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【超速ラグビーを考える③】キック処理とラインアウトスピード、2つのプレーから。
キック処理が安定していたFB矢崎由高。(撮影/松本かおり)

【超速ラグビーを考える③】キック処理とラインアウトスピード、2つのプレーから。

宮尾正彦


 トヨタスタジアムで行われた7月5日(土)のマオリオールブラックスとの第2戦。前戦は良いところを見せながらも得点に結びつけることができずに敗退したJapanXVだったが、今回は暑さの中の激戦を制して勝ち切った。
 マオリ相手に日本チームが勝ったのは初めて。快挙を成し遂げた。

 この試合の解説、テーマに悩んだ。速さの一つの表出と考えていたラックスピードだが、暑さのため汗でボールが滑る中、速いボール展開がなかなか期待できない。そのため今回は、以下の2つからJapanXVの戦いを振り返る。
 今回も公式データを使用していないため、一部データ結果と異なる可能性があることを予めご了承いただきたい。

4つの効果的なキックとその処理

 天候の影響もあり、か第1戦に比べてキックを多く活用したJapanXV。特に効果的だったのが、相手と競り合うキック(コンテストキック)の処理の成果である。

 表1はコンテストキック数と、その処理結果だ。
 マオリに対し、第1戦、第2戦ともに再獲得を狙ったキック数は同じ程度だったが、この試合ではJapanXVのキック処理が効果的だった。第1戦で1回だった再獲得が第2戦では4回に増え、試合の主導権を握る効果的なパフォーマンスとなった。
 以下にその4場面を振り返る。

①前半6分
 自陣ラックからの⑨齋藤のハイパント。その後発生するラックを安定させるために貢献した、②原田、③為房の寄りが良かったが、何よりキックの精度の高さが素晴らしい。⑭高橋が相手選手をかいくぐり、ミスを誘った。

 こぼれ球に何人もの選手が素速く反応して確保。ラックから⑨齋藤が右コーナーへ再びキックし、タッチへ。このキックも精度が高く、高橋が再度チェイスの位置に立ち、地道に追いかけた。

 さらにフィールド中央から猛烈に追い上げ、相手のクイックスローの機会を摘もうとした⑥下川のチェイスも若い選手のお手本だろう。一気にゴール前に前進することで、序盤の主導権を握るきっかけになった。

②前半8分
 敵陣での攻撃に失敗したものの、⑩山沢がこぼれ球に反応し、相手選手に競り勝った。ボールを確保すると、すぐにキックをして自らチェイス、スピードを活かして再捕球した。
 ⑭高橋へパス。一度ピンチになりかけたが、再び相手ゴール前に攻め込むことができた。

 個人技や派手なパスに目が行きがちだが、最初の山沢のキックをチェイスしようとする⑧サウマキに注目だ。キックオフサイドの位置にいたが、山沢の追い越しまで我慢したあと高橋のキックに対してスピードを変えてチェイス。相手にプレッシャーをかけている。

スペースにうまく蹴ったJAPAN XV。攻撃的にキックを使ったSO山沢拓也。(撮影/松本かおり)

③前半9分
 ゴールラインドロップアウトからの攻撃。⑮矢崎の左コーナーへのキックを⑪根塚がスピードをコントロールして再捕球に成功、22mラインに入って一気にたたみかけ、序盤のトライの起点につなげた。
 利き足ではない左足から絶妙なキックスキルを披露した矢崎は、その後のプレーも良かった。キック後に一度後方へ返るが、ボールを再獲得できそうだと判断すると再びギアチェンジ。ボールを確保するも、孤立しがちな⑫トゥァのサポートにつき、体を張るブレイクダウンプレーでラック確保に貢献した。
 ボールを持った時のプレーだけではないところは、高校生、大学生のお手本になる。

④後半11分
 相手が蹴ったコンテストキックのボールを⑮矢崎が好捕球、カウンターアタックを仕掛けた。⑬長田が(相手側からの)戻りながらの上手いプレーでプレッシャーを和らげた。

 ⑩山沢がディフェンスライン後方への小さなキック。⑭高橋がチェイスし、ブレイクダウンのターンオーバに成功する。山沢のキックは相手にフェアキャッチされるも、相手のキックは中途半端な距離で、消耗したマオリは、ディフェンスに上がれず完全にJapanXVのペースとなった。
 エディHCも思わずタッチライン際に乗り出す勝負所のカウンターアタック後、⑳コストリーのビッグゲインもあった。その後、⑱竹内のトライにつながった。

2つのラインアウトへの速い仕掛けによる奏功

 多くのトライを生む起点であるラインアウトは、ジャンプやスロー、リフトの精度が重要だ。素速くセットしてプレーすること、いわゆるラインアウトインターバル(今回はボールがタッチに出てからラインアウトに投げ入れるまでの速さ/秒)は2つの意味で注目を集める。

 1つは、エディーが提唱する超速ラグビーを実現する要素の一つとなり得る点。ラインアウトインターバル時間を短くすることは、相手の防御態勢に乱れを招く効果がある。相手はラインアウトの(投入側の)人数に合わせて立ち位置を変えないといけないからだ。
 もう1点は、現在施行されている試験的ルールのひとつ、ラインアウトやスクラムを30秒以内にプレーしないといけない、というルールの影響だ。

 表2は第1戦と第2戦のラインアウトインターバルの平均だ。第1戦に比べて長い時間をかけたマオリに対して、日本のスピードはほぼ変わっておらず、さらにマオリよりはるかに短い。
 速さと正確性の両立は難しい。JapanXVもいくつかのミスを犯しているので今後の精度に注目したいところだが、この試合でラインアウトは、インターバルが短く、プレーを速くすることでラインアウトからの攻撃に奏功したシーンがいくつかあった。

1)前半27分/ハーフウェイライン付近
 4人で構成されたラインアウト。出血も見られた②原田が早くタッチラインに移動して素速くスローした。インターバルは17.8秒。画面後方でうろうろしているマオリ選手がいる中でプレーが始まった。

 ラインアウトの選手も的が絞れず、(マオリは)単独でジャンプして反則を犯す。⑧サウマキがタックラーを弾き飛ばす豪快なキャリーで約10m近く前進した後、テレビ画面では分かりにくいかもしれないが、手前側、いわゆるショートサイドの15m程度のスペースにJapanXV選手5人、マオリは2人。しかもマオリの2人はラックサイドに密集していた。

 ⑭高橋、④桑野の前はほぼガラ空きだった。スローフォワードによってプレーは止まったが、大きなチャンスを得たシーンだった。実際は相手反則があったので、JapanXVはさらに前進。相手ゴール前でのラインアウトを得た。

2)後半8分/ペナルティからの敵陣22mライン上
 ボールがタッチに出された後、ハドルを組まず淡々とセット。SHを先頭に立たせる合計7人の布陣で、シンプルにボールを投入した(インターバルは14秒5)。そのあと細かいパスをつなぎながら、バックラインに立つFW選手を狙った。

 マオリ側のディフェンスは、順目、オープン展開するだろうと思っていたようだった。その時、ラックからのボールはショートサイドに走り込んだ⑥下川へ渡る。JapanXV選手たちの素速く、組織だったポジショニングが秀逸だった。

 テレビ画面でも分かるが、囮(おとり)役で走り込んでいるFW2人(⑲ワクァと④桑野)が相手防御を十分に引きつけた。スローワーの②原田が5mライン付近で相手防御を広げている。
 そのお陰で、下川の前には大きなスペースができていた。結果的に相手⑥のタックルで止められたが22m内に入り、相手反則を誘発。貴重な追加点につなげた。

 今回の勝利がどれだけ大きく素晴らしいものであるかは、多くの記事がすでに取り上げていると思う。2022年にはアイルランドを32-17と破っている強豪相手に挙げた勝利はこれから続くテストシリーズにとって、そして今までのエディ体制での取り組みに対する自信につながるだろう。
 ジョージア戦、イタリア戦にも注目だ。

【PROFILE】
宮尾正彦/みやお・まさひこ
1971年10月12日、新潟県生まれ。新潟高校→筑波大。筑波大学ラグビー部FWコーチを経て、1997年から日本ラグビー協会強化推進本部テクニカル部門委員に。1999年のワールドカップに日本代表のテクニカルスタッフとして参加した。2003年4月からトヨタ自動車ヴェルブリッツで、2013年4月からNEC グリーンロケッツでコーチ・分析スタッフを務め、日野レッドドルフィンズを経て、現在、東芝ブレイブルーパス東京でハイパフォーマンスアナリストとして活躍する。2023年はU20日本代表のアナリストとして南アフリカでのU20チャンピオンシップに参加。日本ラグビーフットボール協会S級コーチ。ワールドラグビーレベル3コーチ。オーストラリアラグビー協会レベル4コーチ。

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