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【タックル上達のヒント】転機あり。スキルがあれば、ターゲットへ、より激しく、確かに。武者大輔[日本製鉄釜石シーウェイブス]
ガムシャラの時期を経て、現在は理屈のあるタックル。しかし、変わらずハード。(撮影/松本かおり)

【タックル上達のヒント】転機あり。スキルがあれば、ターゲットへ、より激しく、確かに。武者大輔[日本製鉄釜石シーウェイブス]

田村一博


 その姓からして、仕事人の像が浮かぶ。
 武者大輔はタックルが強い。一撃必中。狙ったターゲットを逃さず、倒し切る。

 仙台育英高校出身。法政大学を経てリコーブラックラムズでプレーした仕事人は、三菱重工相模原ダイナボアーズに所属した後、現在は日本製鉄釜石シーウェイブスで活躍している。

 2023-24シーズンは入替戦を含む13試合に出場した。
 チームは思うような成績を残せなかったけれど、武者は強みのタックルを、シーズンを通して決め続けた。

 シーズン後のトップリーグアワードでは『ゴールデンショルダー』を受賞する。
 対戦した相手の投票により選出されたことについて、「自分のいちばんの持ち味を評価されて嬉しい」と話した。

 狂ったようにタックルする。
 自分のプレーについて、そう表現されたことがある。
「いちばんの褒め言葉」と相好を崩して、「ただ、いまは昔ほど何も考えずにやっているわけではありません」と続けた。

「自分の立ち位置。相手の立ち位置。パスの距離。それらを考え、この状況ならこういうタックル、と考えています。すべてのタックルで相手をドミネートしようと思ってはいません。(そのようなタックルに)いけるシチュエーションにいく。状況判断をして、自分の引き出しの中から、どれが最善のタックルか選んでいます」

 いける。
 そう思うのは、相手が長いパスを放った瞬間が多い。
 パスの速さと長さ。そのボールを受ける相手と、自分との距離。そこに計算式はないが、相手の能力も含めて、仕留められるときの感覚をつかむことが大事だ。

「なので、人に『こうやってください』とは説明できませんが、一人ひとりが自分の中で(独自のタックル感覚を)確立していけると思います」

 その感覚が高まれば、ここ、という時に状況を読み切った判断で飛び出し、ドンピシャで倒せるようになる。

 チームの動き、約束事を、頭に入れておくことは最優先事項。
「自分の両サイドの人とコネクションを取り、ワンラインで前へ出る。そうすれば、例えば自分がチョップタックル(足首へのタックル)で相手を倒せば、インサイドの選手がボールを殺し、奪いにいける。それ(その約束事)を崩すべきではないと思いますが、ここは絶対にいける、と確信できたときは出ます」

 武者も組織の中で動いている。ただ、その途中、途中で判断する。
 基本的にラックのいちばん近くに立つ人から数え、3 人目 、4 人目の位置に立つ。ただ、対戦相手によっても変わる。9番シェイプでランナーを当ててくるのか、10番シェイプなのか。対応力が求められる。

 相手の傾向を頭に入れ、先を読むこともある。
 自分の立ち位置は組織の中の一人として決まっているが、相手の分析と自分の経験から、コーチに微調整を申し出ることも。
 チームと自分が、より結果にコミットするためだ。

 タックルへのこだわりは、人一倍ある。
 しかし、その方向性はあるとき変わった。5年前。ブラックラムズからダイナボアーズに移籍した直後の2019年7月6日だった。

 トップリーグカップのクボタスピアーズ(現クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)戦で股関節脱臼骨折の大怪我を負った。
 逆ヘッドでのタックルが原因だった。

「それまでは、自分の勢いの方がまさっていれば、逆ヘッドでも必ず倒せるし、怪我もしないと思っていました」と回想する。

 実際、脳震盪の経験もほとんどなかった。社会人1年目の網走での夏合宿。他チームとの合同練習時にそうなった記憶があるだけだ。

 しかし、股関節を脱臼骨折したとき、ドクターに歩けなくなる可能性を伝えられた。以前と同じようには動けなくなるかも、と。
 それを聞き、「いろいろ考えました」という。

「外国人選手たちは、『ラグビーあっての人生じゃなくて、人生の中の一つにラグビーがある』と、よく言います。若い頃、成功しているからそう言えるんだよね、と思っていました。でも、大怪我をして考えが変わった。まず人生がある。家族やいろんな人の支えがあってこそラグビーをやれている、と」 

 勢いよく、がむしゃらに相手の膝下に飛び込めばいい。
 そんな考えから、技術が大切となった。数打ちゃ当たるではなく、強さはそのまま、精度を高められるスキルを追求するようになった。

「自分の体がどうなろうとも相手を止める。抜かれることで、チームに迷惑をかけたくない。そんな思いや責任感は、心の底にあっていいし、それが、タックルがうまくいく第一歩とは思います」

 それを理解した上でいま思うのは、「自分も相手も、お互いに怪我をしない状況でラグビーをやることが大事」ということだ。

「そのためには、正しいタックルスキルを身につけ、それを徹底することが大事」と思う。

 右肩でしかタックルできない、という人がいる。果たしてそれは、両肩でできるようになるトレーニングを積んだ末のことなのか。
 タックルの強度を保つため。あるいは競争に勝つため。そういう理由で「右肩しかできない」と言ってはいないか。

「相手があることなので、試合中、つい逆ヘッドで入ることもあるかもしれません。そのときは、もうしない、と反省しないといけない。よく練習して、自分の持っているスキルの中でいいタックルをすることが大事です」

 シーズンオフには、母校・法大やラグビースクールで指導にあたっている。
 若い世代に、正しいタックルのテクニックとスキルを伝えるようにしている。

1990年5月18日生まれ。177センチ、96キロ。亘理がぎゅうラグビースクール少年団に小5の時に入る。仙台育英高校、法政大学、リコーブラックラムズ、三菱重工相模原ダイナボアーズとプレーを続け、2022-23シーズンから日本製鉄釜石シーウェイブス。(撮影/松本かおり)

◆タックルへの目覚め。

「(仙台育英)高校時代の監督、丹野(博太)先生に、『お前の強みはタックル。そこでは絶対に負けるな』と言われました。『アタックが得意な選手はいくらでもいるけど、ディフェンスが強い選手はチームでも尊敬される。味方からもリスペクトされる。(将来)どこのチームに行っても変わらずプレーできる選手になりなさい』と。なので、タックル、ディフェンスにはすごく時間をかけて練習しました」

◆その頃、どんな練習を。

「5メートル幅のスペースでチームメートと向き合い、生タックルの練習を1時間ほどしていました。(1学年上の)鈴木亮大郎さんやナータ・リチャードさんとやることが多かったですね。ボールキャリアーは、抜いても、当たってもいい。それを止める。ナータは110キロほどあり、僕は80キロそこそこでした。毎日やっていたので、タックルへの恐怖感というのはなくなっていきました」

◆ラグビースクールでは、どう教えていますか。

「まずは膝立ちタックルからですね。相手の腰を見るように、と言います。顔をそむける子どもたちも多い。結果、目をつぶる、あるいは頭が下がる。相手を最後まで見ていないと正しくタックルに入れない、逆ヘッドになったり、怪我につながることになります」

「恐怖心をなくすために、まず、歩いている相手を倒す。肩を当てる。首を使う。バインドする。自分がどんな力のかけ方をしたら相手のバランスが崩れて倒しやすくなるのか分かってくる。少しずつスピードを上げていきます」

◆立ち位置で変わる。

「相手のランニングの能力や、ボールのもらい方によって変わることですが、相手に対してどこに立つか。それによって、どちらの肩でタックルするかある程度絞れます。例えば、相手のアウトサイドショルダーに立てば、自分はインサイドの肩で入るケースが多くなる。相手のインサイドショルダーに立てば逆ですね。おおよそのことを想定しておいて、相手が予想外の動きをしたときには対処する。顔を上げ、腰を最後まで見ておけば反応できると思います」

◆下半身の力を相手に伝える

「パワーフットは、広く知られていると思います。例えば、右肩で相手にヒットするなら、右足(パワーフット)を相手の近くに踏み込む。ただ、それだけでは下半身の力は伝えられません。大事なのは、もう一方の足(リードフット)。これで地面を蹴って前に足を出す。これができるようになると、レッグドライブ(足を動かして前へ出ること)も、体を正体させることも自然とできる。歩く時、右足を出し、次は左、とは考えません。それと同じです」

【まとめ】
 経験を重ねて、こうやれば強いタックルができると知ることは大事です。しかし、その前に正しいテクニックを理解しておく。その上で、自分のタックルを見つけてほしいと思います。

 相手との間合いなどに決まったものはありません。相手と、個人のアジリティや瞬発力によって、一人ひとり違う。正しいスキルを使って、自分の感覚を高めましょう。

 根底に、向かってくる相手を止めたい、勝ちたい、負けたくない、の気持ちがないと始まらないのは事実です。でも、最初はみんな、向かってくる相手にタックルするのは怖い。

 その壁をうまく取り除くためにも、自分より大きな相手に対しても、こうすればバランスを崩し、倒しやすくなると知っておくことがいいと思っています。

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