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【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 明大×慶大】ボールをよく動かした明治。慶應は動かせず、タックルにも課題
攻守両面で質の高いプレーを見せた明大NO8木戸大士郎主将

【大学ラグビーをアナリストの視点で分析する/ 明大×慶大】ボールをよく動かした明治。慶應は動かせず、タックルにも課題

今本貴士

 昨シーズンまでの大まかなスケジュールとは異なり、今シーズンは早い段階で明治大学と慶應義塾大学が激突した。
 今季初戦で青山学院大学に圧巻の試合運びを見せた明治大学と、好敵手・筑波大学に苦い敗戦を喫した慶應義塾大学の戦いを、質的・数的に見ながら分析していきたい。

【明治大学のラグビー】

 昨シーズンの同一カードは66−40というスコアで明治大学が勝利した。前回の対戦時から一部のポジションにおいて大きく世代交代が起きている。
 ポジションで言うと、フロントローと10-12-15のアタックラインの顔ぶれが違う。後者については、特にアタックの軸となる部分での変化だ。

 スクラムを含むフロントローの領域については割愛するが、今回の分析では10-12-15のコンビネーションについて見ていきたい。

◆質的に明治大学のラグビーを見る
 近年の明治のラグビーは、脈々と続いているFW戦を中心にした激しいラグビースタイルと、優秀な司令塔が戦略のタクトを振りながら走力のあるBKで勝負するスタイルの二つを、極めて高い水準で混ぜ合わせたラグビーをしているように感じている。

 その点では、司令塔役を適宜交代しながらゲームを動かしていた現BR東京の伊藤耕太郎、S東京ベイの廣瀬雄也、BL東京の池戸将太郎の3人が一度に去ったBKラインは、大きな転換期を迎えたと言える。

 今シーズン、同ポジションは伊藤龍之介と萩井耀司がSOを、12番に平翔太、15番を金昂平が務める試合が多くなっている。
 司令塔としての役割の要素が強かった選手が並んでいた昨シーズンに比べ、今シーズンは各ポジションを務める選手が、「そのポジションらしさ」を発揮しているように感じた。

 伊藤と萩井は、それぞれランニングとキックを得意としながらゲームを的確に動かし、平は優れたキャリアーとして中盤を盤石な状態にしている。金が本格的にAチームに名を連ねるようになったのは今シーズンからと認識しているが、カウンターやフェイズアタックでは走力を生かし、スピードあるアタックラインを形成している。

 明治は階層構造を意識したアタック傾向を見せている。ラックからの最初のレシーバーには基本的に10番が入り、12番以降の選手は、それよりも外のエリアで動いている印象を受ける。
 平や金は、ポッドに準じた集団に参加したりすることで各キャリーを安定させている。自身の位置をずらすことで、流動的に階層構造を作り出しているようなシーンも散見される。

 当然のことながらFWの選手もアタック面で重要な役割を果たし続けている。

 一般的にセットピースからの連続攻撃は、テンポを出すほど次の選手が流れるような形になってしまい、前方向への勢いを出せない時も多い。
 しかし、明治のFWの選手は移動しながらのキャリーの中でも、しっかりと縦に動けている。前方向の勢い=モメンタムを余すことなく相手ディフェンスに対してぶつけることができているため、慶應義塾のディフェンスラインはかなり押し込まれているような様相が見られた。

 また、ポッドと呼ばれる小集団内で細かくパスをしていることも前進に寄与していた。
 慶應義塾のタックルは刺さるように低く入ってくるのが特徴的であるが、一方で横との連携がブレるシーンも見られる。
 そのため、ポッド内での細かいパスによって相手ディフェンスとの1対1に持ち込むことができ、明治サイドの体の強さを効果的に使うことができていた。
 ポッドの先頭の選手が相手ディフェンスに対して正対してコミットしながらパスを放ることができていたのも有効だった。

プレーヤー・オブ・ザ・マッチに選出される活躍だった明大CTB平翔太

 ディフェンスも激しさは健在だった。ブレイクダウンも含めて相手にハードにプレッシャーをかけていた。
 特に木戸大士郎主将のブレイクダウンワークは素晴らしく、アタックでは相手を確実にクリーンアウトし、ディフェンスでは相手ボールへ素早く働きかけていた。

「2パス以内のキャリーに対して激しく仕掛ける」イメージを持っているように見えた。慶應の9シェイプ(SHから直接パスを受けたFWの小集団)などを、しっかりとゲインラインから後退させるようにプレッシャーをかけていた。
 夏の菅平での練習試合では、外側のエリアを攻略されるようなシーンも目立っていたが、慶應サイドが中央付近でのキャリーに終始していたこともあり、大きく外側から崩されるような形は見られなかった。

◆数値で明治大学のラグビーを見る
 明治のアタックを数値で見ると、前後半である程度の傾向変化はあるものの、ある程度ボールを動かしながら打開を図ろうとしていることが伝わる。

 特にボールが大きく動いた前半は、66回のキャリーに対して90回のパス。10番に入った伊藤を中心にボールを大きく動かしていることが分かる。
 9シェイプへのパス回数は前後半で32回となっている。ポッドの後ろに立つ選手へのパス(一般的にスイベルパスと呼ばれる)は6回あり、単調なアタックにならないような工夫も随所に見られた。

 一方ボールが動きにくくなった後半、前半は7回あった10シェイプ(SOからのパスを受けるFWの集団を使ったアタック)へのパスが一度もない。
 パス総数に対する9シェイプの比率は大きく変わっていないことから、試合の傾向として手堅い試合展開が増えたということもできる。
 前半途中から戦術的交代で海老澤琥珀を投入したが、外までボールを動かすシーンは多くなかったのではないか。

 ディフェンス面で言うと、タックル成功率は極めて高い水準を誇っている。
 慶應サイドが明治の選手を大きく崩すような動きをするシーンが少なかったこともあるが、明治の選手のタックルレンジの広さが感じられた。
 多くはなかったが、木戸主将を筆頭に数回のジャッカルに成功したり、ブレイクダウンへのプレッシャーも強烈なものが見られた。

 一方、後半のペナルティの多さに関しては反省材料だろう。
 前半は規律も守り、攻守ともに積極性の見られるラグビーをしていた。しかし、後半は若干集中力が切れたシーンもあり、ペナルティが目立った印象がある。
 防ぐことが難しくないペナルティも散見された。相手ペナルティからのスコアを得意とするチームとの対戦前には改善しておきたい部分だ。

【慶應義塾大学のラグビー】

 昨シーズンと比べると大きくスコアを離されての敗戦となった今回の試合。課題はどこにあったのだろう。
 メンバー構成も大きく変わり、戦術的にも変化が見られた慶應義塾大学(以下慶應)のラグビーについて、質的な側面、数的な側面から見ていきたい

◆質的に慶應義塾大学のラグビーを見る
 昨シーズンまでの慶應のラグビーを振り返る。12番を務めていた三木海芽をFWグループに入れつつ、FWを中心にした中央エリアでの激しいアタックと、10番に入っていた山田響(現S東京ベイ)のランやハイパントから、相手のミスを誘うようなアタック傾向が見られていた。
 状況判断の積み重ねというよりはシステマチックで、ハマれば非常に強いラグビーをしていたように感じている。

 しかし、昨シーズンBKの中核を担っていた選手が抜け、アタック傾向は大きく変わっているように感じる。
 特にキックを中心としたアタック傾向からは、かなりの変化が加えられた。あえて言及すれば、勝ち筋に関して少し迷いが見られるように感じた。

 一方でFWは昨シーズンから経験を積み重ねた選手が揃っており、主将の中山大暉をはじめ、バックローにも強く走力に優れた選手が揃っている。
 ラインアウトモールからの連続アタックや中盤でのFW戦など、最終的なスコアにつながらないシーンも多かったが、アタックイメージに対する自信が感じられた。

課題が多く見られた慶大だったが、アタックイメージはあった。

 アタックラインの形を見ると、階層構造をある程度イメージしたような動きを見せている。複数の階層を重ねるようなラインだ。
 ただ、全体的に前方向への勢いが弱く、外に回し切ることができていないシーンでは強烈なプレッシャーを受けていた。

 12番に入った山本大吾はアタックで前に出るキャリーを担っており、相手を弾き飛ばすようなコンタクトこそ見られなかったものの、捕まってからじわりと前に出るキャリーを見せていた。
 9シェイプと呼ばれるFWの小集団に参加していることもあり、激しいアタックシステムの最前線で戦い続けていたのが印象に残った。
 ただ明治は、少ないパス回数で生まれるキャリーに強烈なプレッシャーをかけるシステムを見せていた。9シェイプを土台としたアタックは相性が悪そうにも見えた。

 ディフェンス面では相手のキックに対する処理や、コンタクトシーンで苦労しているように見えた。
 明治はSO役として効果的なキックを蹴ることができる選手が多かった。それに対し後半はほぼ4人で後ろのエリアをカバーすることで対応していたが、前半は裏のエリアをかなり攻略されていたように感じた。
 コンタクトでは相手の勢いを抑え込めるシーンが少なかった。繰り返し前に出られることで、結果的にディフェンスラインの整備が遅れるようになった。

◆数値で慶應義塾大学のラグビーを見る
 残念な結果ではあるが、慶応が明治に対して数値的に上回ることができた部分は多くはない。
 目立つ部分で言うとタックル成功率の伸び悩みが挙げられ、相手に弾かれるシーンが多かった。
 立ち位置としてはタックルに入ることがそう難しくはない位置取りができていたとは思う。相手の動きにうまく対応できなかった側面が大きいように見えた。

 セットピースに関しても成功率には若干の不安が残る。数値的には健闘と言える水準だがチャンスでのラインアウトにエラーが続いた。結果、効率的なスコアにはつながらなかった。
 一方で大学トップ水準のセットピースの強さを誇る明治に圧倒された様子はない。今後の試合においては、かなり落ち着いた試合展開に持ち込めるのではないだろうか。

 アタック傾向を見ると、キャリーに対するパス回数がかなり少ないことが目立っている。
 1回のキャリーに対して1回のパスといった比率になっている。ボールをあまり動かしていないことを示す数値だ。
 9シェイプを好んで用いていることやピック&ゴーを用いるシーンもあったことが要因として考えられるが、外側のエリアで勝負できなかったことが苦戦の一因ではないか。

【まとめ】
 例年の傾向とは異なり、かなり早い段階での対決となった両校の試合は、結果的には明治の大勝という形で終わった。
 ただ、慶應が圧倒されて終わったかというとそういうわけでもなく、低いタックルや勤勉なワークレートなど、慶應らしさが多く見られる試合展開だったように感じた。

 明治は少し間をあけて上位校との試合になる。慶應は強敵との連戦が続く。
 両校ともにまだ2試合目ということもあり、整備し切れていない部分もあったわうに感じた。
 ここからの進化・成長に注目していきたい。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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