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昨年度王者と初代王者が2月9日に激突した。
今季開幕から6戦無敗を続けてきたワイルドナイツと、激しいラグビーで勝ち星を先行させてきたブレイブルーパス(5勝1敗)。予想通りの熱戦となった。
◆埼玉ワイルドナイツのアタッキング様相。
埼玉ワイルドナイツの強さは、その揺るぎなさにある。さまざまな工夫を凝らしながらも、根本の部分がぶれないからこそ強い。
そう思わせるようなラグビーをしている。
【Point 1/「スイング」を活用したアタックシステム】
今回の試合で時折見せた「スイング」という動きは、ある程度効果的に使われていた。大きく分けると2種類のスイングシステムがあるように感じた。
まず最初は「ロングスイング」。主にSOとCTBがラック形成時、立っていた方向から逆サイドに向かって走り込みながらボールをもらう形だ。
個人的な印象では、10番山沢京平を柱にして移動し、13番ディラン・ライリーが片方のサイドに残ってアタックラインを保持しているイメージだ。
ロングスイングがなぜ効果的か。
それは、簡潔に言うと「数的優位性を作りやすい」からだ。基本的にディフェンスは相手のアタックラインの人数を見ながら左右に立つ人数の比率を調整することが多い。かつ相手の動きをある程度見ながら動く点で後出しになる。
結果、スイングを挟むことで瞬間的に数的優位性を作ることができることが多い。
スイングをして大きくアタック側の人数が動くことでディフェンスのノミネートが混乱するといった様相もある。
誰が誰をカバーするか、小さなことに感じるかもしれないが影響は大きい。長い時間優位性をキープできるわけではないが、少なからず相手に対してプレッシャーをかけることができる。
また、「ショートスイング」とも呼べるようなアタックフローも見られた。
形としてはSHと1つのポッド、FWを中心とした集団が、ブラインドサイドと呼ばれる、ラックに対して狭い方のエリアをアタックをする構造だ。
見つけた範囲では、3人のFWが同時に動いていたようにも見えた。おそらくポッドごとスイングしているとみて差し支えないと思う。
ショートスイングも優位性を作ることに貢献しているように考えられる。
人数をかけてアタック方向を動かすことによる数的優位性は当然のことながら、相手ディフェンスとの関係性の中で生まれる質的優位性を作っていた。
ブラインド側は狭いサイドのため、あまり人数をかけないようにディフェンスは整備される。
そこに立つ選手もBKの選手であることが多いから、FWを中心としたポッドとのパワーバランスが動く。

【Point 2/12番、デアレンデの強さ】
どの選手も高い水準のプレースキル、判断力などを兼ね備えているが、その中でも12番、ダミアン・デアリエンデの果たす価値が非常に大きい。
今回の試合では、早い段階で10番の山沢京平が負傷交代し、(おそらく)デアレンデがSOに近い役割を果たしていたように見えた。
器用でもあり体も強く、走力も兼ね備えた選手だ。防御側は対峙する難しさがあったのではないか。
特徴的とも言えるのが、プレー一つひとつから感じられる余裕だ。
すべてのプレーがそうではないが、間合いのコントロールからプレー選択まで、厳しい状況下には違いないだろうが、どこかしら余裕があるようにも見えた。
12番として激しい接点を求められるフェイズと、プレイメーカーとして幅広い選択肢を持つことが求められるフェイズ。それらをうまく使いこなしながらアタックに参加していた。
今回の試合で見られた特徴的な動きとしては、ポッドに対するコミットの部分だ。
12番のロールとしてプレーしていた前半に関しては、明確な突破役というよりも、ポッドの周囲に位置し、少し深い位置でプレーしていた。
と呼ばれることもあるポッドの裏に回り込むような、動的に階層構造を作る動きも使い(偽12番と呼ばれるような動き)、深さをうまく作る工夫をしていた。
【Point 3/シンプルなアタック様相】
ワイルドナイツのアタックは、比較的シンプルな構造をしているように思う。階層構造を複雑に組み立てるというよりは、細かい優位性を突いていくような形だ。
一発の構造的な優位性ではないように感じる。
基本的には中央エリアでの3人ポッドを2つ組み立て、9シェイプを中心に戦略的にアタックしていくイメージだ。後述するが、今回の試合では9シェイプが非常に多い構成をしていた。
相手を弾き飛ばすようなパワフルな選手はそこまで多くないが(いないわけではない)、じわりと前に出ることができる選手が揃っている。
ただシンプルな構造の結果、アタックはフィジカル勝負になることも多く、今回の試合ではその部分が前向きに働いたシーンと、後ろ向きに働いたシーンがあった。
ブレイブルーパスは接点の部分での強みを前面に押し出すようなスタイルで、接点ではリーグ上位の激しさを持っている。
ディフェンス面ではワイルドナイツがブレイブルーパスをある程度抑えることもできていたように感じたが、アタック面ではブレイブルーパスのディフェンスに捕まることも多かった。
位置的、数的優位性を作ることができていたシーンでは前進できても、質的な部分では一進一退に見えた。
◆ブレイブルーパス東京のアタッキング様相。
ブレイブルーパスもブルーレヴズ戦で痛い敗戦を喫したものの、ここまでのリーグ戦を、激しい接点を武器に戦い続けてきた。
記事内では触れないが、ディフェンス面に関しても接点の激しさが随所に見られたように思う。
【Point 1/アタック時の接点での苦戦】
アタックに限って見た場合、普段の試合に比べると接点で苦戦していたような印象だ。
激しいフィジカルを武器にしているが、真正面から相手とコンタクトするシーンも多く、ダブルタックルなどで押し返されるシーンも見られた。
普段の試合展開では激しい接点で前に出て、相手のディフェンスラインに対して偏りが生まれた時に突き崩すような素早い展開を見せることが多い。
グイグイと前に出ることができれば、相対的にアタックラインが勢いを出すことができるため、優れたランナー揃いのアタックラインを効果的に活用することができる。
しかし接点で思うように前に出られず、アタックラインに勢いがないフェイズも多かったように思う。ラックにかなりプレッシャーを受けるシーンも多く、SHも少し球出しに苦労していた。
ゲインラインを大きく動かせないフェイズもあり、その結果としてアタックラインがシンプルになっていたり、浅くなったり、普段のアタックの強みを出すことができていなかった。
後述するが、後半に関しては接点の部分も含めて修正力が効いていた。
接点をずらし、相手の圧力に対してズレを作りながらディフェンスラインを攻略をしていたようにも見えた。詳しくは次の項で説明していきたい。

【Point 2/修正力が効いた後半の猛攻】
前半のアタックに関しては、正直なところ苦労していた印象だ。
トライこそ奪えたものの、瞬間的なズレを活かした個人技の要素も大きく、連続したフェイズからチャンスをつかむことはできていなかったように思う。
ポゼッションも40パーセント弱と、支配率に関しても、風上ながらも苦労していたように見えた。
後半は、ブレイブルーパスらしいアタックを見ることができた。
疲労といった両チームの足を止める要素もあったが、同じような動きで相手ラインを攻略したり、高い水準のゲームコントロールをしていたように思う。
ブレイブルーパスの基本的なアタック構造としては、10番リッチー・モウンガや、15番の松永拓朗が中核を担い、ゲームコントロールを司っている。
キャリアー、ランナーとしても強みを持つ両選手だが、位置交換を挟みながらプレイメーカーとしてアタックラインを動かしているシーンも多く見られた。
後半にかけて、アタックのフローに関しては多様性が見られた。
前述したモウンガ、松永に加えて11番の森勇登といった選手たちがラックからのファーストレシーバーとしてアタックラインを動かすシーンも増えた。
複数の選手が最初のレシーバーになることで、個人的には打点を動かせることが大きいと思っている。
打点とは、個人的な概念になるが「どこでコンタクトを起こすことができるか」といったものを指す言葉だと思っていただきたい。
つまり、アタックラインの構造、順番のバリエーションによって様々なエリアで各選手の特性、個性を活かすことができるということだ。
また、ブレイブルーパスのアタックは階層構造がハマると非常に強い。
深さを作りながら階層構造を構築することができれば、モウンガや松永といった好ランナーを効果的に用いることができる。
後半は深さを作ることで外への展開もスムーズになり、ジョネ・ナイカブラといったスピードスターに効果的な位置でボールを渡すこともできていた。
階層構造を作ることによる位置的優位性の創造もハマっていた。
階層構造は前を走るフロントラインの選手と、後ろを走るバックラインの選手の走るコースのメリハリによってズレを作ることができる。
そのズレを効果的に用いていたのが後半に生まれたナイカブラのトライだ。
FW間のポッド内パス、ティップパスも効果的に働くようになったと思う。
ティップパスとは相手に接近して、コンタクトする直前で横の選手に小さいパスをするプレーだ。ワイルドナイツのディフェンスがある程度均等に立っていたからこそ生まれた空間に対し、走り込みながらボールをもらってキャリーをするプレーで大きく前に出ることができていた。
特に16番、橋本大吾のランニングはかなり効いていたように感じる。
◆プレイングネットワークを考察する。
今回も、ラックからの2〜3パスの範囲内をまとめたプレイングネットワークを見ていこう。

上の図はワイルドナイツのネットワークだ。以下のようなことを感じた。
・9シェイプを使ったアタックがポゼッション率を踏まえても多い比率となっている。
・12番、デアレンデの早い段階でのボールタッチが多かった。
・各選手が様々な選択肢を持っている。
今回の試合では、前半の中頃で10番の山沢京平が負傷交代することとなったことが、おそらくかなりの痛手だったのではないかと思う。
デアレンデや竹山晃暉のようなSOとしてのトレーニング、プレーを積んでいる選手もいたが、後半にかけて単独フェイズ内でのパス回数が減っていた。

次はブレイブルーパスのネットワーク(↑)を見ていこう。以下、所感になる。
・9シェイプが非常に少ない。
・10シェイプが目立って多く用いられている。
・10番のモウンガ以外の選手もバランスよくボールをもらっているイメージ。
特徴的なのは、ラックからのファーストレシーバーを様々な選手がこなしているといった点だろうか。
つなぎといった要素も大きいとは思うが、様々な選手が受けることで、キーマンになるモウンガがボールを受けるタイミングや位置を変えることができ、アタックの打点を変えることにも貢献しているように感じた。
◆まとめ。
結果的に引き分けとなったが、お互いに「ここでこのプレーが決まっていれば」、「ここでプレイングミスがなければ」といった感想も湧くだろう。水準の高い試合ではあったが、さらに研ぎ澄ますことができる領域もあるように感じた。
3月にもう一度対戦の機会がある。
どのようなメンバーになるか、どのような試合展開になるかなど、再戦を楽しめる要素はいくつもある。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。
