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【超速ラグビーを考える④/日本×ジョージア】ラックスピードと攻防から。
タフな戦いの中、LOの位置でハードにプレーしたリーチ マイケル主将。(撮影/松本かおり)

【超速ラグビーを考える④/日本×ジョージア】ラックスピードと攻防から。

宮尾正彦


 エディー・ジョーンズ ヘッドコーチ(以下、HC)の2度目のテストマッチは、7月13日に仙台で行われた。2006年から始まった両国の対戦は今回が7回目、これまでの対戦成績は5勝1敗だった。

 また、今回のジョージア代表はイングランド代表時代のエディーHCのFWコーチを務めたリチャード・コクリルがHCを務めている、気心の知れた者同士の「因縁」の対決だった。

 今回は再びラックスピードに注目した。
 暑さに加えて早々に退場者が出たこともあり、速いラックはチーム戦術のターゲットにならなかったかもしれないが、今回は日本代表の攻撃だけでなく、ジョージアの攻撃、つまり日本代表にとって防御の局面、いわゆる相手の「超速」に対するディフェンスも見ていこうと思う。

 まずは概要から。
 ラック数そのものでは日本が圧倒している。平均速度が両チームとも遅いのは、ラック内のコンテストが激しいためか、結果的に10秒を超えるラックが双方にいくつかあったのが理由と思われる。
 日本代表の2秒ラックの割合は20%と、イングランド戦(33%)を下回った。前後半の差はレッドカード後、意図的にラックスピードをコントロールしたのかもしれない。

 それでは、まずは日本代表の攻撃から、注目してほしい4つのプレー局面を見ていく。

①開始直後 敵陣ラインアウト
 素速いラインアウトインターバルからの攻撃(ボール投入までわずか10秒)。3次攻撃で方向を変え、さらにSHのループを交え、一気に相手陣22mに入る。攻撃方向を絞らせず相手防御を翻弄したまま12フェイズを完遂して⑭ナイカブラのトライ。
 11のラック中2秒ラックは3回と多くはないが、どのプレー、どのラックでもすべての日本代表選手たちの働き具合はお手本だった。

 特に9フェイズ目で⑧マキシからの小さなパスで⑦下川が小さなスペースを食い込み倒れたあと、まるで齋藤へのパスのような丁寧なボールプレースの妙技は是非とも晩酌のお供に加えたい。
 パスした⑧マキシのサポートも素晴らしく2秒ラックでボールを出した。

②前半14分 タップキック
 スクラムのFKで⑨齋藤が迷わず速攻。ボールキャリアが少しずつゲイン、相手陣22mラインかつタッチから15mラインのラックで前のフェイズでキャリーした⑤ディアンズが再びキャリーした。相手防御が堅いところを、姿勢を低くして前進。そしてタックルを受けたあと、ボールをSHが裁きやすいように置いて2秒ラック(1.5秒)でチャンスを広げた。

 相手防御はラック際に偏っており、⑩山沢の外でボールを運ぶ日本代表の攻撃隊形が優位。そのラックで相手が反則した。大外に⑬ライリー、⑪長田も待ち構えており、彼らにボールが渡ったらさらにチャンスも広がっただろう。
 私のビールもすすんだ場面だった。

③後半17分 タップキック
 自陣スクラムからFK、ここもすかさず仕掛けた。1次ラックの大外に走り込むランナーは、なんと、最前列でスクラムを組んだばかりの③竹内。彼のハードワークに全国のプロップが祝杯だ。

 タッチライン際にラックを作り、日本代表の攻撃隊形が整備される。⑲ウクァのラックも1秒以内と非常に速く、⑮矢崎の大幅ゲインにつながった。⑩李が順目タッチ方向に走り込んだ判断も結果的に奏功したが、彼よりさらに順目に走り込んでいた②原田のハードワークが相手防御を引きつけた。十分過ぎるほどの貢献だった。

 ⑨齋藤の絶妙なキックと、素晴らしい反応を見せた⑫トゥァの捕球で一気にゴール前に前進した。相手選手がシンビンとなった。

④後半21分 ラインアウト
 相手ゴール前でのラインアウトモールから、FW陣が献身的に動き続け、攻撃を続けた。ゴールポスト付近まで相手防御を中央に集めたあとにワイド展開。⑮矢崎は突破力の高さだけでなく、ボールコントロールもよかった。

 最後の攻撃は大外に十分人数が余っているようにも見えたが相手反則を誘発、相手にプレッシャーをかけることができた。

 以上が日本代表の攻撃時で特に取りあげたい、オススメのプレーである。

低い姿勢で鋭く前へ出るFL下川甲嗣。(撮影/松本かおり)

 次に、ジョージアの攻撃、日本代表の防御について、2つのプレーをご紹介したい。

①前半25分 日本代表陣でのジョージアボールのラインアウト
 すでに日本代表が1人少なくなった局面。モールでの前進は許さなかったが、その後のラックで2つの2秒ラックを作られた。フィールド中央からの攻撃、相手⑮が大外でなく内側に切れ込んできた。大きなゲインは許さなかったものの、日本代表選手の人数を費やしてしまい、密集付近に人数が寄り始めた。

 なんとか攻撃を防ぎ、スタンドから自然な拍手が湧いたあとの5次攻撃。長短パスを織り交ぜ、ワーナーとライリーの間を、相手⑫に切り裂かれた。

 ジョージアはその後も、ラック際の小さな前進を積み重ねる。人数が少ない日本代表選手はグラウンドの一方の端に集められた。トライの局面ではグラウンドの手前側にはわずか2人しか残っていなかった。

②後半27分 日本代表陣でのジョージアボールのラインアウト
 14人同士でスタートしたこの攻防。ここから合計5分間、4回攻撃される。日本代表選手はタックルしてすぐ起き上がり続け、ジョージアの猛攻を食い止めた。

 しかし4回連続で反則を犯し、結果的にワクァのシンビンにつながった。日本代表の防御網自体が大きく破られることがなかっただけにもったいなかった。

 全12回のラックでジョージアの2秒ラックは4回。決して多くはなかったが、徐々にプレッシャーをかけられていたかもしれない。人数が14人同士、15人対14人、と変わっていく中で防御戦術の的を絞り切れていたか。

 特に後半29分のジョージアのモールを③竹内らのプレーでターンオーバーしたあとのキックと。その処理。日本代表はジョージアのカウンター攻撃で再び自陣での苦しい防御を強いられた。

 以上、今回は日本代表の攻撃だけでなく防御の観点からもラックスピードとプレー状況を見ていった。ジョージアは少ないながらも、素速いラックでボールを動かし、日本代表の防御隊形の乱れや反則を誘発して勝利に近づけた。
 エディーHCの日本代表の攻撃面ではここまでの3試合でその超速ぶりが脅威的であることは十分に示されているだろう。次のイタリアはボールを大きく、テンポ良く動かす強みを持っている。
(涼しいと願いたい)札幌ドームでは日本代表の防御面の「超速」に、さらに注目してみたい。

激戦を制して喜ぶジョージア代表の選手たち。(撮影/松本かおり)

【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。






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