8月18日に菅平でおこなわれた早稲田大学と帝京大学の試合は(おそらく)試合前の予想を裏切って早稲田の大勝(38-14)という結果に終わった。
両チーム共にU20代表やシニア代表に選手を送っていたこともあり、チーム作りも難しいものがあったと想像する。全体的な精度で早稲田が上回っていたように見えた。
今回は2回に分けてこの試合を質的・量的に分析していきたいと思う。
【早稲田大学のラグビーの様相】
◆早稲田大学のアタック
春季大会では大差(7-60)で敗れた早稲田にとって、今回の試合で大きく影響を与えたのがHOで主将の佐藤健次だろう。日本代表活動への参加で春の対戦時は出場していなかった。
佐藤はセットピースの安定を司る選手でありながら、フィールド上のどのエリアでも、自身のプレーを効果的なアタックに繋げることのできる稀有な選手だ。
前後半を通じて優れたボールキャリー能力を遺憾なく発揮した。少なくとも、必ず相手を1人外して前に出た。
控えの安恒直人、清水健伸も良い動きをするHOではあるが、佐藤はプラン的にもメンタル的にもチームに必要不可欠な存在であることが分かる。
アタックの要となるSHでは先発の細矢聖樹、控えから出場した宮尾昌典は、共にアタックのテンポを出すことができる選手だ。
全体的には少しレイジーにも感じる帝京のディフェンスのセットに対し、SHから積極的にボールを散らした。それよって、どのエリアに対してもアタックの脅威を与えた。特にラックに近いエリアに味方選手を走り込ませる動きは、かなり効果的に働いていたように思う。
ラックやモールからのボックスキックが劇的に効果を発揮したシーンは多くなかったが、両選手はキックも武器としている。今後の活用に期待したい。
また、早稲田は帝京に比べると表裏の「階層構造」をうまく活用しているように見えた。
特徴的なのが9シェイプと呼ばれる、「SHからのパスを最初に受けるFWの集団」から後ろに下げるパスのシーンだ。HOの佐藤をはじめ、FWの選手のパススキルが目立っていた。
9シェイプの裏に立っているSOの野中との連動性も良く、9シェイプで受け取った選手から野中にボールを下げる過程だけで相手を効率的にずらすことができているシーンが散見された。
セットピースが安定している時は高確率でスコアに繋げることができていたのも大きい。
特にマイボールのラインアウトを敵陣深い位置で獲得した時のスコア効率は、かなり高かった。安定したラインアウトモールからのスコアも重ねることができていた。
モールで取り切ることができなかったとしても、佐藤の突破を起点に、テンポと勢いのある連続アタックで相手のディフェンスを下げることができていた。シンプルなアタックラインでトライを取り切っていたのが印象に残った。
◆早稲田大学のディフェンス
特にグラウンド中央付近のFW戦で、高水準のディフェンスができていた。それが大きかったように思う。
帝京はシンプルなアタック構造からフィジカルで押し勝ってリズムを作るようなラグビーをしている。早稲田はその勝負所で負けることなく対等に戦うことができていた。
ダブルタックルの精度も高く、自陣ゴール前でピンチになっているようなシーンでも、的確に2人でタックルに入ることによって、相手のミスを誘っているようなシーンも多かった。
ブレイクダウンでプレッシャーをかけることができていたのも勝敗に影響している。
そもそも帝京側に、テンポにこだわるような様子はなかったが、早稲田がボール出しを遅らせるシーンは多く、それが帝京に勢いを出させないという点で効果的に働いていた。
一方で、後半になって押し込まれるシーンもあった。その時間帯はディフェンスに少し迷いが見えており、一つのタックルシーンにどれくらい人数をかけるか曖昧になっていたように感じた。
1対1のタックルシーンに限って言えば多くの場面で押し込まれており、「相手を絞ってダブルタックルか」、「1対1で的確に倒すか」といった部分は向上の余地があるかもしれない。
【帝京大学のラグビー様相】
◆帝京大学のアタック
帝京の今回の試合でのアタックは「良くも悪くも」普段通りだったように感じた。
複雑な構造を作るのではなく、シンプルな構造に個人のスキルを組み合わせ、大まかにいってしまえば、「パワープレー」で相手を突き崩していくような形だ。
しかし、今回の試合では要所でのミスが目立った。コンタクトシーンで早稲田の強烈なプレッシャーを受けたこともあり、全体的な精度を欠く展開が続いたように見える。
今回の試合の中での帝京のアタックは、基本的には単層構造であり、一回のフェイズの中で、複数箇所で階層構造が作られるようなシーンは少なかったように見えた。
このアタックのメリットとしては、人数をかけた分だけ横幅を生かすことができる点であり、最終的に外でオーバーラップ=2対1の構造を作る方向性にアタックを持っていきやすい。
帝京の場合はそれに個々の強さを組み合わせて中央エリアを突き崩し、相手を引き寄せようとしていた。
今回の試合の中で何が噛み合っていなかったか考えると、「表の選手と裏の選手の位置関係・スピードのずれ」にあるのではないか。
基本的に階層構造の裏側にはSOの本橋尭也が入っていたが、うまく本橋自身の良さを生かす動きができていたようには見えなかった。
具体的に言うと、表の選手からボールを受けるときに大きく減速している。伸びやかなランニングを生かしきれていなかったように感じた。
本橋はU20代表のスコッドでは12番に入ることが多かった。それも、ポジショニングのチューニングがズレた要因かもしれない。
「一人ひとりのフィジカル」の土俵で、早稲田に好勝負とされたことも、厳しい試合結果につながった要因と感じる。
主将の青木恵斗をはじめとして多くの選手が体の強さを生かしたキャリーを得意としているが、今回の試合では早稲田に1対1の場面でうまく仕留め切られた。
また、ダブルタックルで強いプレッシャーを受け、コンタクトシーンからリズムを作ることがほぼできていなかった。
◆帝京大学のディフェンス
帝京のディフェンスは、スコアから感じるほど脆くなかった。
失点の多くが、自陣深い位置での、相手セットピースを起点にしたものだった。被トライの中にはモールも含まれている。ディフェンスが大きく崩れた結果ではないと考えることができる。
22メートルライン間のエリアでの攻防に関しては大きく崩されたシチュエーションも少なかった。相手に大きなゲインを許していないことも好印象を受ける材料だ。
一方で気になるのが、(アタックによるものも含む)反則の多さだ。
特にハイタックルは3度ほどペナライズされた。昨年度新しく定義されたルール上、反則として取られてもおかしくないタックルが多かったのは事実だった。
以前から帝京のディフェンスには激しさがあったが、今回の試合に関しては、反則がゲームの展開に大きな影響を与えたように見えた。
ブレイクダウンに強くプレッシャーをかけていなかったことも、結果的に、早稲田に好きなリズムでアタックを組み立てられる要因になったように感じる。
帝京のディフェンスラインに尖った速さはあまり感じられず、ラックに近いエリアや、逆方向のアタックに対して人数が足りない局面もあった。全体的にスピードに翻弄されているようだった。
【Key Players】
今回の試合の中で筆者が注目した選手について、今回は2人の選手を挙げたい。
早稲田大学の両CTB、黒川和音と福島秀法だ。
黒川は茗溪学園出身でSOを務めていた経歴があり、小柄ではあるが手先の器用なプレースタイルが持ち味であると感じている。
近年は12番を定位置にし始め、後述する福島とCTBでコンビを組む機会が増えている。
SOを務めていたからか、手先の器用さに司令塔的な広い視野とゲーム理解を兼ね備えている。パンチのある13番よりも外側の選手をアタックラインにうまく組み込みながら、SOと共にゲームを動かしている印象を受ける。
やや小柄で、ディフェンス面が弱みに見えるが、積極的に体を張るプレースタイルで、中盤を手堅く抑えることができる選手だ。
福島は修猷館出身で、昨シーズンまではWTBに入ることが多かった。
恐らく13番への本格的なコンバートは今シーズンからであると認識している。筆者としては、近年稀に見る「ハマった」コンバートだと感じている。
もともと大外に位置しながらも、体の強さを生かした縦方向への突破や中盤でのブレイクで活躍するタイプの選手だったこともあり、ボールタッチとコンタクトが増える13番へのコンバートも自然なことだったように思う。
福島はストライドが長く、ピッチが遅め(歩幅が大きく回転がゆっくり)な選手だが、その分、脚の振りがダイナミックかつ素早くなっていることでスピードとパワフルさを担保している。
そのため脚の動く範囲が広く、タックラーが捕まえにくくなっているのではないか。
【まとめ】
個人的には菅平の結果はあくまでも菅平での結果として受け止めるべきものだと感じている。
ただ、春季大会で大きく崩れた早稲田がここまで帝京を突き崩すようにチームを組み立てたのは素晴らしい。
秋のシーズンまで約1か月となった今回の試合を受けて、早稲田がここからどこまで伸びるか、帝京がどのように立て直すかに注目していきたい。
【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。