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【超速ラグビーを考える⑤/日本×イタリア】防御のラックスピード、ダブルタックルとゲインライン、キック処理から見た勝敗の理由
14-42と完敗したイタリア戦。写真は後半9分から出場したNO8テビタ・タタフ。(撮影/松本かおり)

【超速ラグビーを考える⑤/日本×イタリア】防御のラックスピード、ダブルタックルとゲインライン、キック処理から見た勝敗の理由

宮尾正彦


 エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ3度目のテストマッチ、イタリア戦は7月21日に札幌でおこなわれた。

 今回は以下の3つのテーマから考える。
 これまで同様にラックスピードに着眼も、今回は防御の観点から超速ディフェンスを中心に取り上げる。次にボールキャリアとゲインラインに関する数値から、日本代表の攻撃を見た。最後にキックとその処理について、だ。

 まずは、ラックスピードの概要から。ラック数も2秒ラック数も圧倒した。日本代表の2秒ラックは前後半のバランスも良かった。日本代表は試合終盤でも「超速」攻撃を遂行できていた、といえる。
 次にラックスピードに関する数字などからイタリアのアタック、つまり日本代表のディフェンスに関して2つのプレーを少し細かく紹介する。

表1/ラックスピードの概要

【1】日本代表のディフェンス/「超速」ディフェンスの精度と修正

①前半7分、ラインアウトから⑮カプオッツォのトライ

 2秒ラックは1回だったが、4つのラックの平均は2.8秒。早くボールを動かし続けた。
 ラインアウトボールがやや乱れたこともあり、1次攻撃の⑧カンノーネを日本防御陣がダブルタックルで倒す。2次攻撃でも⑦リーチが前に出たタックルで仕留め、⑧マキシがボール出しを遅らせる。ここまではよかったと思う。

 しかし日本代表の防御陣形は、ラックからバックスタンド側の方に人数が偏っていた。テレビ画面手前、メインスタンド側に大きなスペースが生じていたところをイタリアは見逃さず、あるいは予め決めていたのか定かではないが、攻撃方向を変える。⑪トゥルッラに、タッチライン際を大きくゲインされた。

 タッチライン際に作られたラックは4.9秒と日本代表の防御陣形が整うことが可能な時間だったが、日本の前に出るスピードがばらついた。イタリアのパスが乱れていたので、フィールド中央に立つ日本代表選手たちがもっと前に出ていればプレッシャーをかけられたかもしれない。

 ②ニコテラを捕まえたあと2〜3mのゲインを許し、さらに素速いボール出し(2.1秒)で展開されたため防御選手がラック際から速く移動できなかった。
 イタリアの、巧みに防御を引きつけるパス回しで日本代表選手は翻弄され、結果的に、もっとも決定力ある選手である⑮カプオッツォにスペースを与えてしまった。

②前半20分、ラインアウトから日本代表がボール奪う

 次は、日本代表がよく守ったプレーだ。
 イタリアがラインアウトをクリーンにキャッチしたのち、いわゆる前ピールと呼ばれるタッチライン方向を攻撃するプレーで巧みスペースを突く。モール攻撃を警戒して防御人数が薄くなったところを狙う非常に上手いプレーで大きくゲイン。一気に22メートルライン内に入った。

 タッチライン際ラックからイタリアはFWの選手を中心に少しずつゲインするが、大きくボールを動かす攻防で、日本代表は先ほどとは異なって相手選手に引きつけられなかった。全員が一斉に前に出て、イタリアのパスオプションをなくした。

 選択肢がなくなった⑩ガルビージを⑦リーチがタックル。素速く立ち上がり、ボールにプレッシャー。こぼれ球に⑫トゥァが反応し、大きくゲイン。ピンチを凌いだ。

【2】日本代表の攻撃/ダブルタックルとゲイン

 表1ではボールキャリアがダブルタックルを受け、ゲインより後退して倒された数も示している。いまやダブルタックルは、多くのチームが目指している。この試合では、日本代表がイタリアより2倍近くダブルタックルを受けていた。
 ラック数が多く2秒ラックもイタリアより多かった日本代表の攻撃が2トライに終わった一つの原因ではないかと考える。

 シックスネーションズで揉まれ、多くの選手がフランスリーグに所属するイタリア選手は、高いコンタクト力、低く鋭いタックルで何度も日本代表選手を押し返していた。たとえ速くボールを出すことができたとしても、相手防御が待ち構えるところに走り込んでいたらなかなかゲインは望めない。

 8月に対戦するカナダ、アメリカもサイズは小さくないだろうから、ここは日本代表攻撃戦術の「次の一手」を期待したい。

試合後、日本の選手たちは「ダブルタックルを受け、超速ラグビーに持ち込めなかった」と話した。(撮影/松本かおり)

【3】キックと処理/直接捕球とバウンド

 最後は、キックとその処理だ。
 キックされたボールを直接捕球できたか、あるいは地面にバウンドした後に捕球したかに注目した(表2)。相手がバウンドして捕球したキック数でイタリアは日本を大きく上回った。
 キックチェイスが高度に組織化されたこのレベルでは、キックされたボールをバウンドさせるとチェイスした選手に大きな前進を許してしまうことがある。
具体的に2つ紹介する。

①前半6分

 イタリア陣、日本のラインアウトからの連続攻撃から⑩松田がキックしたボールを、相手が少しファンブル仕掛けるも、すぐ大きく蹴り返したプレー。素速く危険を察知し、後方へ戻った⑨小山の反応は素晴らしかった。
 しかし、相手のキックがそれ以上に大きく伸びた。

 キックが5回バウンドする間に、チェイスする⑦ラマロはおよそ30メートル前に出た。結果、ボールを処理する小山にプレッシャーを掛けることができた。

 イタリア陣、ハーフウェイラインと10メートルラインの日本代表ボールで始まったプレーだったが、日本代表陣の10メートルライン〜22メートルライン間のイタリアボールのラインアウトとなってブレーが終わる。大きく戦局が変わった。

②後半29分

 中盤、やや日本代表陣でイタリアが連続攻撃。前半のトライにつながったプレーと同じようにイタリアが大きく攻撃方向を変え、㉒マリンが左足で精度の高い、鋭いボールを蹴り込んだ。

 ㉓山沢がオープン側に動き出していたこともあるが、なによりキックの精度が素晴らしかったため直接捕球できず、ボールがコーナーへ転がる。3回のバウンドで約3秒程度チェイスする時間を得たイタリア選手は、山沢がボールを捕球する際には約12メートル、山沢のキック時には約3メートルの「至近距離」まで詰めることができた。

 大きなプレッシャーを受けて蹴ったキックは、最も恐い選手、⑮カプオッツォに楽々と捕球され、絶好のカウンター攻撃チャンスとなった。日本代表は引き続き苦しい状況となった。

イタリアは効果的なキックで戦況を有利にした。(撮影/松本かおり)

 以上、今回は3つの視点から試合を振り返った。

 イタリアの攻撃は日本ほど「超速」ではなかったが、日本代表は防御の連携の乱れなどでイタリアに得点を与えたが、試合の中で修正が見られた。

 日本の攻撃はラックスピードの点では相手よりはるかに速かったが、ボールキャリアがダブルタックルを多く受けることで、前進が阻まれた。
これから多くの攻撃戦術が準備されることだろう。

 そしてキックとその処理。ボールが地面にバウンドして捕球するまでに時間を要したことで、相手のプレッシャーを強く受けることになった。試合の中で、少なからず戦局に影響を及ぼす一因となっていた。

 8月からのパシフィックネーションズも楽しみにしたい。

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