた後に奪ったものではあったが、大勢に影響はなかった。
宮崎合宿でおこなわれたのは、主に超速ラグビーの概念と基本的なシェイプの落とし込みだった。アンストラクチャーの状況を作り、攻防を繰り返した。
そこで培ったものを序盤に出した。
攻めれば通じた。運動量も。ただディフェンスはこれからだ。
菅平合宿も含め、並び方、前への出方、戻り方の約束事はあるが、連係が密になっていない。簡単に破られるシーンが何度もあった。
試合後の会見でジョーンズHCは、「非常に残念な結果で悔しく思っている」とし、現状と目標を考えると「大きな糧を得ることができた」と話した。
「プラス面としては、セットピースでイングランドを相手に十分に競り合うことができた面があった。それはジャパンとして非常に大きなステップアップだと思っています。また、アタックに関してもいい方向に進んでいます。ただ、チャンスを作りながらもそれを生かし切ることができなかった。そこは今後の課題です」
初キャップを得た8人について、「とても素晴らしいことだと思っているし、若手の学びといった観点からも、今後の大きな糧となると思っています。試合の結果はもちろん残念ですが、選手たちの努力は見られた。自分たちがやりたいプレースタイルを体現している局面もたくさんあったと思います」と語った。
「4年間のプロジェクトのまだ10日目ということを考えると、いい方向に向かっている」と話し、リーチ マイケル主将も「試合の結果は悔しいですが、この経験は必ず自分たちの財産になる。今後につながる」と先を見た。
ジョーンズHCは、新しいラグビーを受け入れる選手たちのキャパシティーを現在大きくしているところだと言った。
現状では、求めているものを受け入れられる容量になっていない。「それを可能にするのは練習のみ。今後もハードトレーニングを続けながら、プレーヤーのメンタル、フィジカル面のキャパシティーを成長させていく」とした。