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【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/全国大学選手権準決勝 明治大学×帝京大学】ディフェンスと細部の差が勝敗決める。
169センチと小柄ながら、よく動いた帝京大FL森元一気。(撮影/松本かおり)

【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/全国大学選手権準決勝 明治大学×帝京大学】ディフェンスと細部の差が勝敗決める。

今本貴士

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 2025年になり、大学ラグビーも佳境を迎えている。関東大学対抗戦でも熱戦を繰り広げた両校が、全国大学選手権の準決勝という舞台で戦った。



◆明治大学のラグビー。

 明大のラグビーは、今シーズン何度も触れてきたがハイブリッド性が強みだ。
 走力と決定力に優れたBKと、相手を押し切ることに長けたFW。両者が揃って強さを発揮する。
 今回もその力を発揮するはずだった。

◆質的に明治大学のラグビーを見る。


 明大をアタック面で見ると、大きく展開を変えたような様相は見られない。
 FWで前に出て、BKで仕留める、そんなビジョンを描いていたように見えた。
 リザーブにSHを入れずにCTBを厚くする布陣など、あえての工夫かカードの問題かはわからないが、メンバー構成だけは少し変わった様子を見せていただろうか。

 アタックの中心となるのはSO伊藤龍之介だ。
今シーズンの途中から中核を担うようになり、プレーの深みも増しているように見える。
 何よりも自身の「足」を武器にした突破など、走力に優れ、1人でラインブレイクを完結させることのできるタレントを有している。

 一方、大きく相手を抜くようなラインブレイクを見せることができる選手が伊藤龍に偏っていたのは、少し気にしていきたい部分か。
 終盤にグッと前に出られるシーンが増えた様相もあったが、全体を見ていくと大きく前に出ることができたシーンはそう多くはなかった。
 両チーム似たような傾向にはあるが、その少ないチャンスで取り切った帝京と、チャンスを生かし切れなかった明大。ほんの少しの差が、最終スコアにつながったのかもしれない。

 9シェイプでリズムを作り切ることができなかったのも影響している可能性が高い。
 普段であれば9シェイプ=ラックからボールを受けるFWを中核とする集団でのキャリーで前に出て、相手のラインを下げた上でアタックラインを展開するパターンが多い。
 しかし今回の試合では、9シェイプからリズムを作ることができたシーンがほとんどなかった。

 今回の試合では、特に明大の選手がすばやくテイクダウン=地面に倒されるシーンが目立った。
 帝京大のタックルが低く体幹部の重心よりも下に入ってくるため、重心位置のずれで倒れやすくなっていた。
 それに合わせて上半身に入った帝京大のタックラーも少し下方向に動くような様子も多く、倒れるまでの速さに拍車をかけていた。
 それもあり、ジャッカルを狙われるシーンも目立っていたように感じる。

 アタック全体の狙いでもある「普通の明治のラグビー」があまりハマっていなかった様相もあるように見えた。
 明大のリズムであるFWを始点としたアタックフローは、中盤の堅さを見せた帝京大のディフェンスによってリズムを崩されていた。
 個人的には外に回すシーンにも活路はあったのではないか、と見ている。

 明大が相手を崩すことができたシーンの多くは、外側での崩しがあったフェイズと認識している。
 中盤にこだわらず、外に回した時の方が、タックルを外すスキルを持ったBKの選手たちが勝負しやすくなっていたかもしれない。
 長いキックパスで外側を狙うシーンもあったが、一発で外に回そうとした結果として、集団対集団の勝負になってしまっていたきらいはある。

いろんな局面で活躍した195センチのLO田島貫太郎。トライも奪った。(撮影/松本かおり)


 今回何よりも課題になったのはディフェンス。特に、タックルではないかと想像する。
 どのタックルも精度が高かった、と言うことは難しい。
 多くのキャリーシーンに対して1人はタックルを外される、または大きく位置をずらされることが多く、効果的なタックルは少なかった。

 また、イレギュラーなシーンを作られると、トライまで直線的に進まれていたような雰囲気もあった。
 明大はブロックのように強固な壁を作る分、一度崩されたり、そもそも作るのが間に合わないシーンになると不安定になるきらいがある。
「自分たちの型」の領域に持ち込み切れなかった、ということもあるだろう。

 タックルが高かった、低かった、という観点での評価は難しい。しかし、ピンチになった場面で、腕だけのタックルになった選手が重なった場面も見られている。
 首から肩を含む体幹部と腕の連動性が悪かった。または「チョークタックル」のような、相手の上半身を絞るようなタックルを狙う選手が多い結果、腕を軸としたタックルになっていたのかもしれない。

◆数値で明治大学のラグビーを見る。


 数値的に見ると、アタックは十二分に戦うことができていて、ディフェンス面では少し苦労していた。
 全体的に見ると苦戦の様相が見て取れる。

 キャリーの回数は、結果的には帝京大を少し上回る結果となった。
 前後半で同水準をキープしており、それぞれ少しずつ相手よりも多い数となっている。
 107回といった数値は、一般的な水準と比較するとほんの少し多いといった印象だ。
 ラインブレイクも、伊藤龍を中心にキックやランを組み合わせながら生み出すことができていた。

 キャリー回数のうち、36回が9シェイプに含まれるキャリーだった。
 比率的には一般的な回数であり、全体的な数に合わせて推移している。
 ただ、9シェイプを用いている回数は後半にかけて減少している。終盤にかけてボールを動かし、パス回数も増加していた場面をイメージしていただければ納得していただけるだろう。

 タックル成功率の観点で言うと、正直なところ相手のミスに助けられた部分もあったように思う。
 成功率は、普段の試合に比べると良くない。
 普段以上に帝京大の激しいコリジョンにやられた様相もあるかと思うが、どちらかというと、しっかり肩を当ててコミットすることができなかった印象だ。
 ミスタックルの定義に関してはもしかすると一般的な水準とは少し異なっているかもしれない。ただ、ミスタックルに近いシーンはそれくらいの数は見られた。

 セットピースに関して、数値的には全体的に上回っていたと言うことができるだろう。
 細かいディテールの判断に関しては、試合を観た方々の個人の判断に任せたい。
 ラインアウトに関しては、スティールが一定数見られた。明大FWの水準の高さを見せつける結果となった。特に田島貫太郎が見せる片手でのスティールは圧巻の一言だった。
 リーグワンも含めた他の日本人選手で、コンスタントに片手でボールを受けることのできる選手はそう多くはない。

◆帝京大学のラグビー。


 帝京大学は、シーズンの深まりに合わせて練度を上げてきているような印象を受けている。
早大との試合を経て、一段階レベルが上がったようなラグビーをしてきた。

◆質的に帝京大学のラグビーを見る。


 帝京大のラグビーは、強者でありながら堅実な要素がある。
 9シェイプで刻むようなキャリーから、10番を介した展開まで、バランスよくこなすことができている。
 昨シーズンの井上陽公(現SA広島)の試合運びに比べると、本橋尭也の方が若干攻撃的と言えるかもしれない。
 どのエリアにもキャリーに強みがある選手が揃っており、文字通り、どこからでもトライまで持ち込むことができる強さを誇っている。

 今回は試合の早い段階からボールをある程度動かそうとする様子を見せていた。
 深くまでキックオフを蹴り込まれた際のフェイズの使い方や中盤での刻み方など、普段と比べると、少し動かす傾向が強かった。
 SHの李錦寿からのハイボールや、本橋尭からのハイボールといった、空中戦に持ち込もうとする様子も見られていた。
 ただハイボールに関しては、総合的に見ると相手に安定して確保されるようなシーンも多く、効果的ではなかったかもしれない。

 前半から順に試合を見ていくと、エリア取りには苦労したような点も感じられる。
 前半で2本のトライを奪いはしたが、少々アンストラクチャー気味というような、少し崩れたシーンからのトライだった。
 全体的な傾向としては明大のキックに差し込まれるような様子もあり、なかなか自陣中心の試合運びから動かすことができていなかったようにも感じた。

 アタックでは一般的なストラクチャーでもある、階層構造を使ったアタックが多く見られていた。
 FWの選手に器用な選手が揃っており、相手ディフェンスに接近しながら後ろの空間に下げるパスをするシーンが目立った。
 明大のディフェンスがブロックを作りながら前に出る傾向が強く、ポッド(FW中心の集団)を並べることで相手の足を止めることに成功していた。
 結果として明大のより外側に並んでいるディフェンスは過剰に前に出てしまい、ディフェンス間のコネクションが切れるシーンもあった。

帝京大は重いタックルで、明大を何度も後退させた。(撮影/松本かおり)


 ラック際の判断も高水準だった。
 特にピック&ゴーと呼ばれるようなラックからパスを介さずにダイレクトにキャリーをする判断の部分がよく練られていて、一つ前のキャリーで生み出されたモメンタムを生かしながら前に出ることに成功していた。
 サポートの質も高く、オフロードを受けにいくか、もしくはラッチングと呼ばれるキャリーをしている味方をさらに押し込むような動きに入るかの部分も、しっかり整備されていたような印象を受ける。

 デイフェンスは全体的に押し込んでいたが、外側を中心に食い込まれていた印象だ。
 中盤はかなり手堅く、相手の9シェイプのアタックを中心に隣の選手と連携しながら、素早く相手を倒してプレッシャーをかけることができていた。
 一方で外側のエリアでは1対1の部分で少し前に出られるシーンが多く、特に相手のバックスリーの選手に関しては、かなり苦手としていたのではないだろうか。

◆数値で帝京大学のラグビーを見る。


 数値的には、少し押し込まれていた印象が強い。
 タックル成功率でこそ上回っていたものの、ボールを確保できていたフェイズも少し少なかった。

 キャリー回数は86回と、明大の数値から少し下回る結果となった。
 ラインブレイクは明大の数値を一定数上回る回数を見せることができており、ゲームを動かすことができていた。
 ディフェンス突破数も、強烈なキャリアーを中心に相手タックルを外しながら前進し、チャンスメイクもできていた。

 キャリーを種別に見ると、ある程度バランスよくボールを動かしていたと思う。
 9シェイプが26回、10シェイプが8回、中盤でのシェイプ外キャリーが17回、エッジでのキャリーが10回といった数値で、中盤で動かしながら、外も効果的に使ってキャリーを見せた。

 ディフェンス成功率に関しては、数値的には明大を上回ることができた。
 ただ、水準として高かったかというと、そういうわけでもない。タックルの総数も多かったがミスタックルも多かった。決勝に向けて、最後まで研ぎ澄ませたい部分だ。

 セットピースは、数値的には苦戦傾向にあったと思う。
 自分たちのボールを安定して確保できなかった側面も大きい。意図したアタックまでのフローを切ってしまった様相もあった。
 ペナルティも多かった。こちらも、決戦に向けて修正していきたい。

◆まとめ

 年明けの一発目に相応しい、激しく、それでいて冷静な駆け引きが見られた試合だった。
 決して実力差があったわけではなく、戦いの中でのほんの少しの噛み合わせの積み重ねが結果となって表れた。

 明大は圧倒的なタレントを揃えながらも、その「ほんの少し」に苦戦した印象だ。下級生もしっかり経験を積んでいるため、来年度もまた同じ舞台に上がる実力があるだろう。

 帝京は連覇まであと1勝となった。
 完璧な試合運びではなくとも、勝てる強さがあることは証明できた。最後まで、精度の部分を極めていきたいところだろう。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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