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リーグワン2024-25の第2節も熱い試合がずらりと並んだ。
一昨季の決勝を戦った両者が、熊谷で対戦した。
この試合の様相を振り返っていこう。
◆埼玉ワイルドナイツのアタッキング様相。
ワイルドナイツのラグビーに、私は「水」の様相を見出している。
空間に流れ込み、チャンスと見るや圧倒的な物量で相手を押し切ってしまう。そんな激しさと柔軟さを兼ね備えたチームと見ている。
【Point 1/柔軟なラグビー構造】
ワイルドナイツは、今回の試合でも山沢兄弟に試合のタクトを振らせた。
結果的には兄・拓也の方がボールタッチの回数は少なかったように感じるが、キッキングゲームの部分やボールを動かす役割、またアウトオブプレー(攻守が止まった状態)でのキック担当など、大きな部分を2人で分担していたように思う。
また、他の選手のプレイングスキル、プレー選択のバランスについても着目したい。
視点を分散してみると、どの選手も決まったプレーがないように見える。
もちろん得意とするプレーはあると思うが、「ボールを持てばこのプレーを選ぶ」といった選択のバイアスが、他のチームと比較すると小さい部類に入る。
FWの選手であってもパスを繋いでボールを動かすことに貢献するし、BKの選手もコンタクト場面で迷わず接近を選択する。
また構造的に珍しい組み方をしている時もあった。
以下の画像を見ていただきたい。
この画像はラインアウトからの最初のフェイズの位置関係である。
普通であればラインアウトから近い位置に12番を使ったポッド、もしくはFWを主とした集団がいることが多い。
しかし、この画像のように主に6番のベン・ガンターを中盤よりも外側においた配置を好んで用いていたのが印象に残った。
また、以下の配置も気になった。
10シェイプと呼ばれる、SOからパスを受ける小集団が4人で構成されていること自体はそう珍しくない。
珍しいのはその配置だ。
1人が前方で内寄りに仕掛け、その裏に3人が一般的なポッドの形を組む。またもその後ろにBKラインが並ぶといった構造だ。
単一の階層構造の中に三段階設けているのは少し特殊な印象もあったので、取り上げさせていただいた。
そういった工夫も見られる中で、今回の試合では少し苦しい部分もあったように見えた。
ディフェンスにも絡む話だが、今回スピアーズは、愚直に「ハイボールを上げて相手との間合いの取り合いを制する」、「接点にこだわり、ゴール前ではモールを工夫して作り上げて押し切る」といったところにこだわっていた。
結果としてフィジカルな様相を呈すことになった試合展開の中で、アタック(ディフェンスでも)で苦戦していた。
普段であれば相手の動きに合わせ、隙をついてラグビーを組み立てるところが、シンプルな土俵、迷いのない選択に対して、少し押されていたと感じた。
【Point 2/「外にこだわらない」ラグビー】
今回の項目で注目したいのが両翼を務めた長田智希、竹山晃暉のコンビネーションだ。
連続してボールを受けることはなく、主にエッジと呼ばれるようなタッチラインに近いエリアでのアタック参加が多い両選手だが、極論「WTBが見せることの多いプレー」がそう多くはなかったように感じた。
両選手は人数が余った状態、「数的優位性」を生み出した状態でボールを受けることが多い。
しかし、ワイルドナイツといえど必ずしもそこから完全に相手を振り切ることができないのは自明のことだろう。
今回挙げた両選手は大外でボールを受けると、多くのパターンで内側のルート選択をしていた。
もちろん内側に切り込むことが多いということでもあるが、結果として、大外でもラック周りは非常に安定していたように見える。
数的優位性は当然のことながら外側に作りやすい(オーバーラップと表現することもある)。
しかし、ボールが外側に大きく動けばサポートの遅れにもつながる。
ワイルドナイツの選手はそういった不利な状況に自分たちを追い込まないようなワークレートに優れている。
【Point 3/少人数でのチャンスメイク】
最初の項目とも重なるが、ワイルドナイツの各選手の万能性は、コンタクトシーンを極めて少人数で完結させ、チャンスを生み出すことにもつながっている。
ワイルドナイツが生み出した最初のトライに注目していただきたい。
山沢京平が2人のディフェンスの間に食い込み、オフロードからディラン・ライリーのトライを呼び込んだプレーだ。
当然ライリーのボディコントロールも素晴らしかったが、この「少人数でチャンスを作り出すことができる」という点において、このシーンはワイルドナイツの強みの典型的なものだった。
他のシーンでも見られていたのが、キャリアーが2人のディフェンスの間に向かって動き、オフロードをつなごうとする、またはつなぐプレーだ。
キャリアーとサポートの選手、合わせて2対2というコンパクトな接点ではあるが、この限られた空間の動きが、非常に統率が取れている。
コンパクトな構造ということは、少ないパスでチャンスを作ることができるという意味だ
人数をかけて構造化する必要がないため、次のフェイズにも多くの人数をかけることができる。戦術的に死に体(状況的にプレーに参加できない選手)の選手が少なくて済むことから、サポートの厚みを増すこともできる。
あえて言えば「効率的」という言い方もできるかもしれないが、それくらいスムーズな形でチャンスを作り出していたように思う。
◆クボタスピアーズ船橋・東京ベイのアタッキング様相。
スピアーズは、柔軟な広がりを見せるワイルドナイツと違い、あえて言えば、良い意味で頑固に自分たちのやろうとしていることにこだわりを見せていた。
間違いなく、今回の試合の接点を支配していたのはスピアーズだった。
【Point 1/「相撲」のようなラグビー】
私は今回スピアーズが見せたようなラグビーを「相撲の立ち合い」と表現することが多い。
なぜかというと、コンタクトシーンまでの動きがシンプルで、「接点だけではなく、組み合いで押し切るところまで想定したラグビー」とも見えるからだ。
スピアーズは明らかに接点の部分でワイルドナイツを上回っていた。
動的な構造の部分で上回ることができていなかった、という見方もできるが、その前提があったとしても明確にコンタクト自体、またコンタクトをしてから粘って前に出る動きの部分で前に出ることに成功していた。
一つひとつのアタックで、大きく出ることができた様相はあまり見られていないと思う。
ゲインができたとしても、ゲイン幅も小さめで、鋭いモメンタムが出ていた時間帯もそう多くはなかったように感じた。
しかし、総ゲイン量ともいうべき、「総合的に前に出ることができた移動量」は十二分な数値を示しているだろう。
また、ゴール前でのFW戦の部分などの、よりフィジカル水準が求められる部分で、スピアーズは高い水準を見せていた。
トライこそ多くを奪うことはできなかったが、ワイルドナイツはかなり嫌がっていたように見えた。
あえて言及するのであれば、この部分の精度や「トライを取り切る」ということに、よりこだわることができればさらに向上するだろう。
【Point 2/空中戦と圧力】
また、スピアーズはかなりハイボールにも重きを置いていた。
ブリン・ホール、藤原忍の両SHからのボックスキックや、BKの選手からのハイボールが目立っていた。
スピアーズは今回の試合で、プレイメーカー気質の選手が多く揃えられていた。
10番のバーナード・フォーリー、12番の廣瀬雄也、リザーブにも目を向けるならば22番の山田響もプレイメーカータイプ、ないしはキャリアの中でSOを経験したことがある選手として挙げられる。
プレイメーカー気質の選手が多く揃えられていると、キックにもバリエーションが出てくる。
ワイルドナイツの選手も、ハイボールに関してはそこまで苦手としていないだろう。
しかし、盤面が動く中でスピアーズが蹴り込むことで、高さのない選手にボールが集まっていたようにも見えた。
スピアーズの選手たちのプレッシャーも強く、キック起点で相手のミスを誘う場面は比較的多かった。
スピアーズの繰り出すキックは、イメージしているものより少し距離が出ていたような印象があるが、競り合いというよりも相手の着地に合わせてタックルを決めるような形のシーンが多かった。
ただ、ハイボールをレシーブする側のサポート選手の動きに関して、ルーリングの部分がかなり変わっていることも今シーズンは汲み取らなければいけない。
ほぼダイレクトにレシーバーにコミットすることができるので、かなりプレッシャーをかけることができていた。
【Point 3/FWのメンバー構成】
セットプレーの安定感は、今回の試合展開に間違いなく寄与していた。
ボムスコッドでこそなかったが、強烈なメンバーがリザーブにも並んでいた。
スピアーズのFW陣は全体的にキャリーに強みがある選手が多い、
特にバックファイブと呼ばれるようなLO・FL・NO8の選手たちはその中でもより強烈で、前述した「コンタクトをした後に粘って前に出る動き」を高い水準でこなすことができる選手たちである。
リザーブのマルコム・マークスやオペティ・ヘルのようなインパクトメンバーも揃っており、80分間を通じて相手に対し、接点での勝負の土俵に立つことを強制するようなメンバー構成だった。
セットピースも安定しており、特にゴールに近いエリアでのモールは間違いなく脅威になっていた。
フィールドモールを組むシーンも何度か見られ、「組んで、押す」という概念で狙ったプレー選択が多かった。
相手ありきではあるが、一般的なアタックのようにボールを下げる必要がないので、空間を無駄にすることがない。
フィールドモールを組むときの動きに工夫もあり、かなり意図的に武器にしようとした様子が見受けられた。
◆プレイングネットワークを考察する。
今回もプレイングネットワークを確認しよう。
まずはワイルドナイツのネットワーク図だ。
このイメージから、今回は以下の要素を抽出した。
・9シェイプに比率に対して、10番山沢京平へのボールも多く供給されている。
・ポッド(FWの集団)から裏に下げるようなパスは、比較的少なかった。
・BKのネットワークはシンプルな構造となっていた。
ポゼッション(ボールを持ってアタックしていた比率)に関しても少し後手に回り、普段見られるようなアタックがあまり見られなかった。
いつもの様相とは違うゲーム展開の中でも勝ち切るのも強さかもしれない。
次に、スピアーズのネットワーク図を見ていこう。
以下の要素に注目したい。
・FWを活用したキャリーが非常に多い。
・10番フォーリーを介するアタック比率が高い。
・ラックからダイレクトに受ける選手は限られているが、単純なキャリーではなくパスを繋ぐ構造も多い。
前項でも述べたように、FW戦の様相を呈していた。
しかし、激しいコリジョンの中でも表裏の階層構造を使ったアタックや、複数のプレイメーカーを起点にしたアタックなど、厚みのあるアタックを見せていたと言える。
◆まとめ
リーグワンはまだ序盤戦ではあるが、すでに決勝トーナメントのような熱い試合が続々と見られている。今回の試合も、頂点に立ったことのあるチーム同士の激しい肉弾戦だった。
ただ、まだ2節であるというのも間違いない。ここから数か月、長いシーズン中の変化、または譲れないであろう部分に着目して見ていきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。