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【U20日本代表×U20スコットランド代表】勝者と敗者の差。フェイズアタックとキックの効果からひもとく。
負けられない一戦は、10-46とU20スコットランドの勝利。SO伊藤龍之介がプレッシャーを受ける。©︎JRFU

【U20日本代表×U20スコットランド代表】勝者と敗者の差。フェイズアタックとキックの効果からひもとく。

今本貴士

 日本時間7月13日早朝、U20日本代表はターゲットにしていたU20スコットランド代表戦に10-46と敗れた。
 その時点でU20チャンピオンシップへの昇格はなくなり、次戦はウルグアイとの3位決定戦となった。

 ホンコン・チャイナ戦(105-20)、サモア戦(81-7)と大量得点を奪い、素早く手堅いディフェンスで相手を上回ってきたU20日本代表。しかし今回の試合では思うようなラグビーができず、シニア代表との一貫性も感じられるスコットランド側のラグビーに上回られる結果となった。

 残念な結果となった試合から今回は、「フェイズアタックの様相」と「キックの効果」に着目して見ていきたい。
 今回の分析に用いている数値は独自の解釈を含むものであるため、公式のスタッツとのブレが出ることをご容赦願いたい。

◆フェイズアタックの様相を振り返る

【Aゾーン】敵陣ゴールライン〜敵陣22mライン間、【Bゾーン】敵陣22mライン〜ハーフライン間、【Cゾーン】ハーフライン〜自陣22mライン間、【Dゾーン】自陣22mライン〜自陣ゴールライン間

 U20日本代表はエディー・ジョーンズ日本代表HCの掲げる「超速ラグビー」というコンセプトに準じたラグビーを、大会を通じて披露してきたように思う。
 今回はデータを取っていないが、一般的にコーチング場面で「LQB』と呼ばれる、規定の秒数以内にラックからボールが出た回数に関しては、かなり多い割合を示しているのではないだろうか。

 一方で、U20スコットランド代表側もSHのConor McAlpinやSOのAndrew McLeanが意図的にテンポを早めているような様相もあった。世界的なトレンドとして、単純なラックからのパスアウトのリズムが早まっている可能性も考えられる。

 すべてのアタックフェイズをカウントすると、日本代表がアタックに使ったフェイズは83フェイズ。全体で138回のパスが生まれている。
 単純計算では一つのフェイズで約1.7回のパスが実行されている計算となり、一般的な日本の大学レベルの試合に比べると、若干多くのパスが生まれている(大学レベルでは約1.5パス/フェイズになることが多い)。

 一般的にラックが生まれた位置よりも前でフェイズを完結することができれば「ゲインラインを超えた」と言われることが多い、U20日本代表側の達成率は33.7%程度の水準だった。
 6月22日の日本代表とイングランド代表の試合では、日本代表のゲイン獲得率は24.6%程度だった。両試合の数値を比べると、比較的ゲインラインを超えることができていたシーンも多かったのではないだろうか。

 U20日本代表が獲得したポゼッション(ボールの保持)自体は37回ある。そのうちの34回は4フェイズ以内でポゼッションが完結している。
 ジョーンズ日本代表HCは超速ラグビーを語る文脈で早いフェイズでのトライが望ましいと言及したこともある。今回U20日本代表が獲得したトライはどちらも2フェイズ以内で生まれたものだった。トライシーンに関しては、イメージに沿ったスコアができたと言える。

 一方で、37回のポゼッションのうち18回はボールロストや反則といった「意図的ではないネガティブな結果によるポゼッションの移行」といった様相も見られた。
 自分たちの思うようなアタックの展開に持ち込むことができていなかったのではないだろうか。

ボールロストや反則で攻撃が終わることも少なくなかった。©︎JRFU

◆両チームのキックの効果を考える

 U20スコットランド代表は戦前からキックを効果的に使うチームと予想されていた。
 一方U20日本代表は、過去2試合を含め、積極的にキックを狙うようなチームではなかったように感じている。

 伊藤龍之介や本橋尭也のように優れたSO役や竹之下仁吾のようにキック周りに強いバックスリーはいるが、大会の前2戦は「キックを使わなくても試合を動かすことができる」といったこともあり、個人的には懸念していた点だった。

 そこで今回は「キックの効果」について、個人的にある程度定義を定めてキックシーンを振り返りたい。

 一つのキックに対して再獲得したかどうかだけではなく、「そのキック後の結末で利益を得ることができたかどうか」について、自分なりに考えた定義が図のようなものである。
 ディフェンスを積み重ねた結果利益を得たものを「Defensive Won/Lost 」に分け、相手のキックの結果によって利益を得たものを「Kick Game Won/Lost 」というように分け、判断が難しいものを「Neutral」としている。

【Aゾーン】敵陣ゴールライン〜敵陣22mライン間、【Bゾーン】敵陣22mライン〜ハーフライン間、【Cゾーン】ハーフライン〜自陣22mライン間、【Dゾーン】自陣22mライン〜自陣ゴールライン間

 こちらの図は、キックの効果分析の中から「キックを蹴ったエリア」と「キック効果」を抜き出したものだ。ご覧の通り、ミスキックも含めるとU20スコットランド代表は19回のキック、U20日本代表は10回のキックを蹴っている。
 回数が絶対というわけではない。しかし、結果的にはU20スコットランド代表の方がキックを多く蹴っているという数値的事実にまず注目したい。

「Kick Zone」、つまりグラウンドを縦方向に4つのエリアに分けた場合、U20スコットランド代表もU20日本代表も、Cゾーンというエリアで多くキックを蹴っていることが分かる。
 このエリアは自陣22mラインからハーフラインまでの間の区間だ。攻守の中で、最も多く時間を費やすことになるエリアでもある。

 しかし、そのCゾーンでのキックの様相は両チームで異なった。U20日本代表が長いキックを用いてエリア獲得を狙うことが多かったことに対し、U20スコットランド代表は、Cゾーンで生まれた14回のキックのうち11回がSHからのキック、いわゆる「ボックスキック」によるものとなっている。
 後述するが、U20スコットランド代表はキックから得る利益が高い水準だった。Cゾーンといった自陣寄りのエリアからでもボックスキックを上げ、再獲得を図るコンセプトがあったことは想像に難くない。

 定義を作った「各キックにおける効果」に関しても考えていきたい。
 U20日本代表は10回、U20スコットランド代表は19回のキックを蹴った。両チームのキックによるアウトカムのうち、何らかの形で利益を得ている(〇〇 Won)のはU20日本代表が5回、U20スコットランド代表が9回となっている。

 数値だけをみるとU20日本代表の方が50%で効果的だったと捉えることもできるが、利益を得た回数では、U20スコットランドが多いという捉え方もある。効果的にキックを用いていたという点ではスコットランド側に軍配が上がるように思える。
 U20スコットランド代表はCゾーンからのキック14回のうち7回が効果的なキックだった。グラウンド全体を通し、ボールをうまく動かしていたことについても記しておきたい。

まとめ
 今回は量的な評価が難しいために割愛したが、今回の試合は選手の反省にも出ているように「自分たちのミスで勢いを作れなかったこと」も大きな割合を占めているように思う。
ゲインラインでの勝負もそう悪くなくかった。エリア的にもかなり攻め込むことができている一方でスコアには繋げることができておらず、良いパフォーマンスとは言えなかった。

 今回U20に選ばれた世代は昨シーズンのゲームタイムが多くはない選手もいた。直前の強化試合からスコットランド戦にかけて、大量得点で勝ちを収める試合が多かったこともあり、今回のような試合展開には慣れていないのでないかと、個人的に不安も感じていた。
 ただ、大会はあと1試合残っている。ここから、チームがどのように立ち上がってくるかに注目していきたい。

【プロフィール】
今本貴士 / いまもと・たかし
1994年11月28日生。九段中等教育学校→筑波大学。大学・大学院での学生トレーナー経験を経てNECグリーンロケッツでアナリストとしてのキャリアをスタートする。NECグリーンロケッツ東葛で2年間活動し、退団後はフリーアナリストとして個人・団体からの依頼で分析業務に携わる。また、「UNIVERSIS」という大学ラグビー分析専門の連載をnoteにて執筆している。

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