NZ戦の大敗から2週間。各国強豪が一気に集まるオータムネーションズシリーズの日本代表対フランスが、フランスラグビーの「聖地」スタッドフランスで行われた。
結果は既にご存知のとおりこれまでの日本代表戦と異なり、開始早々から相手に圧倒された。地元の大声援を受けたフランス選手がいきいきと躍動。ボールと人が動くフランスラグビーの面白さばかり目立った。この試合をいくかの数値をもとに振り返ってみる。
その前にクイズをひとつ。日本代表27.8対フランス26.9。なんの数値だろうか(答は文末に)。
1)ブレイクダウン喪失数 Japan 10 v France 3
数値で見る限り最大の敗因といえるかもしれない。NZ戦では14対3だった。ジャパンのラック数自体が多かったにしても、圧倒的に密集戦でやられた。ボールキャリアが強烈なタックルを受ける、サポートが遅れる、原因はそれぞれあるだろうし、チームは改善のための努力を重ねていることだろう。すぐ解決できないので応援する側としては粘り強く待ちたい。
いくつかの例を紹介する。
前半8分の自陣10m付近で姫野がタッチライン際に持ち出したラック、ボールを守るための選手の姿勢が少しだけ高く、そこを見逃さないフランス選手にめくり上げられてターンオーバー。すかさずフランスは攻撃に転じて細かいパスをつなぐ。フランスの左と右のWTBがフィールドを縦横にサポートする姿が印象的だ。
ラックからの⑨デュポンのオフロードパスで⑧アルドリッドが大きくゲイン。BK陣がパスをつなぎゴール前に迫り、最後は⑩ラモスからのキックパスで21歳⑬ガユトンが楽々トライを奪った。
前半17分。フランスの小さなキックを拾った⑩立川が相手に捕まる。日本代表選手は近くにはいたものの密集に寄るスピードで相手に上回られた。
特に19歳のフランスWTB⑭アティソグベのスピードアップは必見だ。斉藤のキックに対する彼の反応の早さ、そして味方のキック後のチェイスのスピード。低い姿勢でカウンターアタックを成功させた。
フランスは攻撃の手を緩めずに大外展開し、⑪ビエルビアレが大きく前進してサポートした⑦ルマのトライを演出した。
前半26分、敵陣から始まる日本代表ボールラインアウトからの6フェイズ目。なんとか数的優位を作り出そうと仕掛けたが、⑨デュポンが素晴らしい反応を見せて⑬ライリーがうしろで捕まってしまった。タックルエリアに駆け寄ったのは日本が⑪長田に対してフランスは⑥クロスとまたもや19歳の⑭アティソグベ。長田も懸命に粘ったが、クロスがあっという間にボールのジャッカルに成功した。
日本の反則から⑨デュポンが超速タップキックで一気に敵陣へ侵入し、直後にラモスのキックパスを受けた⑪ビエルビアレと⑫モエファナの共演で4トライ目を上げた。
上記の3つは日本がブレイクダウンでターンオーバーを許した中の数例だが、注目すべきはフランスがボールを奪ったあとの攻撃で、高い確率でトライを挙げている点だ。
2)キックオフ後の敵陣プレー再開率 Japan 67% vs France 100%
一般的にキックオフでは、キックしたチームにとって敵陣でプレーが終わることが期待される。キック側にとって、チャンスにつながるプレーだ。
逆に言えばレシーブチームにとっては、相手陣に入れたなら成功とみてよいだろう。日本代表の場合、9回のキックオフのうち敵陣再開は6回。つまり日本代表は3回のキックオフで失敗(自陣に入られ)して、さらに2回は相手ボールとした(いずれもダイレクトタッチ)。
対してフランスは3回のキックオフのうち3回とも敵陣再開、2回がマイボールだった。代表的なプレーを2つ紹介する。
◆前半20分の日本の、この試合4回目のキックオフ。
レシーブしたフランスのキックを受けた後にカウンター攻撃をおこなったあと、⑩立川がキック。ボールはややフィールド中央へそれた。それを好捕した⑮バレが素晴らしいコントロールを見せて右方向へタッチキック。日本陣地に一気に前進した。FBのツイタマはキックを十分に警戒していたが、それを上回るコントロールだった。
⑩立川のキックに対する日本代表のチェイス布陣の人数と、プレッシャーがやや手薄だった(⑪長田は良いプレッシャーだったが、内側、ラック側からの圧力が不足)。結果、⑮バレが右方向へ楽々とキックをプレーできたともいえる。さらに言えば、⑩立川のキックまでのカウンターアタックの3フェイズで日本のFW陣がラックサポートに注力せざるを得なくなり、キックチェイスに素速く、かつ鋭く対応できなかった。
◆後半開始のフランスのキックオフ。
フランスは右奥に蹴り込み日本が捕球、日本は自陣から⑩→⑮とまわしてから⑮ツイタマが22m内でキック。そのノータッチキックは故意のものだったのだろうか。
フランスは楽々とキャッチし、悠々とカウンターに入る。⑩ラモスはコンタクトし、そのまま味方のサポートを受けて密集のまま10m以上ゲイン。さらには日本の反則を誘発し、フランスにとっては最高の結末だった。
タラレバだが、キックが専門の選手を配置し、きっちりタッチに蹴り出すことも有効だったかもしれない。
3)KBA (Keep the Ball Alive) 両チームとも11回
ボールキャリアがタックルを受けてもラックを作らずオフロードやポップパスでサポートする味方にボールをつなぐことで防御網を突破するきっかけとなる。こうしたプレー事象で前進を図ることをKBAと呼んで、練習でも取り組むケースが見られる。
試合後の会見などではフィジカルが一つの敗因との報道もあったが、このKBAを見る限りは同数だった。
特筆すべきは日本の最初のトライの流れ。⑬ライリー→⑭ナイカブラ、⑭ナイカブラ→⑨齋藤、そして⑨齋藤→⑫フィフィタ、の3連続オフロードは見事だった。フランスの防御は一気に切り裂かれ、修復する時間も与えず一気に⑩立川のトライにつなげた。
ただ同じ11回のKBAプレーのうち日本の場合は敵陣で5回だけ。フランスは9回を敵陣で成功させていた。KBAプレーはラインブレークを生む一つの有効なプレーとされているが、自陣だけでなく敵陣で成功させて相手ゴール前に迫りたい。フランスはそれができていたが、日本は自陣からの仕掛けで終わったようだ。
4)ラックスピード
ラック総数は日本の124に対してフランスは66。そして平均スピードは日本が2.6秒、フランスが3.5秒。2秒未満ラック数では日本が53回(43%)、フランスが26回(39%)だった。
日本のラックスピードの速さはこの試合でも相手を上回っていたが、フランスの2秒未満ラックのパーセンテージも高かった(フィジーは30%、NZは25%)。
ただ早いラックを繰り返した日本の攻撃がどのようなものだったかを、2つの象徴的なプレーで振り返ってみる。
【前半16分】
2トライを奪われて追いかける展開。自陣のショートラインアウトを着実に捕球し、右に大きく展開したあと、ショートサイドを交えた密集際を細かく攻撃。少しではあるが前進した。
いったん齋藤のキックで相手にボールを渡すが、再びカウンターアタックを仕掛ける。ここまで合計9人がキャリー。9回のラックの平均は2.4秒、2秒未満は半数以上の5回だったが、フランス防御を切り崩すまでに至らなかった。自陣から全力全開の超速ラックを繰り出し、疲弊した中でのキックに終わった。
そのキックはフランス側へダイレクト、殆ど動かない⑩ラモスに好捕された。ラモスはフィールド中央から日本代表の防御ラインのウラへキック。ボールを拾った⑩立川はフランス防御に捕まる。ブレイクダウンでボールを奪われ、一気に逆襲を受けた。
それまで1分以上攻撃した日本代表選手たちは、密集のボール保持のための戻るスピードも姿勢の低さも保てず、さらに、相手のラインブレイクのスピードに対応できなった。
トライを挙げた⑦ルマの全力サポートスピード、さらにはトライには絡めてなかったものの、②モーヴァカのスピードアップを見てほしい。
【後半3分】
38点差の大差がついた後半の最初のカウンターアタック。15フェイズ、約90秒の攻撃は、14回のラックの平均は1.9秒、2秒未満ラックがなんと10回と、超絶超速ラックを繰り出していた。
自陣10m付近から始まった攻撃はおよそ25m前進したが、最終的には⑮ツイタマが相手のダブルタックルで抱えられてラックを作れず、ターンオーバーされて終わった。
日本代表の攻撃の多くは誰がボールキャリアーか分かりやすく、ダブルタックルで後退させられるなど単発だった。しかし、9フェイズ目の⑥下川→②原田に渡ったプレーは相手防御のギャップを上手くついてモメンタムを生み出し、その後の⑧マキシ→⑪長田のタッチライン際での大幅ゲインにつながった。
大外ラックからのフランスの防御ラインはフィールド中央付近がぽっかり空いていたが、日本はパスを小さくつなぐ攻撃を選択したためチャンスは広がらず。次第に疲れて歩いていく日本代表選手とは対照的に、ペースが落ちないフランス防御に捕まった。
その後のスクラムから、フランスの大逆襲を受ける展開となった。大きなゲインを積み重ねられ、TMOでトライはキャンセルとされたが、デュポンにインゴールに走られた。
日本代表の防御には前に出る鋭いスピードも、密集でボールに絡む力強さも、そしてうしろに返る緊急性のためのエネルギーも残っておらず、ボールをつないで自由に走り回るフランス選手の躍動プレーばかりが際立った。
上記の2つのプレーは、日本代表のこれまでの試合でもあった。
速いボール出しの連続攻撃が相手に止められ、その直後の相手の攻撃で失点や大きな前進を許す。イタリア戦でもフィジー戦でも、NZ戦でも日本の速い攻撃は相手に対応され、徐々にサポートが減っていき、攻撃権を失う。
疲弊した日本代表選手たちは(決して防御の努力を怠っていないはずだが)エネルギーが残っておらず、満を持して逆襲する相手の攻撃を止められず失点となる。
早朝から日本代表の奮闘を期待していた人たちにとっては、試合開始から苦しい時間が続いた試合だった。
日本代表はブレイクダウンでボールを失い、失うだけでなく、直後のプレーで痛い失点を献上し、ゲームの勢いを早々に相手に与えた。キックオフのいくつかで悪い結末に終わり、一方のフランスは、キックオフをチャンスにつなげていた。また、日本はオフロードやポップパスを使った攻撃を見せるも、自陣でのプレーが多かった。今後は敵陣でのKBAプレーを数多く見せたい。
ラックスピードでは相手を上回ったといえるが、はやいラック展開の攻撃がフランス防御を切り崩すまでには至らず、その後のプレーで一気に逆襲を受けた。
次戦のウルグアイは11月9日のスペイン戦に敗れ2つランクを下げ19位。しかし7月のスコットランド戦では19-31、フランス戦では28−43と力がないわけではなさそうだ。連戦の日本代表はケガ人も出て苦しい状況だと思うが、一つひとつ課題をクリアして勝利を届けて欲しい。
冒頭のクイズの答は両チームの平均年齢である(JRFUホームページから一部筆者修正)。
【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。