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完敗のフランス戦から1週間後。フランス南部の小さな街、シャンベリーでウルグアイとテストマッチが行われた。ここまで格上チームに大敗を繰り返してきた日本代表にとってはマストウィンとなったこの試合、一進一退の展開だったが貴重な勝利を手にした。
この試合をいくかの数値をもとに振り返ってみる。
今回もクイズから。
日本は26.7、ウルグアイ25。
答はご存じのとおり両国選手の平均年齢である。
1)ブレイクダウンでの喪失数 日本代表3 、ウルグアイ9
NZ戦、フランス戦と非常に劣勢だった密集戦だがこの試合では改善が見られた。試合前の火曜日にトンガ代表と合同練習を実施したようだが、そうした努力の成果だろうか。いくつか例を挙げてみる。
日本の最初のトライにつながる攻撃。
ラインアウトからのサインプレーで相手防御のスペースを狙い⑫フィフィタが大ゲイン。③為房のクリーンアウトで相手防御を更に押しこむ。カウンターラックされそうになるが、ラックに入った⑧姫野が低い姿勢で踏ん張った。
次の②原田のボールキャリー。①岡部、⑦下川のサポートもありコンタクト局面から3メートルほど前進する。これまでの試合ではダブルタックルにボールキャリアが後退するシーンだが、ゴール前の数メートルの前進は非常に効果的だ。アドバンテージをもらいながら④ウルイバイティが加速してボールを受け、タックラーを弾き飛ばしラック。ショートサイドを走り込んだ⑧姫野がインゴールに飛び込んだ。
後半最初のキックオフからの一連のプレー。
SHをシンビンで欠いた数的不利の中で敵陣に入る理想的な結末だった。自陣でのブレイクダウンで何度も相手の圧力を受けたが、全員が必死にサポートに入った。
ライリーのボールキャリーでのラックにサポートしたのは⑩松永(SH役から)と⑦下川。そのあとパスが後ろにそれてピンチになりかけ、⑫フィフィタがラックを作った際は、⑦下川のサポートスピードと①岡部のクリーンアウトスキルでボールを確保した。
いったんボールが相手にわたり、ウルグアイのキックをマークした⑭ナイカブラのクイックタップからのラックでは⑧姫野と⑪濱野のサポートのスピードが素晴らしかった。⑥ファカタヴァが相手のビッグタックルに後退した局面では、①岡部がサポートコースを変更、そしてタックルを受けながらもサポートに入った⑬ライリーの動きによりボールを確保した。
一つひとつのラックに全員が必死にサポートし、ボール確保できた目立たない好プレーだ。
中学生・高校生などの若い選手、それから我々のような指導に関わる者は、このような一連のプレーでの岡部、下川、姫野、ライリーらのサポートプレーに注目してお手本にしてほしい(そのほかの選手も素晴らしいサポートをおこなっていた)。
2)テリトリー:日本代表28% 、ウルグアイ 72%。ポゼッション:日本代表44% 、ウルグアイ 56%
試合の趨勢を示す指標の地域獲得率(敵陣滞在時間の割合)とボール保持時間の割合。圧倒的にウルグアイが優勢だった。
この試合の日本代表は自陣からまったく脱出できず、敵陣へ入れなかった。要因としては数的不利に苦しんだ点は見逃せないだろうし、タッチキックが有効ではなかったこと、そして不用意な反則を犯してしまった点が挙げられる。
たとえば後半5分、日本のキックオフ後、相手の蹴り返しから始まる日本のカウンターアタックを取りあげたい。
自陣少し深め(自陣10mラインより後方)でボールを捕球した⑮ツイタマが⑩松永へパスして攻撃が開始される。おそらく日本代表コーチによる必死の声(「順目!順目!」)がTV映像にも入る、必死の局面での5つのラック。数的不利の日本代表選手たちの努力は素晴らしかったが、最後の6フェイズ目では疲れてしまったためだろうか、ボールキャリアが誰になるか分かりやすい攻撃隊形になった。結果的に⑫フィフィタがボールをファンブルし、痛恨のノックオン。数的不利のなか相手ボールのスクラムという最悪の結果につながった。
数的不利の自陣からの攻撃をどう組み立て、終わらせるか。立川が離脱したこの試合で、「若い」選手たちが苦しみあがいた。この試合の経験は必ず今後につながっていく、と信じたい。
3)ラインアウトのマイボール獲得率。日本代表82% 、ウルグアイ75%
現代ラグビーでラインアウトはトライにつながる最大の攻撃起点である。ラインアウトのボール獲得率は攻撃を組み立てる際の前提であり、たとえば2023年W杯でのトップ8の平均は88%。特にNZ、フランス、アルゼンチンなどは90%を超えていた。
日本代表はウルグアイより上回ったものの、中盤でウルグアイが競ってきた4回のラインアウトでは獲得率が50%であり、獲得できた2回にしてもプレッシャーを受ける中で準備した攻撃を遂行し、求めたようなパフォーマンスとはならなかった。トップ4を目指す上でラインアウトの質向上は急務だといえる。
一方のウルグアイは敵陣でのチャンス局面でサインミス、ジャンパーの捕球ミス、リフターの反則(トライの取り消し)、そしてノットストレートと、防御のプレッシャーによるものでない、いわゆるアンフォースドエラーを重ねた。厳しい言い方をすれば、日本代表は相手の単純なミスに助けられた。
次戦イングランドはラインアウトスチールの達人、イトジェらが待ち構える。ピンチはチャンス。一週間かけて慎重にかつ大胆にラインアウトプランを立てて準備したい。ここで獲得率90%を達成できれば勝機が見えてくる。
4)キックオフ後の敵陣プレー再開率 日本代表 75% 、ウルグアイ78%
フランス戦で苦しんだキックオフの結末(敵陣に入れたか否か)。この試合でもウルグアイを下回りながらも、前回からは改善した。
相手の反則(10mオフサイドなど)に助けられたように見えるが、キックオフキックの精度の高さは良かった。特に前半の2回は日本代表のチェイス選手(WTB)が絶好のタイミングでタックル。落下地点も最適(5mライン付近)で、プレッシャーをかけることができた。
細かい部分だが、ロック陣のキックオフレシーブスキルは不安定だった。6回のうち安定的に捕球できたのは前半10分、④ワーナーが高い位置で見事に捕球し、そのままラインブレークしてキック、一気に敵陣へ入った時だけだった。
それ以外は苦戦した。特に④ウルイバイティが2回、途中出場の⑲ワクァが1回落球し、そのままウルグアイにチャンスボールを与えた。捕球でき残りの2回もボールをファンブルしたり、キャッチ後に体勢が崩れ、すぐにタックルを受けてプレッシャーを受けた。このままではイングランドにつけ込まれる危険性が高い。
5)KBA (Keep the Ball Alive) 日本代表5(1)vウルグアイ11(7)
フランス戦では敵陣でのオフロードやポップパスが少なかった。今回も華麗なオフロードパスが目立ったのはウルグアイの方だった。カッコ内は敵陣での数値である。ウルグアイのボールキャリアーは単にサイズやパワーだけなくフットワークを上手く使い、1対1のコンタクトで優位に立った。
特にトライに直接つながった前半6分の⑨アルバレスからのオフロードパスは見事。走り込んだ⑧ディアナのみステップも素晴らしかった。後半3分にもラックサイドを⑨アルバレスが走り、⑦ビアンキがサポート。そのコースも日本代表が届かないスペースを上手く突いた。
6)ラックスピード。日本代表3.8秒、ウルグアイ2.6秒
これまでと異なる結果となった。ラック総数は日本66、ウルグアイ93。平均スピードもウルグアイより長くかかり、2秒未満ラックの割合でも相手を下回った。
しかしその中でも、超速攻撃で相手にプレッシャーをかける良い攻撃が見られた。
たとえば前半14分、中盤相手反則からのタップキック。4回のラックの平均は1.9秒で、最初の3回がすべて2秒未満だった。仕掛けた⑨齋藤に全員が素速く呼応して連続攻撃をおこなった。ボールキャリアーの②原田、⑪濱野、④ウルイバイティは攻撃の勢いを作りだした。
5フェイズ目の⑫フィフィタは相手タックラーを弾き飛ばし前進したものの味方サポートが遅れ、ノットリリースの反則となったが、素速い攻撃により次第に自分たちの攻撃隊形を崩していったこれまでの試合と異なった。この一連のプレーで、サポートは常に準備されていた。
たらればではあるが、このラックが獲得できていれば画面手前側にはウルグアイ防御選手はいなかったので、大きく日本代表にチャンスが生まれていた。
そして前半35分の日本代表のカウンターアタック。およそ50m前進することに成功、最終的にはパスミスでトライにはならなかったが、ウルグアイの反則で引き続きチャンスを継続できた。
7回のラックで、平均は2.4秒。特に中盤での最初の3回が2秒未満で相手を翻弄、ゴール前に前進して圧力をかけた。ゴール前の攻撃には、精度向上の伸びしろがまだあると考えたい。
一方、ウルグアイの素速い攻撃は日本代表を苦しめた。
たとえば、前半6分のウルグアイのトライ。6回のウルグアイのラックの平均は1.8秒で、2秒未満は5回と。まさに超速ラグビーが炸裂した。攻撃起点となったのはキック処理のミス。その直後、防御ラインが密集際に集中し、大外に大きなスペースを与えた組織の脆弱性。個々のタックルミスなどもあり、ディフェンス面の課題が露呈した。
苦しみながら勝利を挙げた日本代表は2024年最後の試合であるイングランドへの「挑戦権」を得た。
6月のエディ・ジョーンズ体制初戦と同じ相手。つまりこの試合は、就任をめぐるもろもろの経緯のなかで、華やかに「超速ラグビー」をテーマに掲げ、時間とお金と人の思いも注ぎ走り続けた2024年の総決算といって良いだろう。
まず全力で80分間勝ちにいきたい。100歩譲って勝敗は別としても、あの高額チケットの国立競技場でのミスマッチからどれほど成長できたか。「幼稚園児」だった春夏からどこまで成長したか。内容が問われるビッグマッチである。
やっぱりルディケ監督の方がよかった、トニーブラウンを失った損失は大きいのではないか。そうした「雑音」を跳ね除けるに絶好の舞台だ。この船に乗り続ければ2027年はきっと明るいと、そう思わせる80分にしたい。
目下、相手も5連敗。報道によると日本戦の結果によってはヘッドコーチの進退問題になるようで、本気で臨んでくるだろう。
世界的に見れば、「若いから」といえない日本代表。長期間苦しいキャンプで培った力を見せたい。
最後に気になることをひとつ。PK時の選択について、だ。
前半25分。相手ゴール前スクラムで日本代表がプレッシャーをかけて反則を誘った。低さを保ち、足を掻き続けた素晴らしいスクラムだった。
それまでに得た敵陣での3回の相手反則では、ほぼ躊躇することなくタッチからラインアウトを選択していた。このときも、画面に映る選手たちの多くはタッチキックを予測していたが、ゲームキャプテンの齋藤はPGを選択した。
右15mからの決して簡単ではないショットを、⑩松永がしっかり決めた。この選択はその後のタイトな展開を考えても極めて妥当だったと思う。
しかし選択の過程で、グラウンド上の選手と上からの指示の温度感を感じた。イングランド戦ではどうなるだろうか。注目したい。
【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。