logo
【超速ラグビーを考える②】マオリ・オールブラックス戦も、ラックスピードに注目してみた。宮尾正彦[東芝ブレイブルーパス東京 ハイパフォーマンスアナリスト]
先発し、よく動いたSH小山大輝。(撮影/松本かおり)

【超速ラグビーを考える②】マオリ・オールブラックス戦も、ラックスピードに注目してみた。宮尾正彦[東芝ブレイブルーパス東京 ハイパフォーマンスアナリスト]

宮尾正彦


 6月29日(土)、大学生4名を含むJAPAN XVがマオリ・オールブラックス(以下マオリ)に挑んだ。マオリの来日は、10年前の2014年以来という。
 Just Rugby「Analysis」ではこの試合も再び、アナリストの着眼点で話題を提供したい。試合をもう一度ビデオで振り返りたい方や、次の試合を応援に行く方々の雑談ネタとしてお役に立てれば幸いである。公式データを使用していないため、一部データ結果と異なる可能性があることを予めご了承いただきたい。

 今回も前回に引き続き、超速ラグビーの一つの表象(と勝手に考える「ラックスピード」)、特に2秒未満のラック(以下、「2秒ラック」)とそのときの実際のプレーを取りあげたい。
 まずは基本情報(表)から。全体のラック数ではほぼ同じ。平均にしてJAPAN XV(2.7)はマオリ(3.6)より1秒ほど短かった。ここはイングランド戦とあまり変わりがない。しかし2秒ラックではJAPAN XVが23回(37%)、マオリが14(22%)と「圧倒」した。JAPAN XVは前半10回、後半で13回と、80分間にわたり超速ボール展開を発揮できたといえる。



 次に、試合の時間ごとのラックスピードと、取りあげたいプレーの時間帯を示す図である。今回は以下の4つのプレー局面を取りあげてみたい。

1)前半18分、敵陣22m付近のラインアウトから
 相手シンビンで数的有利状況での相手陣ラインアウト。絶好の攻撃機会である。8フェイズ50秒、7回のラックのうち2秒ラックは3回作ることができたが結果的にノットリリースに終わった。

 まずラインアウトボールが乱れた(クリーンキャッチできず)。ここが大きい。
 それでも細かく速くボールを展開し、5フェイズ目にショートサイドを狙う。⑬長田のゲインで相手陣22mに入ることに成功した。その後、②原田、⑥下川のボールキャリーで相手にプレッシャーをかけた。

 しかし結果的に相手防御網は乱れなかった。その要因は、次のように考えられる。

 マオリ側の防御が、①3人以上ラックに入らないように努め、他の選手は次の防御隊形に立った。素速いラックに防御人数を巻き込まれないようにしている。②前に出ることより横の味方とのつながりやスペースを保ち、JAPAN XVの組織的攻撃に備えることを重視しているように見えた。

 JAPAN XVは2秒ラックを作れたし、22m内にも入ることができた。しかし、突破口を見いだすことができなかった。

2)前半30分、⑭ツイドラキのカウンターアタック
 最終的にはラックからこぼれたボールを相手に奪われた悔しいシーン。しかし一つのプレーが終わっても休まない、日本代表選手たちのハードワークに注目してほしい。

 まず⑨小山の相手キックへのプレッシャー。小山はインゴールまで走った後に約50m以上ダッシュ、⑭ツイドラキが作ったラック地点の見極めも秀逸だ。正確なボール出しで攻撃のリズムを作った。
 そしてキャプテンを務めた②原田は、3次攻撃で自身がボールキャリーでタックルを受けたものの素速く立ち上がる。5次攻撃の起点となる素晴らしいパススキルを発揮した。

 この攻撃で原田からボールを受けた⑬長田に対して内側からサポートしていた⑪根塚か、タッチライン際の⑫トゥアにボールが渡っていたら、マオリ側は後方に⑮が残るだけだったのでさらに大きくチャンスを広げていただろう。

3)後半5分、⑮矢崎のカウンターアタック
 3回のラックすべてが2秒未満。攻撃の組織性よりも動き出しの速さで圧力を掛け、相手反則を誘発した。⑨小山が素速く仕掛けようとするが相手の巧みな妨害によって阻まれたところが惜しかった(相手反則で10m前進を得られるが)。その後のラインアウトモールが上手くいかず、ターンオーバーされた。

 前週のイングランド戦で日本代表が試みたクイックタップは7回(イングランドは2回)。マオリ側もJAPAN XVのクイックタップを警戒していただろう。クイックタップを妨害した相手⑨は、シンビンになってもおかしくないネガティブなプレーだったが。

仕事量の多かったFL山本凱。(撮影/松本かおり)

4)後半13分、自陣からのクイックタップ
 中盤のマオリの攻撃を⑦山本が渾身のジャッカルでノットリリースの反則を誘う。山本はその前のフェーズでモールから持ち出した相手⑯の前進を完全に跳ね返すタックル。連続の大仕事だった。

 ⑫トゥアが小刻みにレッグドライブを見せ、約10m前進して勢いを生む。⑬長田のサポートの速さや姿勢の低さも効果的だった。順目に⑮矢崎が走り込み、細かいステップで前進した。⑭ツイドラキと⑥下川の「寄り」の速さも素晴らしく2秒ラックを実現した。

 次にラックサイドから少し離れた15mライン付近に桑野が走り込み、再び2秒ラック。さらに㉑斉藤と⑪根塚でラックサイドを狙い前進した。⑩山沢もラックサイドのスペースを抜けかけるが、タックルから立ち上がったマオリの⑩によってブレイクを阻まれた。

 このラックで2秒未満は達成できなかったが、実際に相手防御隊形はほぼ破綻している。順目側を見た場合、人数こそ6人同士だがマオリの選手4人がラックサイドに固まって立っているため、外側は4対2とJAPAN XVの数的有利状況が生じていた。
 マオリ側は完全にやられたと思っただろう(たぶん)。もし㉑斉藤のパスが⑮矢崎に通っていたら、そのままトライもあり得た大チャンスだった。

 上記4つのプレーはいずれもJAPAN XV選手たちの周到な準備と素晴らしいハードワークによって作り出された。ボールを持つ人だけに注目しがちだが、それを支える地味だが重要な献身的なプレーはビールがすすむ絶好のつまみである。これら4つがもしトライに結実していたらトライ数で並ぶことになることも付け加えておきたい。

 トヨタスタジアムでの第2戦に注目だ。ちなみに10年前の対戦では第1戦で40点差の大敗(21−61)だったものの、第2戦ではわずか2点差(18−20)に追い詰めている。

【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。

ALL ARTICLES
記事一覧はこちら