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【超速ラグビーを考える⑥/日本×カナダ】ラックスピードとブレイクダウンの精度について。
攻守に効果的に動き続けたFL下川甲嗣。(©︎JRFU)

【超速ラグビーを考える⑥/日本×カナダ】ラックスピードとブレイクダウンの精度について。

宮尾正彦


 パシフィックネーションズの日本代表の初戦、カナダ戦が日本時間で8月26日(月)の早朝6時から行われた。
 試合前の会見では、カナダのフィジカルの強さを克服して、超速ラグビーで戦うと述べていたエディ・ジョーンズHCのテストマッチ第4戦。結果は55-28と大勝し、初勝利を挙げた。
 今回はこの試合を、①ラックスピード、②ブレイクダウンの精度、の2つの観点から振り返った。

1)ラックスピードの全体像。

 全体のラック数はともかく、平均スピードも、2秒未満ラック数も日本が圧倒した。
 しかし後半はほとんど互角であり、後半だけ見れば日本代表のラックは31、カナダはその約2倍の67。2秒ラックの数では日本が18、カナダが11だった。
 図でも一目瞭然、後半いかにカナダの攻撃が炸裂し、日本代表が前半に行えていたような超速攻撃を発揮し切れなかった。

 今回はこの前後半での違いを、ブレイクダウンの質に注目して日本代表のミスに終わった以下の9個のプレーを取り上げる。

2)ミスに終わった9つのブレイクダウンについて。

①【前半0分】
 相手の反則から藤原が素速く仕掛けるいつものスタイル、これに完璧に反応したディアンズがキャリー、下川がクリーンアウト。1秒でボールを出し、藤原はショートサイドへパス。十分に準備していたナイカブラ、ワクァ、マキシが一気に前に仕掛けた。
 ナイカブラからのボールを受けたマキシが相手タックラーを1人、2人と跳ね飛ばす豪快なキャリーで前進。そのあとに作ったラックが惜しい。現象としてはキャリアーのマキシが孤立し、相手にジャッカルの機会を与えてしまった。結果的に相手の反則に助けられたが、ランナーとしては超強烈な3人だけに、攻撃の精度を高めれば、さらにチャンスが広がっていた。

②【前半8分】
 相手SHのパントキックを捕球したナイカブラがタックルを受けながら少し前進してラック。日本代表はFW3名がサポート役に回るが、相手⑧に素速くジャッカルされ自陣での痛い反則。自陣22m内でのプレーを余儀なくされた。
 サポートの人数と位置では十分な状態だっただけに、キャリアーとのコミュニケーションが悔やまれる。

③【前半34分】
 自陣22m内のスクラムからマキシがボールを持ち出して大きく前進、一気に22m内から脱出するラック。ここでまたも相手⑧がジャッカル、ノットリリースの反則となる。キャリアーは十分過ぎるほど前進。ややプレッシャーを受けたスクラムに注力しなければいけなくなったFW陣のサポートだけでなく、キックか展開に備えたためか、後方に位置したBK陣との距離も遠かった。
 地域ごとでチームとして行うプレーは決まっているはずだ。全員の認識は合致していたか。

④【後半0分】
 日本代表のキックオフを再獲得した李がフィールド中央でキャリーしたラック。1人目のタックラーに倒されるも、すぐ近くにサポート選手がおり、他の選手も後半最初のプレーのため、休養十分の局面。(中継)画面手前にはライリー、コストリー、ツイタマがポジショニングしており、そちらへ大きくボールを動かしてもチャンスが広がる可能性が高かった。
 相手ボールを奪ったチャンス局面のボールの運び方や、フィールド中央にボールを運ぶ際は、キャリアには大きな前進が求められる。サポートには相手との競争に負けない反応が重要だ。

⑤【後半3分】
 相手キックオフを捕球したワクァが少し後退しながらタックルを受け、その後、ラック。日本代表はフロントローを中心に数的に十分なサポート体制だったが、相手の低さとアグレッシブさにラックをめくりあげられてボールを奪われた。
 自陣22m内で一気にピンチに陥り、結局は相手FWの執拗なサイド攻撃にトライを許す。この一連のプレーはFW陣としては悔しいだろう。

LOワーナー・ディアンズは、この試合でマン・オブ・ザ・マッチに選ばれる活躍を見せた。(©︎JRFU)

⑥【後半11分】
 中盤のカウンターアタックから連続攻撃でディアンズが激しく前進するが、複数の相手選手に囲まれてボールコントロールを失い、落球する。そのボールを相手⑩に得意のロングキックで大きく地域を挽回される。戻ったナイカブラからパスを受けた矢崎のキックがチャージされた。
 このチャージの局面でボールの周りには赤色のカナダ選手が目立った。日本代表選手は攻撃で体力を消耗したためだろうか、ポジショニングが遅くなっていた。チャージされた後の大ピンチはなんとか凌いだが、相手のカウンターアタックで再び自陣に釘付けとなった。

⑦【後半17分】
 相手陣ラインアウトからライリー、マプスアの前進で相手陣22mに攻め込むも、その後のワクァのキャリーは相手にダブルタックルを受けボールコントロールを失い、落球。ゴール前のチャンスを逃す。ワクァの隣にディアンズもサポートしていただけに惜しい局面。カナダFW陣のフィジカル面の強さは対戦前の情報通りといえる。

⑧【後半19分】
 相手陣でのラインアウトをスチールした日本代表の連続攻撃。ボールを大きく動かすが、包み込むような相手防御によって大きなゲインができない。フェーズを重ねるたびに相手防御が対応して整備されていく一方、次第にポジショニングが整わなくなる日本代表は相手防御が多く集まる密集サイドにボールを持ち込んだ。結果的にボールキャリアーが孤立、反則を犯した。
 中盤で思うように前進できない連続攻撃を繰り返す状況で、どうやってチャンスを生み出すか。疲労の溜まる苦しい時間帯での戦い方も含めて今後も注目したい。

⑨【後半34分】
 相手陣、日本代表ラインアウトからの攻撃。1次攻撃で大きくゲインした後、BK陣で細かいパスをつなぐ。ライリーのキャリーによるラックができた。
 大きくゲインしたが、サポート役がパスした立川しかおらず不安定なブレイクダウンとなり、相手にボールを奪われて大きなチャンスを逸した(このあと相手のボール処理にミスで再びスクラムを得るが)。
 試合終盤の疲労が溜まった局面だが、ラインアウトからの2次攻撃であり、リザーブを中心にFWのサポート人数を増やしたかった。最初のラックから大きくボールを動かしたこともありBKでのサポートが早く到達することを期待か。

 以上、気になったブレイクダウンプレーを紹介した。
 日本代表選手たちは誰もが優れたボールキャリアでありサポートの反応や精度については合宿での厳しい練習で十分に訓練されていることは重々承知している。その選手達でも上記のようなプレーになってしまうのがテストマッチなのだろう。

 ミスとなるようなプレーのほとんどが後半に生じており、失点も許してしまった。結果が強く求められるテストマッチのプレッシャーを受けながら、中長期を見据え独自のスタイルを標榜する日本代表選手、スタッフの日々の努力には頭が下がる。

 一方で、前半からエンジン全開、ボールも自分も100%動き回り、相手を混乱させることが80分間貫けるのか、とも考える。この大会では対戦相手のレベルは次第に高まっていくだろう。アメリカ戦では熊谷の暑さとも戦う必要がある。日本代表の勇気あるチャレンジをもう少し見守りたい。

【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
 1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。

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