「私たちはいくつかのレッスンを受けた。負けて学ぶのではなく、勝って学ぶことができたのはラッキーだった」
そう語ったのは、レイザーこと、スコットロバートソン ヘッドコーチ(HC)だった。
今年から新しくオールブラックスのHCに就任したロバートソン率いる新生オールブラックスは、すっきりとはいかなかったがイングランド相手に2連勝スタートをした。
第1戦(7月6日/ダニーデン)は、イングランドの鋭い出足のラッシュディフェンスに苦戦しながらも後半に逆転し16-15のスコアで辛うじて勝利。
第2戦(7月13日、オークランド)も初戦に続いて後半途中までイングランドがリードする展開で苦戦を強いられた。しかし、50分を過ぎたところからロバートソンHCが動き、ベンチから控え選手をピッチに投入した。そこから流れを一気に引き寄せ逆転に成功。結果24-17で勝利した。
ベンチからのインパクトプレーヤーとして特に際立ったのが、背番号22を付けたボーデン・バレットだった。ピッチに入ってすぐさま効果的なプレーを見せた。
125回目のテストマッチの経験を活かし、常にオーガナイズされたポジショニング。左右から繰り出されるキックでピンチをしのぎ、ターンオーバーのきっかけとなるキックチェイスと、まだまだ健在のランでチームを勢いづけた。
そして終了間際には、ゴールラインを越えられたら同点となる局面でトライセーブのタックル。どれをとってもワールドクラスの活躍だった事は一目瞭然だった。
そのバレットが最もスタジアムを湧かせたのは、WTBマーク・テレアの逆転トライを演出したラインブレイクだった。
FW陣の懸命な仕事により、素速いボールリサイクルを経て、パスはSOダミアン・マッケンジーへ。10番からボールを貰ったバレットは、ミスマッチを見つけるやいなや、すかさずディフェンスの間を突破した。
ビックゲインで一気に相手陣22メートルライン内に入り、絶妙なタイミングでWTBテレアにラストパス。教科書に出てきそうな奇麗トライには痺れた(60分)。
ゲームチェンジャー(試合の流れを変える)として、この試合のヒーローとなったボーデン・バレット。試合直後のピッチでのインタビューで、「ベンチで落ち着いて、出場したら求められることをやろうと思っていただけ」と語った。
さらに、「特別なことは何もしていないし、どんな形であれ試合に影響を与えようとしていた」と続けた。いつものようにクールな受け答えではあったが、自身のプレーが逆転に繋がり、その結果チームの勝利に導いけてことに嬉しさがにじみ出ていた。
そんなヒーローに対してロバートソンHCは、「彼(バレット)があのようなパフォーマンスをすれば、80分間ずっと出場させるつもりだ。彼は日本から素晴らしい状態で戻ってきた」。と絶賛した。
テストマッチ2連勝と、好スタートを切ったロバートソンHC。しかし、2戦ともラインアウトは不安定で、相手のラッシュディフェンスに苦しんだ。また、トライを取れそうな場面で取り切れないなど、改善しなければいけない点がいくつか出た。それ故、一部のメディアやラグビーファンからは厳しい言葉が出てた。
しかし昨年のチームから主力が何人か抜けた状態で強敵イングランド相手に勝ち切ったことは評価できる。
オールブラックスのイーデンパークでの30年間の無敗記録は、無事に継続された(47勝2分け)。
◆今季3戦目はアメリカでフィジーと対戦
オールブラックスがホストチームとなっているステインラガーシリーズの最終戦は、アメリカのサンディエゴで現地時間7月19日(金)7:30PM(日本時間7月20日/土、11:30AM)にフィジーと対戦する。
7月18日には試合のメンバー発表があった。ロバートソンHCが、「何人かの選手がチャンスを得るだろう」と話していたように、前週のイングランドに勝利した試合から11人のメンバーが変更となった。
先発メンバーで据え置きとなったのは、キャプテンのLOスコット・バレット、サバティカルを利用して1シーズン日本でプレーしたNO8アーディー・サヴェア、14番セブ・リース。3人については、ゲームタイムが必要と判断されたようだ。
注目の司令塔のポジションには、この試合が節目の50キャップとなるダミアン・マッケンジー。3戦連続で10番での起用となった。
来月に迫っているザ・ラグビーチャンピオンシップに向け、テストマッチレベルでの司令塔の経験を積ませたいのだろ。
クルセイダーズの巨漢PRタマティ・ウイリアムズが1番に入り今季初登場となる。サイズを活かしたコリジョン(衝突)局面でのセレクターの期待が込められている。
2番アサホ・アウムア、3番フレッチャー・ニューウェル、5番トゥポウ・ヴァアイ、6番ルーク・ジェイコブソンが前週のベンチから先発に昇格した。
フィジカルモンスターのFLイーサン・ブラカッダーは、7番で今季初登場。代表の先発は約3年ぶりとなる。
ケガさえなければレギュラーとして活躍していても不思議ではない力がある選手だ。しっかりアピールして、再びレギュラー争いに加われるか。
前週ベンチスタートから悲願の初キャップを獲得したSHコルテス・ラティマは、今週は背番号9を付けて代表初先発となる。デビュー戦のラティマは、リードを許した、プレッシャーのかかる場面での登場だった。しかしそんな状況にもかかわらず、素晴らしいパフォーマンスを見せた。
チーフスのチームメイトであるマッケンジーとのコンビネーションに注目だ。
安定感抜群のCTBアントン・レイナートブラウンが前週のベンチから昇格し、12番でチャンスを与えられた。
最後尾には、司令塔での先発も噂されていたボーデン・バレッが入った。ケイレブ・クラーク、リースの両WTBと、エキサイティングなバックスリーを組む。
◆新人6選手が代表デビューへ
前戦から11人と大幅に変更された選手たちの中には、6人の新人選手が含まれている。
●CTBビリー・プロクター(ハリケーンズ)」
新人の中で一人だけ先発デビューとなるプロクターは、13番を背にテストマッチの舞台に登場する。久しぶりの本格派といえるCTBが、オールブラックス入りしたことは喜ばしい。
レイナートブラウン、プロクターの新CTBコンビは、現レギュラーのジョーディー・バレット、リーコ・イオアネのコンビに負けないくらい、エキサイティングな結果を残すか。注目する価値がある。
●HOジョージ・ベル(クルセイダーズ)
サミソニ・タウケイアホのケガでスコッド入りを果した。今季のスーパーラグビーでは、BKを振り切ってトライを奪うなど、機動力があるところも見せた。
将来性抜群。課題のラインアウトのスローイングが良くなれば、代表定着も十分あり得る。
●PRパシリオ・トシ(ハリケーンズ)
今回のスコッドの中で、最もサプライズ選出と言われたのがトシだ。元NO8。ボールキャリーで前に出る力は持っているものの、フロントローとしてはまだ経験が浅く、代表入りは数年後と思われていた。
スクラムで成長を見せ、スタート、ベンチのどちらからの出場でもインパクトを残すパフオーマンスには、FWコーチのジェイソン・ライアンが恋に落ちた。140キロを超える巨漢ながらも機動力があり、仕事量も豊富。注目してほしい。
●LOサム・ダリー(ブルーズ)
元クルセイダーズで、ロバートソンHCやライアンFWコーチも、その能力の高さを知っている。2メートル超えの身長を活かしたラインアウトの強さがあり、近年はボールキャリーでも強さを発揮している。
スコッド外から、パトリック・トゥイプロトゥのヒザの具合を考慮してリザーブ入り。オールブラックスの課題であるラインアウトでアピールすれば、8月に正スコッド入りとなる可能性も出てくるだろう。
●FL/NO8 ウォレス・シティティ(チーフス)
今季が初のスーパーラグビー参加ながら、着実に力をつけた。プレーオフ準決勝でハリケーンズを撃破した時のパフォーマンスは、ゲームチェンジャーの能力があると印象づけ、セレクターを充分に満足させた。仕事量も豊富で、スピードと強さを兼ね揃えている。ディフェンスを突破できるボールキャリーが魅力だ。
首脳陣は、成熟した頭脳を持っていると評価している。ロバートソンHCと同じポジションだけに期待度は高そう。要注目選手だ。
●SH ノア・ホザム(クルセイダーズ)
TJ・ペレナラがイングランドとの初戦で負傷したことにより、バックアップで呼ばれた。
今季、不調のクルセイダーズで一貫性を保って良いパフォーマンスを出したことから、代表入りの声も多く挙がっていた。
攻撃的なSHで、スピード活かしたランが魅力。ラックサイドを駆け抜けるシーンがデビュー戦でも見られるかもしれない。激戦のSH争いに割って入る能力は充分にある。
オールブラックスにとっては、8月10日から始まるザ・ラグビーチャンピオンシップ前の最後の試合。6人の新人をはじめ、今回チャンスを与えられた選手たちのアピールの場とあり、モチベーションは高いだろう。
対するフィジーは、昨年のワールドカップ準々決勝でイングランドを追い詰めるほど力のあるチーム。オールブラックスもうかうかできない。
サンディエゴのアメリカ人ファンを大いに盛り上げる80分が期待される。