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【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東京サントリーサンゴリアス×クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】タイプが違うスタイルの激突はドローに。
サンゴリアスは後半39分、FWが塊となって押し切り、同点トライを奪った。(撮影/松本かおり)

【リーグワンをアナリストの視点で分析する/東京サントリーサンゴリアス×クボタスピアーズ船橋・東京ベイ】タイプが違うスタイルの激突はドローに。

今本貴士

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 まさか2週連続で、このような試合展開になるとは思っていなかった。
 開幕から2敗1分けのスタートを切り、どうしても勝ち星がほしいサンゴリアスと、安定した戦い方を見せるスピアーズの一戦は、最後の一瞬まで勝敗の行方が分からない試合展開となった(1月12日)。

◆東京サンゴリアスのアタッキング様相。


 東京サンゴリアスは開幕からここまでの3試合、苦しみ続けている。
 決してスコアできないわけではない。ただ、勝ちに繋げることができていなかった。

【Point 1/ハーフバックス団のゲームコントロール】
 SHとSOを指して、ハーフバックス団と呼ぶことがある(以下HB団)。
 サンゴリアスは特にスターティングとして出場した流大と高本幹也のHB団によるゲームコントロールが主となっている。

 流はラックからボールを動かす時点でリズムをコントロールすることができる。
 当然一般的にはより速く出せる方が良いという方針があるが、流の良さは「必ずしも速さが主となるボール出しをしないこと」だ。
 良いテンポの時はそのフローに合わせたリズムをキープしながら、少しリズムが崩れた時は調整したりしている。

 もちろん、一般的なSHでもそういった意図を感じる動きはあるが、流はその中でも「自分でリズムをコントロールする能力」が高いように感じている。
 例えばラックから持ち出してからのパスや、ラックからの投げ分けなど、SHから能動的にリズムを変えることに長けており、相手にとって嫌な動きをする。

 高本もゲームコントロールにおいて主となる役割を果たしている。
 ラックからボールを受ける回数も多く、大きくボールを動かしたり自分で勝負したり、場面場面での選択肢を多く持っている。

 一方で今回の試合では、高本の担当するエリアから大きくラインブレイクをするシーンは目立っていなかった。
 普段の試合では、もう少し高本がボールを持ったシーンから相手エリアに食い込むことができていた。
 スピアーズのディフェンスは特に中央に近いほど堅く、目立ったポジショニングミスがなかったことも影響しているかもしれない。

【Point 2/シンプルなアタック構造】
 サンゴリアスのアタックは比較的シンプルだ。
 階層構造を一箇所に作り、それ以降のライン構造はシングルラインで形成されている。
 外側になればなるほど構造的にではなく、個人の能力で崩しを作ろうとしている印象だ。

 今回の試合では、全体的にシンプルな構造が必ずしも効果的に働いてはいなかった。
 スピアーズの外側のディフェンスは端(はじ)に立っている選手が詰めることはあるものの内側の選手と後方の選手の連動も良く攻撃側の選択肢が少ない以上、相手を切ることができたシーンはそこまでなかった。

 また、外側志向のアタックの結果、大外と呼ばれるような最も外に立つ選手へのパスワークが、細かく繋ぐ形ではなく、一つのパスで飛ばすようにしていたのも印象的だ。
 今回の試合ではチェスリン・コルビや尾崎兄弟、河瀬諒介のような選手たちが外側のエリアに配置され、主に高本がボールをそのエリアに供給するような形をとっていた。

後半14分にラインブレイク、トライを奪ったサンゴリアスのCTBイザヤ・プニヴァイ。(撮影/松本かおり)


 高本はパス距離も含めて動きを調整し、盤面を動かすことができる。
 今回は中央でボールを受けたあとは比較的ボールを大きく動かすことが多く、外側の選手は早い段階でボールを受けていた。
 その結果として、スピアーズのディフェンスは相手に詰めすぎることなく、大きく後方にも回り込みながらディフェンスのポジショニングをしていた。

 一方でストラクチャー的な、ある程度の組み立てを前提としたアタックからの連続フローはかなり効果的に働いていた。
 走力のある選手も揃っており、ギャップを意図的に作ることができれば大きくゲインすることにも成功していたように思う。
 チャンスを活かしきれないシーンもあったが、チャンス自体は多く見られていた。

【Point 3/苦戦した接点】
 接点の部分では、普段以上に苦戦していた。
 リズムを組み立てることを得意とする選手は多く揃っているが、その前提となるフィジカルバトルでの崩しの部分で思った効果が得られていなかった。

 ショーン・マクマーンやタマティ・イオアネ、それ以外の選手も接点自体や接点からのボディコントロールなどを得意としている。
 今回の試合ではもしかすると、普段の試合で得られていたゲインを、中央エリアでのコンタクトからは得ることができていなかったのではないか。

 FWの集団、ポッドを使ったアタックも適時見られている。
 しかし、ポッドの裏との連携が取れていないシーンも多く、誰がキャリーするかが読みやすい傾向はあった。
 ティップパスと呼ばれる、「ポッド内の選手が行う細かいパス」に関しても実行が見られていたが、相手との接近が甘く、タックラーから比較的遠い位置でのパス交換となっていた。
 接近が甘いことでタックルを狙う対象がずれても対応しやすく、精度が担保されたスピアーズのタックルに捕まるシーンは多かったように見えた。

◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのアタッキング様相。


 スピアーズは第2節でワイルドナイツに敗れたものの、ここまで2勝1敗と比較的安定したゲーム運びを見せてきた。
 万全の試合運びとは言えなくても、かなり調子良く進んできたと言える。

【Point 1/階層構造を意識したアタック】
 スピアーズは、想像でしかないが、かなり階層構造を意識したアタックをしていたように思う。
 階層構造とは、多くの場面ではポッドとその裏のラインから構成される、いわゆる「表と裏」の構造であり、近年のラグビーでよく見られる構造だ。

 スピアーズはサンゴリアスと異なり、この階層構造を一定数設けてアタックをしている。
 具体的に言うと、ラックから受けるFWからなる9シェイプとその裏、またSOから受ける10シェイプとその裏、時にはCTBから受ける位置関係の12シェイプと呼ばれる位置関係にポッドと裏の関係性が作られる。

 基本構造としては、9シェイプに3人、それ以外のポッドに2人を置く配置を作っていることが多い。単独で作るときは9シェイプのみを置いて肉弾戦に挑むことが多い。
 表と裏の連携に関しては少し不安定な部分もあり、中央に近いエリアでは、階層構造を効果的に使うことができていない時も見られた。

攻守に力強いプレーが目立ったスピアーズWTB木田晴斗。(撮影/松本かおり)


 階層構造を主としているために見られるミスも散見された。
 特にポッドから裏の選手に下げるスイベルパスの部分で見られていたように思う。
 スイベルパスは前方に進むポッドの選手と、その後ろで外に開くようにボールを受ける選手の動く方向の関係値によって効果が出る。
 今回の試合では動きのずれによってミスが生じ、結果としてトライを奪われるシーンもあった。

 ただ、全体的に階層構造をうまく使うことができていたように思う。
 階層構造は表と裏の位置関係にメリハリがあるほど効果的に働く。
 スピアーズの選手の受ける位置関係やスピードは、構造的にズレを作るのに十分な状態であったように感じられた。
 あとは、パスといった繋ぎの部分の精度を上げると、より脅威になる。

【Point 2/ポッド様相の工夫】
 また、そのポッドに関してもさまざまな工夫が見られていた。
 特に2人ポッドとその裏の選手の位置関係に関しては、動的に位置関係が変わっていたように思う。

 多く見られていたのは、2人ポッドと裏の1人のBKをローテーションのように位置関係を変えながらラインを形成するものや、2人ポッドと裏のBKも含めて3人のポッドを形成するものだ。
前者(画像①)ではリカス・プレトリアスのような万能タイプのBKが、後者(画像②)はハラトア・ヴァイレアのようなパワー系のBKが参加していた。






 こういったポッドの動きの工夫によって、相手のディフェンスラインのノミネートやコミットをずらすことができていた。

【Point 3/肉弾戦の強さ】
 スピアーズの選手たち、特にFWの選手の肉弾戦の強さは、リーグワンでもトップ水準に入ってくるだろう。
 コンタクトを厭わないキャリーや粘りのある前進と、単にラックを作るだけにとどまらない効果があるように見える。
 第2節で記事にしたワイルドナイツ戦でも、強みを発揮していた。

 特にバックファイブ(LO・FL・NO8)に関しては、控えに入った選手も含めて強烈なキャリーを見せていたように感じる。
 接点を作ってからさらに数歩、本来であればその場に倒れるところを前に出ることができる。
 接点で前に出られるということは、相手のディフェンスラインをより下げるということにも繋がってくる。そう考えると貢献度は大きい。

 しかし今回の試合では、少し迷いのような、または新しい方針のようなブレがあったようにも感じられた。

 SOに入ったバーナード・フォーリーは、世界的に見ても屈指のプレイメーカーである。
 キャリー、パス、キックといったさまざまな面でボールを動かし、広い視野を持っている。
 スピアーズのアタックラインの構築においても、フォーリーが果たす役割は大きい。

 今回の試合でも、フォーリーから動かそうとする気配はあった。
 しかし結果として「もう少し接点にこだわっても良かったのではないか」という印象もある。
 得意技でもある接点以外でボールを動かそうとしている様相もあったか。

◆プレイングネットワークを考察する。

 今回も、ラックから2パス以内の動きを見るネットワークを観察していきたい。




 こちらが今回のサンゴリアスのネットワーク図だ。
 以下のような内容が見て取れる。

・9シェイプを用いる比率が高い。
・ボールのほとんどが10番高本へ、一部が12番へ渡っているイメージ。
・BKの選手が早い段階でキャリーに繋げるシーンは多くはない。

 ゲームコントロールの多くの部分が高本によっておこなわれていることが見てとれる。
 9シェイプも多く用いられていることから、SHに入った選手の役割も大きいだろう。




 こちらの画像から以下のようなポイントを感じた。

・サンゴリアスと比べるとボールを持てていない。
・10番フォーリーへ渡るボールもそう多くはない。
・ポッドを絡めるアタックも比較的見られている。

 サンゴリアスと同じくSOによるゲームコントロールの様相はあるが、比重が偏りすぎないようになっている。
 一方で各選手の早い段階での選択肢は、ある程度絞られているようにも見える。

◆まとめ


 サンゴリアスは皮肉なことに、2試合連続でのドローゲームとなった。
 あと1トライ抑えていれば、または最後のコンバージョンゴールを決めることができていれば、といった思いだろうか。
 アタック面での実力は間違いなくあり、ディフェンス面の質も申し分ない。精神論になるかもしれないが、どちらに転んでもおかしくない試合展開だった。

 スピアーズにとっては、勝ち星を逃したという様相が大きい。
 終盤にかけて重要なシーンでのペナルティが目立っていたが大きいラインブレイクを許すシーンもなく、反則をもう一段階抑えることができればもう少し楽な試合展開になったかもしれない。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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